淀んだ熱の塊。形あるものに熱を与え、留め、アリの生よりも早く腐敗させる。
星を滅ぼす怪物がいた。
幾千幾万の英雄豪傑勇者も、王も奴隷も預言者も、怪物を殺すことはできない。
たったひとつの堕天。川に石を置く場所を定めるが如く、流れを留める神の杖。終わりに光を拝領し、ついに燃えることのなかった澱み。
「消えてくれ」と天地が願った。
「哀れ」と、一人が歩を進めた。
一人は女であり、女は『聖なる』を冠する。
女は杖を持ち、真っ直ぐと山を越えた。
醜く恐ろしい怪物を前に女は、杖の先を掲げ語りかける。
「これをあなたに。あなたの献身に光では軽すぎた。わたしの生よりずっと長い時で、どうか我らの願いを叶えることを」
怪物持つ心の臓より内を、杖の先が刺し貫く。杖は刃なき柄であり、されど槍であった。
女は自らを聖女と語り、贄と呼ぶ。
怪物は女を喰らい、自らを封じた。
流れは速く。流れは天地を巡り、熱は恵みとなる。
やがて時は流れ、聖女の物語はあまねく諸国で語られよう。
聖なる乙女、槍の守護たる聖女。
槍を与えられたる勇敢な青年よ、おぞましい怪物をよくぞ討ち取らん。
聖女と青年。
この者たちこそ、暁の先へと世を進ませた。
「彼女は一人だったし、乙女というほど若くはなかったよ。なんて、怒られてしまうかな。……さて、と。世界が滅ぶ前に探さなくちゃね。きっといる、僕を殺せる人が。…………やくそく、だからね」
怪物は聖女の意志を継がんと、自らを殺せる者を待つ。
その手元には、必ず聖女の物語が寄り添うだろう。
こんな世界。世界がちょーっと循環早くしたので、流れに乗って何処にでもいるし、熱による蜃気楼みたいなものなので不滅。本体はおねんね。
いろんな場所に行くでしょう。いろんな人に出会うでしょう。いろんな別れを知るでしょう。
それでも、怪物は歩みを止めません。
だって怪物はすごいですから、何一つ忘れないのです。
大切な約束を、放りだしたりしないのです。
いつかきっとたどり着くでしょう。聖女が願った、優しく輝く結末へ。
そのさきは……ちょっと分かりません!