• 異世界ファンタジー

一章終了時点でのキャラクター設定、世界観用語設定など

◆拝光教に伝わる創世神話

我々人間は、元は|照耀《しょうよう》の世界の住人だった。その世界には闇を消し去るほどの強い〈輝き〉があり、まるい大地がその〈輝き〉の周囲を回る事によって、〈輝きの日〉と〈暗闇の日〉が交互に訪れていたという。

その照耀の国に強大な災いが降りかかった時、大勢の人間が命の危機に瀕した。照耀の王はその全てを救おうと腐心されたが、どうしても叶わない事が分かった。

照耀の王は国民達を前に、『救う人間』と『救わない』人間の選択を迫られた。心優しき照耀の王が心を痛めていたその時、|常夜《とこよ》の王が、我らの〈王〉が現れたのだ。

〈王〉は自らの空っぽの世界に、照耀の国の民の半分を受け入れた。それは並大抵のことでは無かった。常夜の国はその名の通り、〈輝き〉が少ない世界だ。そのあまりの暗さに、照耀の民はすぐに根を上げ、不満を口にした。

〈王〉は友である照耀の王のために、心を尽くして人々の不満に応えたが、人間の欲求は計り知れなかった。

欲求は争いを生み、争いは怒りと憎しみを生んだ。照耀の民はいくつかのまとまりに分かれ、〈輝き〉を求めて武器をとり殺し合った。照耀の民の愚かしさに〈王〉は嘆いた。初めてこの世界に〈混沌〉が生まれた。

やがて〈混沌〉から獣が湧き出し、照耀の民を襲い始めた。人々は戦争どころではなくなった。獣に立ち向かうために人々は肩を並べ、彼らのその様子に〈王〉は安堵した。しかしそれもいっときのことだった。

人々の心には不満が燻ったままだった。邪な思いは混沌を育み、そこからさらに獣が生まれる。激化する獣との戦いのために更なる〈輝き〉が必要となる。戦いの裏で、人は騙し合い、奪い合い、溢れる悲しみと憎悪はとめどなかった。

常夜の世界は地獄と化した。

そして〈王〉は去った。

残された者が気づいた時には、荒れ果てた世界と、三つの鐘楼の〈輝き〉だけが残されていた。人々は自分たちが犯した罪を悟り、〈輝き〉を分け合って、慎ましく生きる事を〈王〉に誓った。

そうして〈ボーグ〉〈トリグラフ〉〈レア〉の三つの都市は生まれた。都市は互いに不可侵を約束し、人間同士の長きに渡る争いは終結した。

しかし、獣との戦いは終わっていない。百年前に〈レア〉は〈混沌〉に沈んだ。〈ボーグ〉と〈トリグラフ〉もいつまで持つかわからない……





◆キャラクター

・ベルクト

全身を濃紺の羽毛に覆われた獣。ミミズクとネズミを足したようなイメージ。身長は約二メートルと大柄。手足には鋭い鉤爪が、頭頂には耳のような飾り羽がついている。
雑食で、肉はミディアムレアが好き。性別は男(オス)。

狩猟採集で〈輝き〉を集める〈|燈採《あかりと》り〉を生業としており、人が立ち入らない危険な〈隠者の森〉で暮らしている。

長命で博識だが、〈混沌〉による発狂を回避するため、記憶のほとんどを失っている。
ジラーニィとの接触で刺激を受け、断片的に過去を思い出しつつある。

魔術特性は不明だが、〈王〉の力である〈闇夜〉の魔力を限定的に行使する事ができる。

本名は⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎。忘れているので呼ばれても認識できない。




・ジラーニィ

髪も肌も真っ白な子供。幼児。目の色は白群。両足に三本の黒い杭が突き刺さっており歩けない。性別はない。
干した果実(ベリー)と、ベルクトの影響で肉が好き。

純粋な人間ではなく、獣でもない。奇妙な存在。〈輝き〉の魔力の申し子であり、ジラーニィを手に入れた者は、制御不能なほど莫大な力を得る事ができる。

ジラーニィは〈輝き〉を失うと灰色の人形になり、乾いた土のように崩れ去る。

黒い杭の呪いはジラーニィから自由を奪っている。特に移動や逃亡に対して強い制限がかかる。

「〜の」が語尾につきやすいの。





・イヴラクシア

ハリボテの聖女。生まれつき美しく輝く金髪を持つ。それ以外は肌も目も真っ黒な、常夜の世界の普通の人間。十八歳。

いつの間にか聖女に祭り上げられていたが、本人の気質は路地裏で暮らしていたクソガキの頃からあまり変わっていない。
聖女を演じる時だけちゃんと正装をして、淑女らしくたおやかに振る舞う。ただし疲れるとすぐに脱走する。

〈ボーグ〉の貧民街はイヴラクシアの故郷であり、住人はイヴラクシアの事をよく知っている。イヴラクシアが案内する客は丁寧に扱われるが、そうでないものはぼったくられたり、スられたり、みぐるみを剥がされたりする。



・エルド教皇

〈|拝光教《はいこうきょう》〉の敬虔な信者。五十九歳。

慈善家で孤児の救済に熱心だったが、資金繰りに困窮し、救えなかった子供たちの悲惨な末路に心を痛め続け、ついに獣に堕ちてしまった聖人。

ジラーニィに救われてからは、以前のように清貧な暮らしに戻る。

教皇の肩書きは近いうちにイヴラクシアに譲られる。イヴラクシアは拒否したが、キーランに説得されて渋々跡を継いだ。




◆用語、世界観


・|常夜《とこよ》の世界

七千年前に〈王〉と呼ばれる存在が創り出したとされる異世界。
面積は約八万平方|粁《キロメートル》(北海道くらい)、人間の居住可能地域は鐘楼近辺に限られ、全体の百分の一にも満たない。人口は全体で百万人ほど。 

鐘楼を擁する主な都市は、かつては三つあったものの、現在は二つになっている。
古くから〈|拝光教《はいこうきょう》〉の聖地である聖堂都市〈ボーグ〉。
武力で混沌の獣に立ち向かってきた城塞都市〈トリグラフ〉。
〈ボーグ〉の姉妹都市であり、かつては巡礼の出発地点だった、〈混沌〉に沈んだ都市〈レア〉。

太陽は存在せず常に暗い。昼夜の概念が消えている。自転公転もないため星は基本的に動かない。舞台装置やプラネタリウムのような作り物の夜空である。

気温は摂氏十度前後で固定されている。薄着だと少し寒いくらい。

たいていのものが黒く、大地も水も草木も色相環に当てはめるとダル、ダーク、ダークグレイッシュに属する。
それを摂取して生きている人間たちも、元の人種に限らず黒い肌と黒い髪になる。黒い肌といっても現実の黒人のような肌の赤みすら無い、冷たくて深い黒。



・〈王〉

かつて実在した、途方もない力を持った存在。〈拝光教〉では神として崇められる。

常夜の世界を創り出した直後は直接人々を統治し導いてきたが、〈混沌〉の発生を契機に〈王城〉の外へ出なくなり、その後〈王城〉ごと消えてしまう。

現存する彫刻や絵画から、男性で、長い衣を纏って杖を持ち、頭に鳥の冠をつけていた事が分かる。


・〈輝き〉

〈王〉の魔力の一部。夜の世界で星を象るもの。唯一の光源。

星や炎といった現象以外にも、鉱石や花、虫などの様々な物質の形で存在する。

暗闇の中で生きる人々の心の拠り所であり標。
照度ゼロの完全な暗闇の中では、人は鬱状態に陥り、やがて発狂する。

常夜の世界で人間は発狂すると〈混沌〉に溶けて消えるため、〈輝き〉の喪失=自己の喪失ととられ、〈輝き〉自体が個の存在証明のようにして扱われる事もしばしば。

食料や水ほど直接的に生命維持に必要なわけではないが、〈混沌〉に呑まれず精神を安定的に保つためには必要不可欠。

ただし魔力の塊であるため、過剰に摂取すると生物としてのバランスを崩し、怪物化したり、自壊して混沌に消えたりする。


・〈闇夜〉

〈王〉の魔力の本質。滴り落ちるほど重厚な夜の闇。

常夜の世界を構成する暗黒物質であり、世界における明確な『座標』が定められている。
つまり〈闇夜〉の力を行使できる者は、まさしくこの世界の構造そのものに干渉でき、『座標』を動かす事によって、強度や質量を無視して物を割ったり動かしたりできる。
(なおベルクトが借り受けている力は極めて限定的なもので、爪の攻撃に無敵貫通防御無視効果が乗る程度のもの)

〈闇夜〉だけで構成される世界は、果てのない虚空にも見えるし、一方で息苦しい狭窄感も感じられる。漠然とした恐怖と、途方もない孤独感が、人間を発狂に至らせる。
〈輝き〉がある事によって初めて人は空間を正しく認識でき、生きていく事ができる。

〈輝き〉と〈闇夜〉は正反対の性質に見えるが、互いに消しあうことは無い。なのでベルクトは〈闇夜〉の爪で教皇の体内からジラーニィの〈輝き〉の短剣を回収する事ができた。


・〈混沌〉

常夜の世界は〈王〉が創ったものだが、人間はそうではない。
人間が生来持つ魔力や、感情、魂と呼ばれる〈王〉の制御下に無いものが、折り重なって膨れ上がり、澱のように積み上がったものが、〈混沌〉と呼ばれる物質(もしくは現象)である。

汚泥のように目に見える物質として存在する時もあれば、人の負の感情のように目に見えず育まれる時もある。

〈混沌〉は〈輝き〉〈闇夜〉とは相剋し、強い方が弱い方を消してしまう。
現在の常夜の世界は〈混沌〉が大きくなっているので、いつか〈混沌〉が全ての〈輝き〉を消し去ってしまうのではないかと、人々は恐れている。



・獣

〈混沌〉から生まれるモンスター。〈混沌〉の性質上、発生には大きく分けて二つのパターンがある。

ベルクトや教皇のように、心の中で〈混沌〉が育ち、人を捨ててしまうパターンと、物質として存在する〈混沌〉から自然発生するパターン。
後者は言葉も喋れない完全なモンスター。序章冒頭の雑魚から、都市を潰すような大物までいる。



・魔術

素養のある人間が使える神秘的な能力。

〈王〉が魔術の使用を禁じた伝説があり、〈|拝光教〉では使用が全面的に禁止されている。


・〈|光を運ぶ者《フォスフォラス》〉

過剰に摂取すると暴走する〈輝き〉の偏りを阻止するため、ベルクトが自発的に担った役目。

なぜそんなことをしようと思ったのかは、本人が記憶を飛ばしているため不明。

〈燈採り〉という仕事は元々〈|光を運ぶ者《フォスフォラス》〉に憧れた人々が始めたもので、武力や財力に関係なく、全ての人に〈輝き〉を行き渡らせる事を信条としている。

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