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エッセイのようなもの『音楽史の分水嶺が誕生した瞬間』

『音楽史の分水嶺が誕生した瞬間』

 私は音楽が好きで、特に洋楽をよく聞いていた。ビールのCMでQueenの曲が流れていたのがきっかけだ。
 音楽にのめり込む過程でボブ・ディランの曲と出会う。60年代アメリカのフォークソングは彼を中心に語られる。また、当時の公民権運動と密接に関わりがあり、それも考慮されて、2016年にボブ・ディランのノーベル文学賞授与が決定されたのだろう。
 
 彼の作品の中で『Like a Rolling Stone』が私の最も気に入っている曲の一つで、彼の得意とする従来のアンプラグドなフォーク路線から、エレキギターやオルガンといった電子楽器を取り入れ、音楽ファンからさらなる支持を得た作品である。

 しかし、従来のフォーク路線を支持していた当時のファンたちはこの作品について、電子楽器を取り入れたことで、ボブ・ディランはフォークを捨てて、商業主義的な、いわゆる音楽ファンに媚びた作品を作り始めたと見なされ、懐疑的であったようだ。
 それでも、ボブ・ディランは『Like a Rolling Stone』を引っ提げ、ライブ活動を行う中、1966年5月17日、英、マンチェスターでのフリートレードホールで行われたライブでの出来事だった。
 
 セットリスト最後の曲であるLike a Rolling Stoneが始まる前に、観客の一人がボブ・ディランに向かって叫ぶ。

—Judas!(裏切り者!)
—I'm never listening to you again, ever!(おまえの曲は二度と聴かない!)

 歓声が湧き上がる。ボブ・ディランの音楽性に懐疑的だったファンたちが、彼の突然の方向転換を否定したのだ。マイノリティを声を汲み上げてフォークソングに昇華していた彼は、突然、彼自身の作品の従来の作品たちを、彼が作り上げたフォークソングの定義を彼自身が破壊したと観客が意思表示したのだ。

 しかし、ボブ・ディランは、
—I don't believe you(お前を信じない)
—You're a liar(お前は嘘つきだ)
 と、応えて後ろのバックバンドへ振り返り、
—Play it fuckin' loud(クソデカい音で演奏するぞ)

 そう言って『Like a Rolling Stone』の演奏が始まるのだ。

『Like a Rolling Stone』は2004年、米、ローリングストーン誌が選んだ「ローリングストーンが選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500」で一位獲得する。
 それは、ローリングストーン誌と同じ名前の曲だからという理由ではなく、『Like a Rolling Stone』という曲が後世のロックシーンに多大な影響を与えたからだ。

 そして、個人的このやりとりは、音楽シーンの中で最高にかっこよく、エモい瞬間だと思っている。
 ロックが始まった瞬間であり、それと同時に死んだ瞬間だと思う。
 そして、このやりとりがあったのが、いわゆる現代のポップスが生まれたイギリスで行われたというのも感慨深い。

 一連のやりとりは、『ロイヤル・アルバート・ホール』または『No Direction Home』で聴けるので、興味を持った人は聴いてみてください。


 

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