最近はカフェとか言って、お洒落にセルフサービスで機械によって点てられたカプチーノなどの泡だったコーヒーが多く見られる。コーヒーを点てる温度は85℃前後。エスプレッソでは温度が高すぎて苦味が強く、ブラックで飲むのには適さない。私はやっぱり純喫茶と言うと古く聞こえるが、カウンター席があり、四人掛けのテーブルが三,四台置いているこれぞ喫茶店という店が好きである。
まず席の確保だ。必ずマスターがコーヒーを点てる前のカウンターに陣取る。常連だから注文の必要がない。マスターがおもむろに「まいどいらっしゃい。」の一言を言うとマンデリンのコーヒー豆を挽く。そしてネルドリップに入れ一息フッと渋皮を吹き飛ばす。グツグツ沸いているお湯をポットに移し、少し冷ます。もうこの時点で挽かれた豆の香りが漂っている。まず一回目、マスターはお湯をなるべく細く全体を湿らす程度に回しながら注ぐ。香りがたちこめる店内、もう一刻も早く飲みたい気分だが、マスターの手はまだ動かない。豆が膨らんだところで二回目のお湯を注ぐ。泡が立ち、ネルドリップからポタポタとコーヒーの琥珀色の液体が落ちてくる。この段階でコーヒーの味が決まる。そして三回目のお湯を注ぐ。これでコーヒーの美味さを落としきる。この工程を見るためにこの席を確保するのである。洒落たカップに注ぎ、私の前へとコーヒーが置かれる。スーッと香りを嗅ぐ。なんと麗しい香りだろう。そしてカップを持ち色を眺める。まだ口には運ばない。さらに鼻先まで持って行き香りを再び嗅ぐ。幸せのひとときだ。やっと一口熱いコーヒーをすする。まずくるのが苦味、そして渋味、最後にほのかな甘味が口の中に広がってくる。至福、この言葉がピッタリくる。マスターの顔を見ると「どうだ。」という顔をしている。私は素直に目で「GOOD JOB」と答える。