【前書き】
お久しぶりです。
一年ほどファンタジーチャレンジを続けておりましたが、ダメそうです。
素直に「私が面白いと思える話」を考えていたら、
なんか生まれたので本当に執筆します。よろしくお願いします。
【タイトル】
庶民になった元お嬢様 ~ボロアパートにやたらと上品な子が引っ越してきたと思ったら上昇志向つよつよな世間知らずお嬢様だった件~
【キャッチコピー】
ファミレスの領収書……お会計の単位はドルですの?
【本文】
金持ちになりたい。
全人類が一度は抱いた夢だと思う。
俺もそうだ。
金持ちになりたい。
具体的な方法を考えたこともある。
だけど行動に移したことは一度も無い。
だって、どうせ無理だから。
例えば宝くじ。テレビなんかで一等三億円みたいな数字を耳にすれば、ほとんどの人が夢を見ると思う。だけど実際に宝くじを購入する人は少ないはずだ。
だって、どうせ当たらない。
夢を買うなんて言葉があるけれど、少なくとも俺には、そんな余裕すらない。
俺は金持ちにはなれないのだと思う。
一発逆転の奇跡を妄想する程度が関の山で、それを現実に変えるための道筋なんて想像することもできない。
だから俺は、無難に生きている。
いつも朝から夜まで必死に頑張って、小さな夢を追いかけている。
俺の夢は、ちょっぴり豊かな生活を手に入れること。
最愛の妹と共に、風が吹けば揺れるようなボロアパートを抜け出して、小さな地震なら気が付かない程度のそこそこ新しいマンションで生活すること。
多分、必要な年収は六百万円くらい。
具体的な方法は、東京の大企業に就職すること。
これが庶民の限界値だと思う。
年収一千万とか、株で一億稼ぐとか、芸能人になるとか、そういうのは妄想だ。
必死に勉強して、情報を集めて、面接官ガチャに勝利する。
実に夢の無い話だけど、これって排出率1%未満のSSRなんだぜ?
ほんと、夢の無い世界だよな。
不満を言っても仕方がないけれど、こういうことを考えると虚しくなる。
金持ちか、庶民か。
多分、生まれた瞬間に決まっている。
接点なんて無い。住む世界が違う。
だけど、人生で一度くらいは話をすることがあるはずだ。
どういう人達なのだろう。
もしも機会が得られたら、色々と話を聞いてみたいものだ。
──四月の末。
ほんの少し肌寒い夜のこと。
妹が待つ部屋に帰る俺は、なんか見た。
ずっと空室だった隣の部屋の前。
やたらと上品な女性が正座している。
高そうな服。
アイドルみたいに白い肌と美しい黒髪。
それはもう場違いだった。
写真を撮って「ボロアパートとお嬢様」みたいなタイトルでコンテストに出せば、佳作くらいは貰えそうな非現実感がある。
「……もし」
声をかけられた。
流石に無視できなくて立ち止まる。
彼女は潤んだ瞳で俺を見上げて言った。
「ディナーは、いつですの?」
この子は何を言っているのだろう。
そんな疑問を抱いた直後、音が鳴った。
それは空腹を訴える|狂騒曲《カプリッチョ》。
再び訪れた静寂に添えられた赤面は、実に居た堪れないものだった。
「夕飯、ご馳走しましょうか?」
しばらく悩んでから提案した。
彼女は一瞬だけ目を輝かせ、とても恥ずかしそうに頷いた。
──誰が想像できるだろうか。
この出会いが、人生を大きく変えることになるなんて。
【あとがき】
「続きが気になる!」という場合には何かしらリアクションを頂けるとモチベーションに繋がります(*ノωノ)