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削ったパートの供養

その刹那、顔をグイっとつかまれる。抵抗しようと思うが、遅かった。礼奈の唇が、俺の唇に触れ合った。
時刻としては一秒、たった一秒であった。だが、その感触は確かに真実で、いつまでも残り続けた。
「どう、これでも信じない?」
彼女は赤く染めた頬で意地らしく笑った。
「―――えええぇっ!?」割れるような轟音。久乃の声だ。
俺は動転した世界から復帰した。礼奈はしたり顔でいた。
「えっえっ、どういうことっすか?」
見るからに動揺する久乃。依然として現実を受け止められないのは俺も同じだ。久乃にむかって言葉をかける。
「とりあえず落ち着いて」
立ち上がろうとして、膝をぶつける。
「落ち着くのは君じゃないかしら?」
「礼奈は黙ってて」
礼奈に退いてもらい、久乃のもとへ行く。そんな俺をみとめて、久乃は話しかけてくる。
「先輩、どういうことっすか!」語調を強める。
「俺にもわからん。ただ、静かにしてくれ」周囲に視線をやる。
周りは騒然としていた。歓喜の声、羞恥の声、嫌悪の声、嚇怒《かくど》の声。ただひたすらにいたたまれなかった。
「あっ…」久乃も気が付いたようで、体を縮こめて席に着く。
こうして俺たち三人は再度テーブルを囲んだ。
「なんなんすか、先輩たち。誤解だったんじゃないんすか」ひそひそと久乃が聞く。
「だから誤解だって」
そう言っても猜疑と軽蔑の目は変わらない。
「これから誤解じゃなくするのよ」礼奈が自信満々に言う。
ため息をつく。誰か助けてくれ。
「いちゃいちゃするなら私は帰るっすよ?」頬を膨らませる。
「帰らないでくれ」嘆願する。今帰られたらストレスで俺の体が霧散してしまう。
「お待たせいたしました」
どことなく不愛想な店員が料理を運んできた。そこには礼奈のパエリアがあった。
ありがとう、そう言って平然と受け取る礼奈を見て自然と緊張の糸がほどけた。久乃がふぅ、と安堵の息を漏らす。
「で、どうしてこんなことをしたんすか」礼奈を一点に見つめて問う。
「なぜって。どんな人にこれはされるの?」
さも自明かのように答え、パエリアを口に含む。
「なっ…」言葉に詰まる。
「な、なら礼奈先輩は篠宮先輩が好きってことですか!?」身を乗り出して問う。
「そうよ」あっけらかんと答える。
あまりにもケロリとしたその返答に、久乃は気力さえ失ってへなへなと座り込む。
「お待たせいたしました」


―――

自明にもRepetitionだったので…

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