10月31日実施アンケート
緋鞠がお菓子をもらいにいくようです。誰のもとへ向かったでしょう?
緋鞠「トリック・オア・トリート!」
1.銀狼……56%
2.翼 ……22%
3.琴音……11%
4.四鬼……11%
──銀狼のもとへ行きました!
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放課後の鐘が鳴り、緋鞠はお菓子の詰まった段ボールを抱えながらスキップしていた。今日は待ちに待ったハロウィン。
陰陽師を育成するための学園にもしっかりと根付いており、友人たちから見た目が可愛らしいものからちょっと怖いもの。迷惑な悪戯をしようとした輩には鉄拳制裁と、忙しくも楽しい1日だった。
あとはこのまま真っ直ぐ帰ろうかと下駄箱へ向かう途中──。
「ねぇねぇ知ってる? 商店街の飴屋さんに新しいバイトのお兄さんが入ったの」
「知ってる! 銀色の長髪にキリッとした目元のイケメンなんでしょ!」
「そうそう! 今から見に行かない?」
「行く~!!」
そういって駆け足で緋鞠の横を通り過ぎていった。
「銀色の長髪に、キリッとした目元……」
思い当たる人物、いや妖怪がいる。相棒の銀狼である。
最近なんだか忙しく朝から出ていき、夜は緋鞠よりも遅く帰宅している。何をしているのか聞いても全然教えてくれないし、今朝も挨拶はそこそこに出掛けてしまった。
「まさかねぇ……」
今朝も聞いてもはぐらかされ、気にするなと言われたものの。気になるものは気になる。緋鞠は靴を履き替えると、そのうわさのもとの飴屋さんに向かった。
星命商店街を少し進んで、たい焼きやさんの隣にその店はあった。赤い暖簾に“飴細工 ネムノキ”と書かれた、日本家屋の古めかしいお店。外から中が見える硝子張りの引き戸の横に、テイクアウトができるよう小さなカウンターが構えられている。
琴音と以前訪れたときは人がまばらで、飴がきらきらと静かに輝く落ち着いた雰囲気の店だった。しかし、現在はそのうわさの影響か、若い女性客でごった返していた。これでは店に入るどころか、中まで見えるかどうか。
人の多さに軽く目眩を覚えながら、だんだんとどうでも良くなってきた。
(……別にそこまでしなくてもいっか。銀狼にだっていろいろあるだろうし)
そう思って店から離れようとすると──。
「きゃー! お兄さんいた!」
「え……マジイケメン!」
緋鞠が振り返ると、店の中に特徴的な銀色が見えた。長い髪をひとつに高く結って、店の制服の黒いTシャツに赤銅色の羽織を着ている。会計に立っていたの銀狼だった。
ちょっとひきつった笑みで接客をしている。
「店員さん緊張してたのかな? 笑顔がぎこちなかったけど」
「でもそこが可愛くない!?」
店から出てきた綺麗な女性の二人組の会話。またぎこちないながらも笑顔で接客をしている銀狼のらしくない姿や、さっきと似た会話が聞こえてきて、なんとなく面白くない。
(……あんまり人に化けるの、好きじゃないって言ってたくせに)
緋鞠はそのまま踵を返すと、さっさと銭湯花火に帰った。
部屋で一人でいるのも嫌で番頭に立ったけれど、まったくお客さんも来ない。皆からもらったお菓子でも食べようかな、と箱を見るとハロウィン仕様にプリントされたキャンディが目にはいる。キャンディを見てさらにイライラが増した。ガシッと掴んで口に放り込むと、ガリガリ噛みしめる。
「……いたっ!」
キャンディの破片が刺さって軽く口を切る。口が痛いのか、それとも別の痛みか。カウンターに突っ伏してため息を吐くと、勢いよく入り口が開いた。
「いらっしゃいま……」
入ってきたのは、原因の銀狼だった。やはりいつもの狼の姿ではなく人の姿で。服装はさっきとは違って見慣れたスーツだったけれど、緋鞠は急いで作った笑顔をやめて、仏頂面になる。
「裏口から入ってくればいいのに」
そう言ってふんっと顔を逸らした。すると、銀狼は申し訳なさそうに謝る。別に悪いことをしたわけじゃないのに謝らせてしまったことに、少し心が痛むけれど。後には引けないひねくれた自分のほうが強かった。
(ああ、可愛くないの……)
今日店にいる子達のように、素直に笑顔でいられたらいいのに。そうではない自分に嫌気がさしてくる。
「……のあとでいいか?」
「うん……」
「そうか。あとでな」
(…………ん!?)
振り返ると、もう銀狼の姿がなかった。やばい。話を聞いていなかった。
なに、なんのあとで!? 仕事か? 私の仕事のあとか!?
人の話さえもまともに聞けない自分に頭を抱えた。
結局あのあとそれなりにお客さんが入り、京奈に交代してもらったのが午後七時。いつもよりも多い人数を案内したため、若干疲れた。
(部屋に行って、とりあえず風呂の準備したら夕飯……)
ぼーっとする頭をどうにか働かせながら襖を開けた。
「緋鞠、ずいぶんと遅かったな」
「なんか今日お客さん多くてって……」
銀狼はなぜか人の姿のまま、正座をしてこちらを向いていた。そういえば、さっき何か言ってたな。なんだっけ……。
疲れてうまく働かない頭でどうにか考えていると、銀狼が立ち上がってこちらにくる。思わず後ずさると、背中に襖がぶつかった。逃げ場がなくなって、思わず目をつぶると──。
「……あれ言わないのか?」
「……あれ?」
ぱっと目を開くと、きらきらと何かを期待するような目が目の前にある。あれってなんだっけ。
「ほら、今日はあれだろう」
今日のあれ……ハロウィン? 思いつくのはひとつだけ。
「トリック・オア・トリート?」
ちょっと疑問系に呟けば、ぱっと目の前に色とりどりの飴細工が差し出された。オバケにカボチャ、ゾンビに……ネジが刺さっているのはフランケンシュタインだろうか。
まるで花束のように束ねられている。
「……嬉しくないか?」
驚いてじっくりと見ていると、悲しそうな声で問われた。急いで首を振って受けとる。
「ううん、すっごく嬉しい! 可愛いし、ちょっと不気味なところも可愛い!! これどうしたの?」
「俺が作った」
「え!? すごいすごい!! 銀狼作れたの!?」
「いや、実は──」
ハロウィンのお菓子をどう用意するか迷ったときに、思い浮かんだのが以前行った飴屋さんだった。緋鞠が色とりどりの飴細工に見惚れていたことを思い出し、作り方を教えてもらいに行くと、ちょうどバイトが怪我をしてしまい人手不足に。放っておけずに一週間ほど手伝いに行っていたそうだ。
「飴細工はわりと早めにコツは掴めたんだが、接客だけはどうにも慣れなかった……」
疲れた様子でため息を吐く銀狼を見て、緋鞠は思わず笑った。それを見てなんだと文句を言われるけれど、やはりおかしくて笑ってしまう。
結局銀狼は銀狼のままだ。隠し事をされて、勝手に怒って……バカだなぁ。
緋鞠はオバケの飴の袋を取り、口に入れる。
上品な優しい甘さが口いっぱいに広がって、先ほどまでの怒りやら痛みやら溶け消えていった。
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いつも読んでくださってありがとうございます!
Twitterで実施したアンケートを元に書きました。
全員に一票は入れていただけてよかった……!
ありがとうございます(*´∇`*)
アンケートって緊張しますよね。
一応全員プロットはあるので、ほかのキャラも別の機会に出したいなぁと思います。
よかったらよろしくお願いします。