シャラララ。
シャラララ。
そんな音が手元から聞こえる気がするシャッフルは気持ちがいい。
「うん、スリーブが馴染んできた」
休日大会出発前恒例の一人回し。
俺は自宅で6度目になるデッキの”中毒性がある合法行為”(ファローシャッフル)を行っていた。
「新しく買った奴、まさかこんなに硬いとは」
そうなのである。
普段使いのデッキの1つがいい加減スリーブがボロくなってきてたので、お色直しとばかりに先週参加した大会の店で買ったスリーブ。
これがちょっと失敗だった。
普段から使ってるぴったりサイズ(インナー)の透明スリーブは問題なかったのだが、その上から被せる大きめのスリーブ。
これがめちゃくちゃ滑る、デッキとして固めるのにも問題があるぐらい摩擦がないツルツルものだったのだ。
よくみたらざらざら(エンボス)加工じゃないやつだし、観賞用とかに使われる奴だったっぽい。
全部入れ替えるのも癪だったので、ひたすら一人回しついでにシャッフルしまくってたのだが。
「というか、ちょっとシャッフルが下手になってるなぁ」
立ちながらシャッフルして、数枚手から零れそうになった時はちょっとショックだった。
スリーブが滑りやすくなってるというのは前提ではあるんだが、シャッフルの腕が鈍っている。
この数ヶ月、色々忙しかったせいだろうけど、マジでショックである。
「デッキは回るが、手指は回らないとかダサすぎるだろ」
動きを確認しながら、シャッフルを行う。
いい感じに切り終えてから、上から5枚引いて確認。それが偏ってないかどうか見てから戻して、またシャッフル。
……別段、シャッフルの腕がファイトの腕に繋がるわけじゃない。
完全に無作為化しなければいけないのは俺みたいな縛っている奴だけで、それ以外の一般ファイターには関係ない。
そもそももはや一般化しつつあるボードファイトなら自動シャッフルが行われるから、シャッフルの技能すらもいらなくなっている。
しかし、どうにも俺はこれをやらないとすまない。
こだわりというかルーティーンなのもあるんだが、これが華麗に出来なければカードゲーマーじゃない。
紙をしばいて遊んでいる奴だという風に胸を張れない。
そういう未だに外せない拘りだ。
「未練だよなぁ」
回し、また5枚引く。
ライフデッキも同じようにちゃちゃっとシャッフルし、2枚引く。
「んー」
1枚ずつライフデッキとメインデッキをめくる。
用意した6面ダイスを振り、その数だけライフデッキをめくる。
1枚ずつライフデッキとメインデッキをめくる。
用意した6面ダイスを振り、その数だけライフデッキをめくる。
そしてもう一度ライフデッキとメインデッキをめくり。
「まあ回る、が……動きがやっぱりおせえな」
普通のダメージでならいいんだが。
「――魂葬のケアが難しい」
降ったダイス目のダメージが全て魂葬だった場合、対応しきれていない手札だった。
もちろん喰らわないに越したことはないんだが、近頃はレガシーや堕悪カード共で魂葬持ち、あるいはそれに準じた効果が出てくるようになった。
魂葬はアグロ脆弱環境のテコ入れとして登場した能力だから、サレンとカドさんたちを始めとして数人はもう普通に使ってくるし。
神格カードに関しては言わずもがな、だ。
それが極一部のものである――のは今だけだ。
あと10年……いや5年もすれば魂葬は一般的な能力となる。
無造作に受けていいダメージと、受けたら痛く削られる魂葬ダメージが飛び交う環境が来る。
その環境で、今の俺のデッキが通じるか? と言われたら、ちょっと速度というかカードパワーが足りんだろう。
「んー汎用呪言の種類がもっとなぁ。【創生】もまだねえし」
今のデッキにいれてある<藁の手>や<焼畑>などは、欲しい呪言の下位互換だ。
せめて<土台の建築>辺りが欲しい。
アンコモンから再録でコモン落ちしたもんだから、どっか探せばあると思うんだが未だに見つからない。
「やっぱりエレウシス辺りにいくしかないか?」
未だに作りたいデッキもあるし、改良のために入れ替えたいカードも山ほどある。
一応入都市の申請はすませてあるが入れる時期はもう少し先で、しかも入れるかどうかは抽選なんだよなぁ。
抽選ってなんだよ。
ライブかなんかのチケットか? 毎年めちゃくちゃ訪れようとする観光客とかが多いらしい。
まあ気持ちはわかる。
なんといってもまだ市場に出回っていないカードが販売をされているらしいのだ。
それも数年単位。
リナ先輩の”グロウアップドラゴン”もそうだが、体感的には今一般販売されてる奴の3~4ブロック先のデッキが出ているようだ。
まだ出てなかったはずのテーマデッキとか、海外先行のテーマだったのに昔から使い手がいることになってたりするこの世界だが、まあ平均的に先んじたテーマを出してるのは間違いない。
今後の環境の動きも考えて、調べておきたいし。
「使ってたデッキテーマ、まだ出てこねえんだよなぁ」
俺が使い込んでいたデッキ。
そのパーツがろくに見つかってないのだ。
だから欲しい。
まあ――あの”俺の切り札”(エース)は、まだしばらく取り返せそうにないが。
そんな事を考えていた時だった。
「ん?」
携帯(ガラケー)が震えた。
閉じていた携帯を開いて、相手を確認する……店長?
「はい、もしもし茂札です。シフト間違えてましたっけ?」
『もしもーし、フツオくん? シフトじゃないんだけど、今少し大丈夫?』
「はい?」
『サレンちゃんからなんか連絡とか、そっちに行ってたりしない?』
「?」
電話をしながら取り出したシフト表を見る。
「今日は朝から夕方までサレンですよね」
『なんだよね。それがなんかまだ来てなくて、電話も出ないの』
「あ~寝坊とか?」
『……かなぁ? 仕事に関しては今まで遅刻したことなかったんだけど』
「プライベートだとだらしなさそうな印象凄いですけどね」
『買い物とかには五分ぐらい遅れてくるよ。近くにあったクレープ屋が並んでたのが悪いとかって言い訳して食べてたり』
「らしいですね」
あいつはそういうやつだよ。
俺の時もこっちは15分前に来てたのに、7分ぐらい遅れてテクテク歩いてきたもんな。
『まあちょっと電話とかしてみるけど、なんか連絡があったりとかしたらシフト日だよって伝えてくれる?』
「なんだったら自分出ましょうか?」
『ううん。今日フツオくん休みでしょ、大丈夫大丈夫。バニラもいるし、なんとかするよ――じゃ、夕方からよろしく』
そう言い残して店長からの電話が切れた。
「うーむ……」
大丈夫とは言われた、が。
ちょっと心配である。
今日は休日だし、最近は客の入りが多くなっている。
前は休日大会とかがないからどちらかといえば少ない方だったんだが、フリープレイの客層も増えたのだ。
マキヤくんたちも結構強くなってるからファイトのジャッジもしないといけないし、カウンターに1人、あと動けるジャッジも出来るのが1人欲しい。
店長はどっちも出来るが、バニラにはカウンターの補助しか出来ない。
「んんん」
別に休日大会必須ではないんだよなあ。
デッキを仕舞いながら、行動スケジュールを少し考える。
「……一応見に行くか」
とりあえずサレンの家に様子を見に行くか。
インターホン鳴らして、もしも寝ぼけてるなり、体調崩してるでも反応はあるはず。
その後の対応で、MeeKingを見に行くか、大会にいくか決めよう。
高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に、というやつだ。
リュックにいつものセットを放り込み、冷蔵庫から出した常備してあるスポドリを1本から2本に追加していれておく。
風邪でも引いてるようならこれだけ渡したあと、コンビニにでも直行してすればいいだろ。
忘れずにバトルボードの腕輪を嵌めて、家から出て。
「うん??」
その一歩目から躓いた。
今まさに出た自宅マンションの共同駐輪場にて。
人が倒れていた。
秋も終わりかけの地面で涼を取っているわけでなければ、金髪の人が倒れている。
「おい、おい……」
一応左右を確認する。
誰か既に通報とか、駆けつけてる様子はなし。
物陰から不意打ちしてきたりするような気配もないことを確認してから、防刃用にしてあるリュックを背負い直して近づく。
「なんだ?」
近づいて奇妙さに気づいた。
倒れている人だが、格好がおかしい。
なんというかどこの仮装大会か、社交ダンスにでも出るの? という感じのドレスを着ている。それもあちこちが汚れて、破けている。
激しく動き回ったか、暴漢にでも襲われたか……あるいは戦闘でもしたかのような状態。
ついでに言えば右手に西洋剣を握ったまま倒れている。
「……おいおい」
この世界は許可さえあれば刀剣の携帯が可能な治安があれな世界だが、それでも抜き身で持ち歩くアホはいない。
念のため、少し距離を取って剣を握る右手とは反対側から回り込んで、様子を確認する。
「男……いや、女か」
その整った顔と髪型に一瞬男の子かと思ったが、肩を見て訂正する。
息は……してるな。
僅かに開いた口の前に手を出して、呼吸を確認。
心臓が止まってるとかならAED探さないといけないところだったか……って今の時代、そこらへんあまり普及してないんだよな。
「すみません、大丈夫ですかー?」
ともかく頭は動かしたら不味いよな。
肩を叩こうと思ったが、揺さぶるのもまずい。
「起きてますかー?」
頬をペチペチ叩きながら、声をかける。
「おきてますかー? 救急車は何番だっけかな」
声をかけながら、携帯を取り出す。
とりあえず反応と様子を確認してから救急隊員に状態を伝えるんだっけ?
何度か救急車はこの数ヶ月で呼んだけど、呼ぶのは切羽詰まったときだから慣れない。
「だいじょうぶですかー?」
「……ん」
「お?」
反応があった。
声らしいものが聞こえて、倒れていた金髪の少女が片目を明けて……
「ますたー?」
「はい?」
なんか意味のわからない言葉が出た。
「にげ…………ぁ」
「お、おい。だいじょうぶで――え」
意識が朦朧なのか?
とりあえず話しかけて、信じがたい事が起きた。
眼の前で女の子の服が――解けた。
「は?」
淡い光を放ち、一瞬全裸になったと思ったら、次の瞬間、まったく違う格好。
ワイシャツに、ズボンの……学生服のような格好になっていた。
男子高校生みたいな格好で倒れていた。
「は??」
ガラン、と音がした。
握っていた剣が転がった音と共に少女の目が閉じた。
それに、俺は――
「ぇえ……」
めちゃくちゃ困った。
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それは試されるために引きずり出される運命の舞台。
――機装(エク=マキナ)の決闘場