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次回作の候補3「現代ドラマ(Vtuber物)」

〇タイトル
マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

〇キャッチコピー
【急募】ヒキニートがVtuberになって100万人のファンを集める方法

〇本文
01.弱くてニューゲーム

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『お前らさー、人生ガチャで何が一番強いと思う?』

 彼女は個人Vtuberのミーコ。
 視聴者数が一桁のマイナーな存在である。

『兄、兄、兄……ヌヒヒッ、それな!』

 彼女はコメントを読むと特徴的な笑い声をあげた。

 現在の視聴者数は全部で四人。
 少ないながらも熱心なファンが多く、配信中はコメントが途絶えない。

『ミーコって親ガチャとか友ガチャとか自分ガチャとか大事なガチャ外しまくりだけど、兄ガチャだけは大当たりなんだよね』

 少し大人びたハスキーな声。
 彼女はアバター越しでも分かるような笑みを浮かべて言う。

『お兄ちゃんは頭が良くて、年収は一千万以上で、家事は全部やってくれて、しかもミーコのこと甘やかしてくれるの♡』

:相変わらずの非実在お兄ちゃん
:ミーコの妹に生まれたいだけの人生だった

『実在しとるわ! あと妹枠はミーコだけですぅ!』

 彼女は全てのコメントに返事をする。
 これは視聴者が少ないマイナーVtuberにしかできないことであり、熱心なファンが多い理由でもある。

 現在、彼女はノベルゲームをプレイしている。画面をクリックしてストーリーを読み進めるだけの単純なゲームである。

 ゲームの主人公はアラサーの女性。
 親ガチャを外したことで性格が歪み、高校を中退してから引きこもり生活を続けているという設定だった。

『なーんか他人に思えないんだよね』

:草
:ミーコはアラサーだった?

『違う違う。細かい設定とか、ヒキニートっていう部分とか、そういうところ』

 ゲームの内容はとても重い。
 しかしミーコと視聴者の掛け合いによって、配信は明るい雰囲気で進行した。

 だが、その雰囲気はゲームの中に伝わらない。
 物語のラストは、主人公の自殺という後味の悪いものだった。

『お兄ちゃんが居なかったら、ミーコもこうなったのかな』

 ミーコはポツリと呟いた。

『ねぇ、お前ら。ミーコ、どうやったら有名になれるかな?』

:コラボとか?
:お兄ちゃんが切り抜き動画をバズらせる
:ミーコは今のまま細く長く続けてくれ

『コラボは無理。ミーコ、コミュ障だから。切り抜きは有りだよね。お兄ちゃん配信とか観ないけど。最後は論外』

:論外www
:非実在お兄ちゃんならイケるイケる
:ミーコ、なんで有名になりたいの?

『有名になりたい理由は、お兄ちゃんの妹だからかな』

 彼女は声のトーンを落として言う。

『お兄ちゃんは、すっごい努力家なんだよ。ミーコと一緒で親ガチャ大外れなのに、自分の力だけで成り上がったの。なろう小説の主人公みたいに』

:お兄ちゃんは転生者だった?
:ミーコなろう小説とか読むのか

『ミーコ、お兄ちゃんみたいになりたい』

 彼女は強い意志を感じさせる声で言う。

『お兄ちゃんに、ミーコのことは心配しなくても大丈夫だよって言いたい。お兄ちゃんの幸せを優先してねって伝えたい』

 そして視聴者の前で、初めて夢を語った。

『だから、有名になりたい』

:健気過ぎる
:兄妹愛最高かよ
:ミーコ泣いてる?
:バズったら俺が出資して映画作らせるわ

『最後のやつ言ったな? 魚拓取るぞ』

:この配信魚拓とか無いだろw
:とりまスクショした
:登録者数100万人超えたらマジで良いよ

『お前マジで覚えとけよ。絶対100万人超えてやるから』

 ミーコの声が明るくなる。
 それに釣られて視聴者達のコメントも加速した。

 一見すると、冗談を言い合ったような一幕だったかもしれない。

 だけど彼女は本気だった。
 現実から逃げて逃げて逃げ続けたミーコが、初めて立ち向かうことを決意した。


 ──十年前。
 当時のミーコは高校生だった。

 選んだのは女子高。
 友達に合わせて進学した。

 だけど途中で友達と喧嘩した。
 学校に居づらくなったミーコは、逃げた。

 逃げて逃げて逃げ続けて、気が付いたら惨めなヒキニートだった。

 ミーコの人生は詰んでいる。
 当たり前のことだ。十年も逃げ続けたのに、普通の人と勝負して勝てると思う方がおかしいのだ。普通の人は成長しているのに、ミーコは弱いままなのだから。

 やり直したい。アニメやゲームみたいに、幼い頃に戻りたい。そしたら今度は逃げないのに。絶対に本気で立ち向かうのに。今よりずっと、幸せになるのに。

 だけど、時間は戻らない。
 ミーコの未来にあるのは、過去を悔やみながら生きる惨めな余生だけ。

 そのはずだった。

 一人だけ、ミーコを見捨てなかった。
 それは彼女の兄である。ミーコがヒキニートになった後、両親は何もかも諦めた。だけど兄だけは、いつまでもミーコを諦めなかった。いつか前を向いて歩きだすことを信じて、ずっと傍で支え続けてくれている。

 両親が共に他界した後、兄は実家を売り、ミーコを引き取った。それから二人で生活している。

 ある日、兄は言った。

「何か、やりたいこと、ある?」

 ぎこちない問いかけ。
 ミーコは俯きがちに言った。

「……ちやほや、されたい」

 こうして、バーチャルの存在としてのミーコが生まれたのだった。

 ミーコは数年振りに人と話をした。
 相手の言葉は文字だけなのに、楽しくて仕方がなかった。

 楽しいと思うほど感謝した。
 兄に感謝するほど、申し訳ないと思えた。

 自分は兄の負担になっている。
 だから……だから、この夢を持った。

 100万人のファンを集めて、お兄ちゃんに「もう大丈夫だよ」って伝える。

 絶対に無理だと思う。
 だってミーコはクソ雑魚だから。

 でも、そんなの諦める理由にはならない。
 弱い人は挑戦しちゃダメなんてルールはどこにもない。

 つまりこれは、そういう物語。
 強くなった後で新しい挑戦をすることが「強くてニューゲーム」なら、これは真逆の物語。逃げて逃げて逃げ続けたミーコの全く新しい挑戦──

 マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲームが、始まったのだった。



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