『CRUMBLING SKY』
https://kakuyomu.jp/works/16818622175236685267今回で無事、完結です。
異能×ミステリ×ヒューマンドラマ×SFと、ジャンルを複数跨いだ不思議な物語でした。
『犯行』
ニュース記事形式による導入は、読者に客観的な情報を与えながらリアリティと臨場感を強く打ち出してパンチを効かせました。
後半では会話劇へ移行し、感情の揺れを丁寧に描いています。
一旦ハッピーエンドまで進み、謎解きのシークエンスに繋げます。
明らかに不審な動きを見せる尾鳥に読者は共感できないので、貝木が疑問を持つ役割を引き継いでいます。
『推理』
病院→駅→公園という場面転換を行いながら、スロービルドでクライマックスへ。
貝木椛のカリスマ性を発揮させつつ、事情聴取が始まり、物語は再び緊張感を増していく。
倫理のグレーゾーン
囮と瀬川(杵原)が、小夜のためとはいえ後見人制度の抜け穴を突き、しかも毒殺の関与すら疑われる状況にある点は、倫理的に極めてグレーな領域を扱っています。主人公の行動としてはかなりダークです。この曖昧な倫理観は、読者に「正しさとは何か?」を問う構造になっています。
『解明(完)』
最終パートは、これまでの事件の裏側で起きていたことの真相が明かされる解決編であると同時に、これまで積み上げてきたものを『痛み分けの再分配』という形で危機を脱出しています。
最大のトリックが『瀬川と杵原の存在の入れ替え』。これは、単なる逃亡手段ではなく、ある種の悪魔との契約です。
杵原(本物)は、瀬川の姿を分岐能力を得ることで、龍になることを実現可能にします。おそらく尾鳥は、後日警察に瀬川の霊素可視化現象を報告し、指名手配犯が死亡したとしてこの事件を闇へ葬るでしょう。調整者《バランサー》としての仕事を一つ報告し、完全犯罪の後処理を完了します。あくどい……。
ですが、結果として、小夜、瀬川、杵原に新しい生を提供することに成功します。この結末は、彼自身が語るように『歪な彼女たちの存在を整える』行為であり、善悪を無視した救済と調律の物語となっています。
この作品は倫理的グレーゾーンを含むテーマを正面から扱っています。現実社会で見落とされがちな児童虐待、身分からの逃亡(完全犯罪)、社会的断絶された者の再生といった重いモチーフを、ファンタジー的設定と異能を使ってうまく寓話化し、読者に納得……というか語り合うテーマを投げかけてオチとしています。
『正しさよりも、納得を』――共犯的真実という一貫したテーマで倫理の問いかけを投げかける物語。