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異常図書メイキング18

[藤堂帳]
とうどうちょう。とうどうのりすと。とうーどうーりすと。

というのは置いておいて、異常知識は、まず王道を踏んでいこうと決めた。まだまだ新雪が積もっている王道はいっぱいある。
今回、足跡を刻むことにしたのは、未来予知の王道だ。この異常図書は嘘か真か不明だが、犯罪を予告する。

こいつが暴れた時期は色々と考えたのだが、20世紀の異常図書をもう少し作りたいと思っていたので、治安維持法と特高警察が大活躍していた1935年を選択。
真偽不明の犯罪予告で、かの惨劇の犠牲者を増やすことに加担した邪悪な異常図書ということにした。

それで特高警察について少し調べて、警視庁の所属だったと初めて知って少し戸惑った(なんかすごい権力があったみたいだし、独立した上位組織だったんじゃねー? みたいな認識でいた)。
警視庁にはSEATがあるし、監視網構築でもお世話になっている。どうしよう? 迷って迷宮に呑まれかけたが、
「まぁ、きっと縦割り組織だし、ドンパチしても大丈夫だろ多分。あっちの部署とは仲が良いけど、こっちの部署とは犬猿の仲みたいなやつあるある。きっとある。特高はあとでGHQに解体されるしな」
ということで決着。ものは完成した。

ここからは余談。ちょっと特高警察について語る。
調べる過程で興味深かったのは、冤罪と拷問の恐怖で語られる特高警察の舞台裏、特高警察が戦っていた共産主義の恐怖だ。

特高警察や治安維持法が成立した背景に、ドイツやロシアの帝制が、革命によって崩壊したという事件がある。日本もこのようになることを恐れた。
革命の火の手が上がって皇室と政府が焼き討ちされ、日本の首から上が、大陸共産主義の傀儡政権か、ギロチンを振り回す血まみれの独裁政権か、あるいはもっと別の何かよくわからないものに変貌してしまう――その恐怖を横に置いては、特高警察は語りきれないだろうと思う。逮捕された中にはガチの革命家もいただろうし。

もちろん、それによってちょっと愚痴った程度の無実の市民を数多拷問し、獄死させた罪が拭えるわけではない。しかし、特高警察が全部悪かったのだと言って終わりにしたら、二の舞を演じることになるだろう。

そこでひとつ、小国の王として特高警察を論じるならば、これはじわぁっと湿ったような不安から生まれた魔物であろうと思う。
「怖い怖い怖い(ガチガチガチガチ)助けて助けて助けて」
という強い恐怖ではなく、
「これからどうなっちゃうんだろう。不安だなぁ」
というぐらいの、生乾きみたいな不快感。これがある時に、
「皆さんの不安の原因はこいつです! こいつをぶっ殺せば皆さんの不安はパッと晴れます!」
という話を持って来られると一瞬で毒牙にかかってしまう。

振り返れば、魔女には神の威光、ユダヤ人には強制収容所、共産主義者には特高警察、少年犯罪には表現規制、放射能にはオモチャの浄水器、いろんな悪徳商法があった。
小規模なところでは、悪徳霊能者が不安を煽って高いパワーストーンや護符を売りつけている。
ヒトは昔から連綿と悪徳商法に悩まされている。売りつけられるのはガラクタやゴミばかりではない。悪習や悪法もヤツらの商品だ。
家族が変なセミナーで洗脳されてしまって、家庭内に困ったルールを設定して困っているなんて話を聞いたことは無いだろうか? 無いならそれは本当に幸せな人生なので大切にしてほしい。アレほんと大変なんだマジで。

少し脱線したので戻そう。
大日本帝国は、国家単位で不安商法に引っかかり、悪法と掃除機を売りつけられた。
特高警察と名付けられた掃除機は、確かにゴミをよく取ったが、床とカーペットをズタズタにした挙句、暴走して電源が切れなくなった。
特高警察とは、ヒトの不安商法に対する脆弱性が、かなり悪い形で出てしまった例ではないか? というのが私の考えである。
この脆弱性を利用されると、暴政や悪法が群衆事故のごとき勢いでまかり通ってしまうのだ。

悪徳商法で何か異常図書を組めそうだな。

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