※サポーター限定を解除しました
もしかしたら俺は逮捕されるかもしれません。
そんなことが頭にめちゃくちゃよぎっていた。
だって目の前で女の子が横たわっているのだから。
それも俺の|1LDK《部屋》にである。
「き、緊急避難……緊急避難でいけるかな??」
少し考える。
すこし考える。
あきらめずにかんがえる。
が、無理!
多分絶対無理。警察に通報されたら間違いなく俺が逮捕される!
「こんな時に頼れるサレンのやつは電話に出ねえし」
明らかな非日常な事態。
こんな時だけは頼れる傭兵ファイター(サレン)の携帯に電話したが、出やしない。
スカーにも一応電話を書けたのだが、電源を落としてるのか電波が通じない場所にいるらしくこっちは通じなかった。
「……まあ最悪、普通に通報するか」
幸い、刑事には何名か知り合いいるし。
そこから手筈回して貰えばええやろ。ヨシ!
その前に近隣住人に通報されたら?
……目撃者はいなかったはずだからだいじょうぶ。確認はした。
自己弁護を終えて俺は洗面器に漬けたタオルをギュッと絞った。
そして、横たわっている女の子の額に乗せる。
由緒正しい看護である。
……いや、言い訳するとだな。特に外傷もないし、首と腕の脈拍もおかしくないし、熱もないからどうしょうもないのである。
これが相手が野郎だったら適当に脱がして、武装解除も兼ねるところだが、さすがに女子の服を引っ剥がすのは悪党でもなければ気が引ける。
まあ一応上着は脱がして、ポケットとかそういうのはチェックしたが。
「うーむ……」
濡れタオルを額に乗せた行き倒れちゃんの顔をよく見る。
整った顔立ちだった。
起きてた時は気を引き締めていたのかちょっと鋭めの目つきだったけど、寝ている時はほんわかと緩んでいる。
金髪のボブに切った髪型も相まって、なんていうかこう犬っぽい?
なんか左右の前髪だけ赤い色してるし、まあそんなのはこの世界だとたまにいる髪ファッションだけど。
「というか女子なんだよ、な?」
着ている格好はどこかの学校の学生服(ブレザー)、それも男子のものみたいだ。
ズボン履いてるし。
上着着てた時わかりにくかったが、体型はうん、結構でかい。
仰向けの姿勢だからめっちゃそのわかりやすくて、うん、失礼なのでタオルケットをちゃんと被せた。
名前は……
「結星プレア、ねぇ」
脱がせたブレザーの内ポケットから見つけた学生証に載っていた名前を読み上げる。
顔写真もついているカード式だから、彼女の名前で間違いないだろう。
しかし、これ男でも女でもいけそうな名前なのが困る。
そんなことを口に出したらいきなりパンチされそうだけど。いや、あれはナイーブなやつだけか。
「ん……」
お? 起きるか?
少し距離を取って様子を見る、が。
「……いや、起きないんかいっ」
なんかむにゃむにゃ寝言言ってるし、警戒心なさすぎか?
見知らぬ他人が横にいるんだが??
「はぁ」
思わずため息を付きながら、持ち物のチェックを再開する。
彼女の持ち物はこの学生カードが入った学生証とハンカチ、あとポケットティッシュだけ。
財布の類はなく、携帯類ももってない。
学生なのは間違いないと思うが、問題はどこの学生か、だ。
「このマークどこかでみたような……」
学生証の裏面に嵌め込まれたICチップの横に描かれたマーク。
三日月のような輪っかと重なる稲穂……いや、小麦か?
どこかで見た記憶があるのだ。
それも結構最近、どこだったか……
「あ」
学生証のカードにICチップなんてハイテクだなぁと思って、思い出せた。
エレウシスだ。
あそこの”次世代学園都市”のマークがこれだったはずだ。
たまにテレビCMとか、新聞の広告とか、なによりも冬のエレウシスカップ。
そのシード選手として招待されてるドロシーちゃんたちのところで見た憶えがある。
「……いやなんでそんなところの学生がここに?」
あそこって確か長期休暇でもなければ卒業するまで外に出れないとかいう寮生活だって聞いたぞ。
昔この世界がLifeのアニメかなんかの世界だと想像してた時、お約束のパターンでファイター養成学校とか調べて、そのめんどくささに速攻で進路から外したし!
しかもだ。
「なんで剣なんて持ってんだ?」
彼女と一緒に落ちていた剣を手に取り、眺めながら思う。
いや、この世界の日本は確かに銃刀法は緩いよ? 銃は規制されてるけど、刀剣の類は結構簡単に手続きすれば持ち運べるよ?
でもそれは専用のケースとか、許可証持ってれば帯刀出来るってだけで、抜き身で持ち歩いていいわけではない。
そこまでマッポ―じゃねえよ。
しかもこの剣。
「ゴツいし、なんていうか機械式か?」
刀身が幅広い西洋剣のようなのだが、なんかガチャガチャ音がする。
普通の品物ではないが、どこぞのカードよろしく素手で触ったら感電とかはしない。
刃先を身体に向けないようにしながら観察しながら、気づいた。
これ、なんか刀身に薄っすらと長方形の凹みがあるな。
「……いやいやいや」
まさかな。
そのサイズには見覚えがあるが、まさかこの世界でそんな浪漫ギミックはないだろう。
彼女の左手には多分ボードになるだろう籠手とか嵌まってたし、いやいや……
…………ヨシ
「ライフゲインするか」
たしか予備カード入れにたくさんあったはず。
さすがに火力カードとかクリーチャーカードはダメだろう。
だけどそれならなんとでもなるから、うん!
「ふぁあああ~」
「ん?」
ガサガサとケースにいれた予備カード(カード資産)を漁っていた。
「よくねたーぁーあ?」
まさにその時だった。
間の抜けた声を上げて、その少女が開いた目と目が合ったのは。
「…………ますたー?」
え?
「いや、ちがいますけど?」
「あ、そうだよね。なんかバンダナとかしてないし」
「バンダナ??」
誰か違う人を間違えてるっぽい?
「アタ、じゃなかった、ボクはなんでこんなところに」
少女の目線がゆっくりと上から下へと下がって、また上へと上がって止まった。
「……うん?」
目線の先にあったのは。
「ど、泥棒ー!!! それアタシの剣!」
ビシッと反射的に突き出される少女の指先。
――そこにすかさず手を重ねて、どけて。
「借りてるだけだぞ?」
告げた。
「え?」
「今借りてただけです」
告げた。
「そ、そうなの?」
「そうだよ」
告げた。
「なーんだ、てっきり取られたのかとぉ…………いやまって!? 貸すとか言ってないし!」
チッ。
気づかれたか。
「結星プレアさんですね?」
「え、なんでボクの名前を」
「貴方が落とした学生証に載ってました」
「学生証? って、あ、ボクなんか上着脱いで」
「貴方はなんか自分の家の前で行き倒れてたんですよ。それも剣とかゴロンって落としたままで」
「え、ここ、どこ?」
「救急車そろそろ呼びますけど、意識とかはっきりしてます? 頭痛とか、吐き気とか大丈夫ですか?」
「あ、えーと……疲れてるのはあるけど、頭痛はないかな」
「まあ一応検査してもらったほうがよさそうだな。あと、どういう事情あったかわからないけどさすがに刃物を抜き身で放置は危ないですよ。なんかケースとかにいれたいんですけど、まってもらっていいですか?」
「あ、はい、ごめんなさい?」
よし、丸め込めたな!
かなり誤解を招きかけないところを目撃されてしまったが、なんとか誤魔化せた。
「最悪タオルとかで巻きますよ」
なんて言いながら不自然にならないように、持っていた剣を床に置く。
状況と言動からして、この剣が彼女の所有物なのは間違いない、がこれは立派な刃物だ。
さすがに対面状態で、見知らぬ相手に刀剣を渡したくない。
「あーうん、まあそれしかないかなー。かなー……かな?」
カックンカックンと水飲み鳥みたいなリズムで、プレアさんが左右に首を傾けている。
独特な動きというか、まだ寝ぼけてる?
「あの……大丈夫?」
いや、まくし立てて誤魔化したのは俺だが、多少は話が通じないと困るぞ。
こちとら状況がまったくわからないのだ。
最低でも状況判断出来るだけの情報が欲しい。
「ちょっとまって、まって。えーと、ボク、ボクなんでこんなところに……うーんと……うーんんん」
なんかこの子、腕を組んで悩みだしちゃった。
……いややめなさい。
今、君ワイシャツ姿でそのポーズはちょっとでかいのが丸わかりだから。
いや、結構、思ったよりデカいな。
背は結構低めなのに、女子高校生の一年ってこんなぐらいだっけ? 身長。
「あ」
「あ?」
上げた声と同時にプレアさんが後ろに振り向いて。
「”ヤバい”!!」
叫びながら凄い勢いで振り返ってきた。
同時に勢いよく手が突き出される、その手をとっさに止めた。
「返して!! ボクの剣!!」
「まってまって! どうした、せめて理由を離せ!」
「時間がないんだ! 感じないの!? 今すぐ出ないと巻き込」
「時は既に遅し、キキキ!」
――声が”落ちてきた”。
足元が一瞬なくなった気がした。
「ッ!!」
内臓が浮かび上がる、言葉にしようもない不快感。
それが終わると、周りの光景が一変していた。
そう、文字通り変わり果てていた。
それは白と黒のタイルのような模様で覆われた空間に、時折ノイズが走る光景で。
「闇の領域か?」
言葉に出しておきながら、なんとなく違うと感じる。
”神域”にも近いが、それよりも圧迫感がない。
なんというか、空間が停まっている。
切り取られた密室、水の抜かれたプールの中に立っているような、例えづらい感覚。
「くそ……間に合わなかったか」
「――間に合う? 詰んでることもわかってなかったのかよ、雌豚」
あ゛?
耳障りな声音の聞こえた方に目を向ける。
そこには白と黒の空間から場違いなオレンジ色のジャケットを着た男が立っていた。
手には七色に光る……”ゲーミングカラー”で光ってるバトルボード??
「またお前か!」
「よぉ。ちゃんと展開出来たみたいだな、もう逃げ場はないぜ」
「貴方は下がって!」
プレアがこちらを背に前に出る。
その手にはいつの間にか手にしていたのか、取り上げてた剣があった。
「ファイ……ぐっ」
「お、おい」
その剣を構えようとしたプレアの膝が崩れたのをとっさに抱き留める。
「んー? なんだ、もうガス切れかぁ?」
ガス切れ?
「ま、だだ! これぐらい……」
「おいおい無理をすんなよ、燃費悪いんだろ? 大変だよなぁ、ひ弱な”隷奴種族”さんはよ」
支えていたプレアの肩が震えた。
「なにを……言っている」
「なんだ、気にするだけのプライド残ってたのか? 狩られるだけの獲物さんよ」
「だまれ」
「今なら余裕で勝てそうだなー。いや、違うか? 補正でもなけりゃあ、勝てねえわな」
「だまれ!!」
「ほいほいその調子で気合いれてくれよ。じゃなけりゃあ、楽しめねえからな」
「お前みたいな型遅れ、まともにやったら退屈過ぎるんだ。せめて威勢よく鳴いてくれよ」
ゲラゲラと笑う。
ゲラゲラと愉しげに笑っている。
それにプレアは歯を食いしばるように息を吸って、立ち上がろうと――
「おい」
「あん?」
したので、その前に俺は足を踏み出した。
「――ファイトしろよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
剣を握ったままでは君を掴めない
剣を離してしまえば君を護れない。
だけど、君を離さないことだけはこの腕で叶う。
――抱き寄せ