村松清十郎が老害対策法によって処刑されてしまったその日の夜。
場所はS区にあるバー。都会の喧騒から遮られた、落ち着いた印象を与える店内である。
そのバーに、ある男性三人組が来店。既にある程度出来上がっている状態であり、陽気な状態だ。どうやら他の店で飲んだ後、飲み直ししようとこの店にやって来た様だ。
適当に酒とつまみを注文し、雑談に興じながら飲み交わしていた三人だったが・・・
ある話題へと移り、三人で盛り上がり始めたのだ。
馬鹿A「いやー、やっとくたばってくれたな!村松のジジイが!」
馬鹿B「全くだな。年取ってるだけのジジイがやっと居なくなったんだ。これで会社の空気も良くなるな!」
馬鹿C「アイツ、仕事のやり方をこっちに押し付けてきて、正直ウザい事この上なかったからな。死んでくれて清々したよ!」
そんな事を言いながら、馬鹿笑いをする馬鹿三人。
そう、こいつ等こそがあの狂気の法律による理不尽極まりない犠牲者、村松清十郎が務めていた会社の若手達であり、彼を老害として告発した糞共である。
と、カウンターで静かに作業をしていたマスターが、不意に三人に話しかけて来た。
マスター「・・・お客様、もしかして・・・今日の老害審判で殺された人の同僚ですか?」
馬鹿A「あ?そうだけど?どうしたの、マスター?」
マスター「いえ・・・。もしかして、投票で認定に投票したのですか?」
馬鹿B「は?そんな事を聞いてどうすんの?」
マスター「いえ、ちょっと気になったので・・・」
馬鹿C「はぁー、老害対策法反対って奴ですかー?・・・まぁいいや、もうアイツも死んだし、特別に教えてあげるよ。認定も何も、アイツを告発したのは俺達なのさ」
マスター「・・・貴方方が?」
馬鹿A「おう、そーよ!アイツただ年取ってるだけでエラソーだったしよ!死んでくれて清々したわ!」
マスター「・・・プロフィールムービーを見た限りでは、とてもそうは思えませんでしたけどね」
馬鹿B「分かってないねー、マスターは!俺等にとっては老害その物だったし、何より世間様も老害と認定したんだ!俺達は、正しい事をしたのさ!」
そう言ってまた馬鹿笑いをする三人組。
マスター「・・・・・」
すっかり酔っぱらって馬鹿笑いする三人だったが、マスターが何か思案している顔をしているのに、遂に気付く事は無かった。
老害審判の翌日、彼等が務める会社は・・・・・朝から電話が鳴りっぱなしの状態であり、社長をはじめとする面々がその対応に追われていた。
社長「ど、どうか!どうか我が社との契約破棄だけは、ご勘弁下さい!」
A社『駄目ですね。村松さんを庇う事無くむざむざ死なせるような会社とは、一緒に仕事をする事は出来ません』
社長「し、しかし!」
A社『我が社はね、あの人の誠実さを信頼して御社との取引を続けていましたが、その村松さんが老害認定されそうなのにも拘らず、彼を庇う事無く死なせてしまった。従業員を守ろうとしない会社を、果たして誰が信用出来ましょうか?』
社長「そ、それは・・・ですが、恥ずかしながら・・・彼が老害と告発されたのを知ったのが老害審判の当日で、我々としても寝耳に水だったんです。何より、法律で定められている以上」
A社『それでも最善を尽くすのが、会社という物でしょう。貴方方はするべき事をせず、家族と言ってもいい従業員を、あろう事か老害として殺されるのを黙って見ていた。その様な会社との取引等、我が社の沽券にも関わるのです。それでは』
社長「ちょっ!?」
ガチャッ!ツー、ツー
電話を切られ、呆然と立ち尽くす社長。
上でも言った通り、村松が老害と告発されたのを知ったのは、老害審判の放送当日の事であり、本当に寝耳に水であった。そして必死の祈りも空しく、老害判定を下されて殺されてしまった。彼の仕事振りを知っている社長は、彼が告発される様な男ではない事をよく知っている。だが・・・実際に誰かがそう告発し、この様な結果となってしまった。
それだけでも耐え難いというのに、この事実を知った取引先が自社との取引を一斉に打ち切ったのだ。今更ながら、彼の影響力を痛感すると共に、ある疑問が湧いた。
一体誰が、彼を老害として告発したのか?
プロフィールムービーからも分かる通り、凡そ外でトラブルを起こす人間ではない。家庭の方も夫婦円満で、同じく告発される原因が見当たらない。
ならばどうして・・・?
そこまで考えたその時、自身のプライベート用のスマホに着信が。
かけて来たのは、甥だった。彼は電話に出る。
社長「・・・もしもし?」
その電話が、この後の急展開に繋がろうとは、その時の社長は知る由もなかった。
翌日―――――
馬鹿三人は、始業式終了後に社長室へと呼び出されていた。
目の前には、険しい顔をした社長と無表情な男性秘書が居る。
居心地が悪い事この上なかった。
馬鹿A「・・・し、社長?何で俺達が呼び出されたんですか?」
社長「・・・心当たりが無い、とでも言いたいのかね?」
馬鹿B「は、はい・・・・・」
社長「・・・・・自分達のやった事の重大さを分かっていないとは」
馬鹿C「な、何の話です?」
社長「・・・村松君を、老害として告発した事だ!」
馬鹿共「「「!?」」」
社長「何も悪い事をしていない彼を老害として殺されたせいで、我が社は終わりだ!どう申し開きするのかね?」
馬鹿A「だ・・・誰からそれを!?」
驚愕しながらも、何故その事が漏れたのかを必死に考える。まさかS区役所が漏らしたのか!?
だが、告発者を漏らしたら彼等が死刑になるのだ。その線は有り得ない。
ではどこから・・・!?
そこまで考えた時、脇に控えていた秘書が情報の出所を明かす。
秘書「貴方方・・・老害審判のあった日の夜、あるバーで三人で飲んでましたね?」
馬鹿B「へっ・・・?」
秘書「そのバーのマスターですが・・・彼は、社長の甥っ子なんですよ」
馬鹿共「「「!!」」」
まさかの情報の出所に驚愕する三人。
そんな馬鹿共を他所に、社長は話を続ける。
社長「私も最初は耳を疑ったよ。だが・・・動かぬ証拠をくれたよ」
そう言って、パソコンを操作して音声ファイルを再生する。
マスター『・・・お客様、もしかして・・・今日の老害審判で殺された人の同僚ですか?』
馬鹿A『あ?そうだけど?どうしたの、マスター?』
マスター『いえ・・・。もしかして、投票で認定に投票したのですか?』
馬鹿B『は?そんな事を聞いてどうすんの?』
マスター『いえ、ちょっと気になったので・・・』
馬鹿C『はぁー、老害対策法反対って奴ですかー?・・・まぁいいや、もうアイツも死んだし、特別に教えてあげるよ。認定も何も、アイツを告発したのは俺達なのさ』
マスター『・・・貴方方が?』
馬鹿A『おう、そーよ!アイツただ年取ってるだけでエラソーだったしよ!死んでくれて清々したわ!』
マスター『・・・プロフィールムービーを見た限りでは、とてもそうは思えませんでしたけどね』
馬鹿B『分かってないねー、マスターは!俺等にとっては老害その物だったし、何より世間様も老害と認定したんだ!俺達は、正しい事をしたのさ!』
あの日の会話が再生され、愕然とする馬鹿達。そう、不穏な空気を感じたマスターは、話しかける前にこっそりボイスレコーダーを作動させていたのだ。
本来は、客がトラブルを起こした際等の証拠の一つになればと思い常備していた物だったが、この様な形で役に立つとは思ってもいなかった様だ。
馬鹿C「なっ・・・なっ・・・なっ・・・!??!?」
社長「お前達の愚かな行動のせいで、全ての取引先から契約を切られてしまったのだぞ!どうしてくれるんだ!!」
そう言って、馬鹿共を叱責する社長。
だが、この三人はこの期に及んで言い訳を並べ始めたのだ。
馬鹿A「お、お言葉ですが社長。あのジジイは裁かれて当然な奴だったんですよ!ただ年を取っているだけで偉そうだったし!」
馬鹿B「そうですよ!仕事のやり方にしたって、古いやり方を押し付けようとしていましたし!」
馬鹿C「何より、世間様も老害認定したんですよ!俺達は何も悪くありません!寧ろ会社の事を思って・・・」
この見苦しい事甚だしい言い訳と自己弁護振りに、社長が遂にブチギレる。
社長「何が会社の為だ!!お前達の行いのせいで、全ての取引先から手を引かれて、会社が立ち行かない状態になっているんだぞ!!残念ながら、倒産は免れない!!1000人以上の従業員達やその家族に、どう申し開きする気だ!!」
馬鹿B「で、ですが・・・我々は正しい事を・・・」
社長「まだ言うか!!」
激昂した社長は、年を感じさせない鋭い動きで彼等の前に立つや、大学時代のアマチュアボクシング仕込みの鋭いフックを顔面に叩き込む。
強烈な一撃を受けて、三人は堪らず倒れ込んだ。
社長「長年我が社に貢献し続けていてくれた村松君を、下らない妬みであろう事か老害として殺させておいて、正しい事を自分達はしたと?よくも言えたな!!」
馬鹿共「「「・・・・・」」」
社長「お前達の処分だが、当然クビ!それも懲戒解雇だ!!」
馬鹿A「そ、そんな!?」
社長「当然だろう!お前達のせいで、この会社が潰れる事になったんだ!寧ろ何故そうならないと思うんだ!?」
馬鹿B「そ、それは・・・」
社長「それと、今回の件の損害賠償も請求させてもらう」
馬鹿C「ちょ、待って下さい!クビにされたのに、そんなの払える訳・・・」
社長「払える払えないじゃない!どれだけ借金をしてでも払うんだよ!・・・今回の件は、村松君のご遺族にも伝えておいた。近く、そちらからも請求が来るだろう。覚悟しておくんだな!」
馬鹿共「「「・・・・・」」」
社長「分かったら、荷物を纏めて立ち去り給え。正直顔も見たくない!」
社長の言葉に、力無く項垂れる馬鹿三人。トボトボと社長室を退室していった。
社長「全く・・・。あんな馬鹿共の為に・・・我が社は・・・・・」
秘書「あの三人のせいだけでは有りませんよ。あの悪法に、ネット上の無責任な悪意。それ等が、我が社を押し潰してしまったんです・・・」
社長「・・・・・」
余りにも残酷な事実の羅列に、社長は力なく項垂れる。
だが・・・社長はある決断を下した。
社長「・・・決めたぞ。記者会見で、事の経緯とあの悪法の在り方の是非を問う」
秘書「なっ!?正気ですか社長!?そんな事をすれば、最悪政府に消される事に!?」
社長「それがどうした?」
秘書「!?」
社長「守るべき会社は無くなってしまった。それに、私には家族が居ない。今更失う物等、何も無いさ。何より・・・その位はせねば、村松君も浮かばれないさ・・・」
何処か晴れ晴れとした顔で、そう語る社長。
その顔を見て、秘書も腹を括った。
秘書「社長だけを死地には向かわせられません。私もお供します」
社長「待ちなさい。君はまだ若い。私に付き従う義理は」
秘書「社長一人では、資料一つ纏め上げるのも一苦労でしょう?私がサポートさせて頂きます」
社長「・・・悪いが、給料は出せないぞ?」
秘書「承知の上です」
社長「・・・・・馬鹿野郎」
涙を浮かべながら、秘書の手を握る社長。
その後・・・経営破綻に至った経緯の説明に置いて、自社の社員が故・村松清十郎を老害だと告発した経緯を説明。彼を救う事が出来なかった事を陳謝すると共に、老害対策法の在り方の是非を問う事に。
何の法的効力も無い告発だったが、この事を切っ掛けの一つとして老害対策法の有り方の是非を巡る大論争が発生する事となる。
最後に社長と秘書、そして馬鹿三人の末路を語ろう。
まず社長と秘書だが・・・懸念された通り、大豆生田が放った刺客の手に掛かって殺される事となってしまう。表向きは事故死と発表されたが、それを信じる者は誰もおらず、更なる大きな動きの原動力の一つとなっていく。
そして、そもそもの諸悪の根源な馬鹿三人だが・・・裏社会の違法金融業者複数から、一人頭1億5千万を強制的に借りさせ、遺族への慰謝料や元従業員達への補填に当てられている。その後の消息は不明だが・・・裏社会の連中に内臓を根こそぎはぎ取られて殺されたとも、取り立てに耐え切れずに富士の樹海に入り込んで、二度と戻ってこなかったとも言われている。
以上です。無雲様と比べて拙い事この上ない代物ですが、どうにか完成しました。
馬鹿三人は、最後まで反省の言葉が有りませんでした。間違いなく
「死んでからも俺達を苦しめやがって・・・」
てな感じで、逆恨みをしている事でしょう(嘆息)。まぁ、屑共に相応しい末路を辿らせる事は出来ましたが。
そして社長と秘書ですが、書いている内に何故かこういうキャラとなってしまっていました(汗)
まぁこの発表一つでどれだけ影響力が有るかと言われると、返す言葉が無いですが(汗)。ですがそれでも、せめてこうなって欲しいという思いを込める事は出来たかと。
因みに名前を決めなかったのは、面倒k・・・ゲフンゲフン←殴
もし何かしらの形で使われる様な事になった際、作者様の自由にしていただけたらというのが理由です。
では、引き続き本編の方も頑張って追っていこうと思います。それでは。