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蛇足 とある妖精の話 

夜。

月明かりに包まれながら、Qは目の前の建物を見つめた。

Qの前に広がるのは壮大な城。尖ったゴシック様式の屋根があり、色鮮やかな窓が月光に照らされてキラキラと輝いている。巨大な城門は閉ざされており、まるで訪れる者を拒絶しているかのようだ。

「ふぅ。」

覚悟を決めたかのように、Qは深いため息をついた。彼女は自分の頬を軽く叩く。

ポン。煙が立ち上った。黒銀色のドレスを身にまとったQは、コウモリのような姿に変身し、頭には角が生えた生物となった。羽ばたきながら、Qは城に向かって飛んでいった。高度を上げて一つの窓に近づいた後、彼女は手に持っているトライデントを慎重に掲げた。

キンという鋭い音とともに、窓に小さな穴が開いた。Qは前脚を巧みに窓に差し込み、錠を解いた。

城の内部に無事に入った後、Qは人の姿に戻った。

これは天井が高く、巨大なホールだった。ホールの壁には金属光沢のある銀白色の棚が並び、中には様々な種類の本が詰め込まれているのが見える。月光がQが開けた窓から注ぎ込み、ホール内で銀色の光がきらめいている。

Qは一つの本棚に手を伸ばす。

「不法侵入と物損、次は窃盗まで追加するのか?わずか数分で、私があなたを逮捕する理由が3つもできたわね。」

背後から声が聞こえ、Qはびっくりして振り返った。

「なんだ、Fか。」

来た人物の顔を確認し、Qは明らかに安堵の表情を浮かべた。

Qの前に現れたのは、白い軍服を身にまとった少女だった。ぴったりとした軍服には淡い青色の飾り章がある。しかし、整った軍服よりも目を引くのは、少女の頭に生えている三角形の獣耳かもしれない。彼女の左手は軍刀に添えられ、右手は自然に下がっている。耳を微かに震わせ、少女は青い瞳を細めた。

「いつまでこんなことをするつもりなの?もし私以外の相手だったら、本当に大変なことになるわよ。何度も言ってるでしょう?あんな方法で図書館に侵入しないでって。」

「仕方ないじゃん。普通の手続きで入るなんて不可能だもん。」

Qは振り返り、本の一冊を取り出しました。Fと呼ばれる少女は不機嫌そうに眉をひそめました。

「もう、なんでこんなことになってるのかしら。契約者がいるっていうだけでちょっとまともになると思ってたのに、まだこんな無茶をするなんて。」

「仕方ないんだよ。私の契約者は必死に手掛かりを探してるんだ。少しでも力になれなきゃ申し訳ないって思ってさ。」

「力になるっていうなら、そのやり方はないでしょう!ちゃんと契約者をコントロールするべきよ!前回の騒動がどれだけ大変だったか知ってる?私のスノーランスが寛容だったから、2回もボコボコにされても笑って済んだけど。他の人の契約者だったらどう解決するつもりなの?」

「サヨには彼女なりの考えがあるんだ。私は妖精としてできることは彼女をしっかりサポートすることだけ。」

「だから問題なのはあなたのその態度!ちゃんと責任を持って導くべきなのに、その子を好き放題させてる!責任を持ちたくないなら、契約を解除するべきよ!」

「それはできない。」

Qは目を本から離し、赤い瞳でFを見つめた。

「契約を結ぶ機会をくれてありがとう。でも私はもう決めた。何があってもサヨを支える。あなたが支持しなくても、私は彼女の仲間になるんだ。」

Qを少し見つめた後、Fは驚きの表情で目を見開きました。

「...あなた、変わったわね。昔はいつもぼんやりとして自己嫌悪にふけっているだけのあなたが、こんなことを言うなんて。」

「変わったなんて言えないよ。私はまだダメなやつだ。ただ、今は自分にできることをやりたい。」

「他の状況だったら、あなたの心境の変化に喜んだのかもしれないわ。でも残念ながら、あなたの契約者が騒ぎを引き起こして、そして今度は百年ぶりに魔法少女が怪人に敗北したわけだから...」

Fはため息をついた。

「まあ、とりあえずそれらのことは置いておこう。図書館に侵入した理由は何?」

「私は怪人に関する情報を探しているの。うちの子がある怪人を追っているんだけど、もし有用な情報があれば助けになるかもしれないから。」

「言ってる怪人はG.ラポスのことだろう?うちの子もヤツを探してるわ。」

「手がかりはある?」

Fはあきらめたように首を振った。

「ちょっと厄介ね。デュラハンと比べると、やつは明らかにずる賢い。ただの力任せならブレイズエッジが対処できるかもしれないけど、知略型の場合は正攻法では勝てないんだ。」

「力だけでは解決できない怪人...ね。」

「そうよ。しかも、その怪人は他の魔法少女を再び標的に選ぶ可能性が高い。放っておくと災害は拡大するだけ。」

顔に憂愁の表情が浮かぶ中、Fは本棚に近づいた。彼女は手で本の背を撫でた。

「何とかしなきや。たとえどんなに怖い敵でも、我々は恐怖に飲み込まれてはならない。そうでなければ私たちもただの怪人のレベルに堕ちるだけだから。」

「まさにその通り。誇りがなければ、妖精も契約者も単なる下劣な野獣に過ぎない。お前のことだよ、落ちこぼれ。」

2人の会話を遮る声が響き渡った。カタカタという足音が大書庫に響く。Qは図書館の入り口を見つめた。来訪者を確認し、彼女は唇を噛んだ。

「っ…S. ネビュラ。」

それはもう一人の軍服を身にまとった少女だった。少女は深い青色の軍服に、星空の模様が描かれたショールを斜めに掛けている。淡い水色の髪は右胸に流れている。宝石のように輝く目は、星空のような光点が見える。少女は大門をくぐり、2人から数歩離れた場所で立ち止まった。

「F.アイスリン。それに落ちこぼれ。こんな時間に図書館で何をしている?特にお前、落ちこぼれ。私が許可しなかったはずだろう。場合によっては私は権限がある…」

「私が彼女を連れてきたんだ。S、こんな時間にどうしてここに来たんだ?」

Fが少女の言葉を遮った。

「ただの巡回だ。」

Sは髪を耳の後ろに撫で、微かに頭を上げてQを斜めに睨んだ。Qは相手の視線に身を震わせた。

「ちゃんと自分の有能な友人に感謝しろ、落ちこぼれ。まあ、お前のおかげでその友人の格も下がってしまったけどね。契約者がお前のような奴の契約者に倒されるなんて。首席の称号は泣いていることだろうな。」

「…それはあなたには関係ないだろう。」

「関係ない?契約者の失敗は妖精の失敗を意味するんだ。それにFは私たちの首席なんだ。彼女の失敗は私たち同期の失敗を意味する。お前のからっぽの頭は腐っているんじゃないかと思う。」

「…ぐぬ。」

「もういいわ。これは私たち契約者同士の問題なんだ。関係者同士は笑い飛ばしているんだから、もう争いを挑む必要はない。」

「お前はまた彼女をかばうんだな。これは同僚としての忠告だ。早くこいつとの関係を断ち切るべきだ。」

「Qは私の友人であり、それは変わらない。友人としては常に忠告するべきであり、見捨てるべきではない。」

「もの好きだな。よかろう。私も友愛の精神を発揮してやろう。」

Sの顔に冷笑が浮かぶ。

「喜んでいい、落ちこぼれ。お前の契約者は、私がしっかりと調教してやる。お前の契約者がどんな卑劣な手段を使ってスノーランスに打ち勝ったのかは知らないが、私のスターリーアイズはそんなに甘くないからな。」

「やれるならやってみろ。私のサヨは、遠くから攻撃するだけの奴に負けるほど弱くはないから。」

「吠えるんだな。お前の取るに足らない自尊心が打ち砕かれた後、どんな後悔の表情を浮かべるか、楽しみだ。」

「やめて。今は魔法少女同士を争わせる時じゃない。百年ぶりに魔法少女を倒した怪人が現れた。今はその怪人に対抗する方法を全力で探すべき。Qもそうだ。ここにいるのは怪人に関する情報を探すためでしよ?簡単に挑発に乗せられてケンカをしないで。」

「うっ…」

「ふん。興醒めた。図書館で資料を調べるのが好きなら、好きにやってくれ。私の足を引っ張らないようにしてくれればいい。」

Sはそう言ってすぐに身を転じて去っていきました。相手の遠ざかる姿を見ながら、Qは低い声で数言の呪詛を口にした。

「なんだよ、あいつ。」

「さて、騒いで十分だろう。早く資料を調べよう。怪人に関連する記録は少ないかもしれないが、何か手がかりがあるかもしれないしね。」

Fの忠告に従い、Qは頭を振って心を落ち着かせ、再び本棚に向き直した。

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