七月上旬。一学期の終盤、期末テストが来週に迫った頃。
灼熱地獄から避難する私と島本は、冷房の効いたスタバへと飛び込む。
「し、死ぬかと思った……どんだけ、暑いんや……」
「見て見て! 最高気温、更新やで!」
スマホを差し出す島本。画面には――『〇〇市・最高気温39℃観測。歴代最高を更新』というニュース。
「全然嬉しくない発表やわっ! 物価は上がるわ、逆に消費税は下がらへんわ」
「それなー。バイトしてても、お小遣いすぐ消えるし」
文句をこぼす自分に、彼女は頷きながら、限定のフラペチーノをちゅ~っと吸う。
「物価高と言えば……うちのオカン、スーパーのハシゴしてんねん。毎日、自転車漕ぎまくってて、太股が競輪選手や! 筋肉は、ちょっと怖いけどな」
「ブフッ……」
「なに笑っとるんや。オカンは、家族の為に、汗を垂らしてんねん。それ、笑うとこやないで」
噴き出してしまった私は、「ごめん、ごめん」と謝罪。
「物価もそうやけど……円安も、どうにかせなアカンわ。外国人さんには、『日本、めっちゃ安い!』って、嬉しい誤算やと思うけど」
最近。駅前や商店街で、外国人の観光客を見る機会が増えた。カタコトの日本語で道を尋ねる声、スマホで写真を撮る姿。
「インバウンド需要やろ? あたしに任しとき」
「ん? 島本、英語とか話せたっけ?」
(……確か中間テスト、赤点ギリギリやったはずや)
首をひねる私に、島本は、あっけらかんと言う。
「いやぁ〜、全然話されへんよ。でもな、意外に顔芸とジェスチャーで、9割は通じるねん」
「ふぅん。じゃあ、今度町で外国人に出くわしたら、島本に全責任を押しつけるわ。私は、電柱の陰に隠れて、応援しとるから」
「あたしを一人にする気か! こいつ、とんだサディストやんけ!」
彼女の目が、裏切り者でも見るように、ぎょっと見開き、私はその顔に耐えきれず爆笑した。
「ジョークや」
「ほんまかー?」
「ほんま、ほんま」
友人の追及を避けるように視線を横へずらす。――と、窓の向こうの太陽が、アスファルトを溶かす如く照りつけていた。その光を見つめているだけで、帰宅の道が、砂漠の横断みたいに思えてくる。
「……なぁ、島本」
「あんたが言いたいこと、わかるで」
このまま出たら、無事に帰れるかすら怪しい。
「「……ハァ」」
シンクロするため息。
「早く、秋になってほしい。マジで」
「それなー」
涼しさはまだ先。結局、日が沈むまでテスト勉強をしてから、帰宅する私たちだった。
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