色々あった岩屋根の下から、ようやく出発。
とはいえ、大半の客たちにとっては、偉ぶっていた貴族が刺されて体を切り開くやり方で治してもらって、その後にまた何か騒ぎが起きたみたいだけどよくわからず、いきなりものすごい恐怖に襲われて、その根源がぼろぼろだとわかり、山の一部が崩れていたきっとあいつのせいだ……という、フィンを恐怖の根源と思っただけでした。
実際に何が起きどういうことになっていたか、フィンの反応速度のおかげで一瞬の差で全滅を免れていたことを知っているのは、カルナリアやレンカ、セルイ、ゾルカンたちだけです。
かくして、フィンは一行にくっついてきた疫病神も同然となってしまいました。本当は一番の功労者、全員の命の恩人なのですが。カルナリアは憤然としていますがフィンはまあそんなものだよくあることだとその点については気にしていません。そういうところだぞ剣聖なんて呼ばれるの。
そして『流星』というとんでもない魔法具の存在をゾルカンたち案内人がしっかり目撃し認識しましたが――フィンやファラのとてつもない能力を目の当たりにして、奪おう、盗もうとする目論見を全面的に禁じています。根がお姫さまのカルナリアは経験していませんが、弱そうな客の持ち物を案内人が奪う、ということは割とよく起きています。「それいいな。ちょっと貸してくれ」でもう戻ってこない、というような。彼らは決して善人ではないのです。
そんなこんなで、カルナリアはカルナリアで人の内臓を直視したり土下座しかけたり死に物狂いで駆け回ったりして無我夢中でしたが、気がつかないところでやはり色々な思惑や計算が飛び交っていたのでした。
王女として一年生活するよりも濃密な経験を積ませてくれた休憩所から、やっと出発、この日の後半戦のはじまりです。
……そしてネタバレ空白開けます。
死の恐怖を撒き散らすものとなってしまい、カルナリアと離ればなれでいなければならなくなったフィンですが、実は意外にそのことについては怒っていません。カルナリアに恐怖の目で見られたことに傷つき、悲しく思ってはいますが、やろうと思えば自分から近づくことは容易なので。
ファラは推測しただけですが、実際はやっぱり、ぶちかました死滅魔法を、死神の剣を通じてザグルが大変おいしくいただいていました。フィンは自分の前に剣を立てて盾にして浴びせられた分を吸わせただけですが、最初からそれが来るとわかっていれば周囲に一切影響を及ぼさずファラに突き刺してすべてを吸いとることができていました。その結果、ファラはザグルにマークされる存在となっていたでしょう。現状でも実はフィンにしつこく「あれは美味かった、またやらせて吸わせろ」と告げてきています。無視していますが。
また、ずっと後の方で、実は死神の剣は斬った(死を与えた)という結果を先送りすることができると判明し、それによってある人物が片づけられていますが……泥の中で、ファラにそれをやっています。こんな真似をやらかす人物を放っておくわけがない。もしファラが本気でカルナリアを害そうと覚悟を決めたら、その瞬間に首が落ちていたことでしょう。
散々セルイに叱責され落ちこんでいたファラですが、実際はもっと危うい、逃れられない状態に置かれてしまっていたのです。自業自得ですが。
そしてその原因が――自覚している以上に強烈なセルイへの思慕だというのもまた皮肉。自分に何を言われても何をされても通常の怒りしか示しませんが、セルイに危害を加えるということを示唆された瞬間に炸裂します。これまでやらかしたのもすべてそれが原因でした。周囲は全滅しているので当人以外に原因を見つけ出すことができず、その当人が自覚できていないのでどうしようもない。
ガルディス陣営ですらセルイでなければ御すことのできない危険人物として敬遠され、王宮襲撃という最大最強の魔導師が待ち受けていること間違いなしの戦場に参加していなかったのはそれが理由でした。ほぼ単身でタランドン領へ乗りこむという危険な任務を与えられたセルイにつけられたのも、暴走してタランドンを消滅させるのならそれはそれでよし、というガルディス陣営の身も蓋もない判断によるものです。
そういう人物がまさか、「砦」の「あれとの戦い」を経て、あんなことにまでなろうとは。このメガネおっぱいもまた、当初の構想から大きく逸脱した人物です。
話変わって、異変により起きてきたトニア。
実はここを書いた時も、彼女の能力や正体については明確に決まっていませんでした。本当に詐称して奴隷に落とされただけの美女か、凄腕魔導師だけど罪を犯してグライルに逃げこんできた存在か、それともやはりレイマールの隠し子か。
謎のままにしておいて書き進めて、色々確定したのはずっと後の方です。
後で決めた彼女の特殊能力からいうと、雨の時間帯に彼女が姿を現したというのは……と、こちらは付合する結果になって結果オーライというやつです。
さてさて、めちゃくちゃ色々あった岩屋根パートもようやく終わり、ゆっくり休めそうな湖畔の村…………と思ったら、まさかそこであれほどのことが次から次へと起きようとは。
ついに死者も出る地獄の三日目、あらためてお楽しみください。