あれからどれだけの時間を過ごしたのだろう? 私が分岐させた世界のあの人は幸せだろうか?
私は、さらに幾人もの死を見届け、幾人もの人を救った。
胸が苦しい。私はもう……これ以上耐えられない。
人の願いを叶えるのも、叶えられないのも、もう疲れた。
あの人に会いたい。一目だけでもいい。
……。
いや、嘘だ……。
本当は、抱きしめたい。抱きしめられたい。隣にいて欲しい。あの人の笑顔が見たい。
自分の幸せを感じたい。あの人と共に生きることが私の幸せ。
私はカミとして生まれたけれど。
沢山の人を不幸にしたけれど。
もう、許して。罰は充分でしょう?
会いたい……あの人に。
誰か、誰か私の願いを叶えて。
お願いします。
私以外のカミがいるのなら、誰か私の願いを叶えて下さい。
お願いします。
もう、自分を押し殺すのは嫌なんです。
お願いします。
あの人に会えるのなら……私は……。
どうか……。
どうか。
カミサマ。
……。
その時、風が吹いた。
目の前の空間が歪む。
その中から、鋼鉄の人型機械が現れる。
機械は……跪き、その背中の扉を開けた。
扉から顔が覗く。
私の好きな顔が。
願ってやまなかったあの人の姿が。
その人は、急いで駆け寄って来ると私を抱きしめた。
彼の中から私の体が浮かび上がる。地面に立つという懐かしい感覚がする。抱きしめられる喜びを思い出す。抱きしめる嬉しさを噛み締める。
耳元から優しげな声が聞こえた。もう数えることすら忘れてしまったほどの年月、ずっと聞きたかった声。
頬を暖かい物が伝う。
心が、急激に温度を取り戻す。
……嬉しい。
嬉しい。
もう、離れたくない。
離したくない。
ずっと私の側にいて。
私をずっと側にいさせて。
私の大切な人。
◇◇◇
……。
あなた、見に来たの? それとも偶然?
……不思議だね。何も知らずに見たのなら、全く意味が分からない話。
でも、私にとってはずっと見たかった話。
そんな話も、あるんだね。
……。
私は自分の居場所へ帰るね。
バイバイ。
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