『と、トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!』
「そ、蕎麦……なんかコスチューム以前に全部が変わってないか?」
蕎麦はいつもの筋骨隆々なアバターではなく、銀髪の女性アバターで現れた。流石に本物には及ばないが、なかなかの美少女である。
『ほら、今日ってハロウィンだしさ! 僕も頑張って、今まで集めたコスチュームで、仮想してみたんだ!』
蕎麦は吸血鬼のコスプレをしており、給仕長のような真っ黒い衣装に身を包んでいる。蕎麦の口元からは尖った歯がチラリと見え隠れし、それが妖艶さを醸し出している。
「お、おお。似合ってるぞ」
『ほんと!? ふふ、頑張った甲斐があったなぁ』
コスチュームであの大胸筋が隠せるとは到底思えないが、そこはゲームというか、何と言うかだ。
ふと、これを実際に柏木さんが着たらどうなるか、想像してしまう。
『ん? どしたの、カスミ』
てくてくと近づく蕎麦。少しだけ開いた胸元に、思わず目が行く。
「――――ああ、何でもない」
『そっか。あ、そうだ。見て、これ!』
「ん?」
蕎麦はくるりと後ろを向き、背中が露わになる。
そこには――――熊トリスの刺繍がされた、大きなリュックサックがあった。
『可愛いでしょ! さっきショップで買って来たんだ! ……って、カスミ?』
ダメだ。可愛すぎる。
『おーい。どしたの? 処理落ち?』
「――ふぅ。よく似合ってるぞ」
『そうかな? ふへへ、ありがとう!』
「ああ。似合ってる」
リーズナ・ブルクの街は、夕焼け空とハロウィンカラーに染まっている。
ハロウィンは、始まったばかりだ。
◆
早いですがwきっと当日忘れそうなので先に投稿しておきます!w
いつも棘姫をお読みくださり、本当に感謝しかありません……! 棘姫をエタらずに執筆し続けることが出来たのは、間違いなく読者の皆様のお陰です。
これからも棘姫をよろしくお願いしますッッ!
2023/10/29 秋宮さジ