一年に一度の謎空間。見渡す限りの白の中心には、これでもかというほどの料理達が並んでおり、まるでビュッフェスタイルレストランのようだった。
『ようだ』ではなく事実、まさに無料ビュッフェだ。
「はー、俺たちももう6周年か。」
しみじみとジュースをちびちびと飲みながら、練はそう呟く。そう、もう6年目なのだ。2年目は開催しなかったので、この都合のいい謎空間は5回目だ。
「長かったようで早かったの!!」
料理を片手にはにかむルミナ。珍しくパーティ用の服装を身にまとい参上。大人っぽいゴシック調の黒ドレスだ。勿論、練は成仏しかけたが、この後に更なるビッグイベントが控えてるため、あの世から戻ってきた。
「確かに、結構色んな事があったよね!」
料理を時空魔法で空中に固定しつつ両手にフォークとスプーンを握るのはクロノス。
何をしてるんですかね、彼女は。
「……なんてそんな想い出話は後にして……今日は周年記念日以外にも記念日がありますよ!!」
シルフィアのその言葉に皆がうんうんと頷く。
「そうそう!あの日だよね!」
「忘れてはいけませんね。」
ダークとライトが顔を見合わせ、全員で叫ぶ。
「「「「ルミナちゃんの誕生日!」」」」
「なの!!」
その通り。8月7日はルミナの誕生日なのだ。みんなお祝いしようね。
「……ふふふふ。惜しいですね……。」
しかし、そんなおめでとうムードの中、シルフィアが不敵に笑う。
「「「「「……?」」」」」
「おいおい、ルミナの誕生日に惜しいも何もないだろ。」
「いえいえ!!惜しいんですよこれが!!分かる人〜!!」
「「「「「…………?」」」」」
しーん。シルフィア、落胆。
「え、全滅…………?こ、コホン。しょうがないですね。そう!!この日は何を隠そうこの私!シルフィア・エルティの誕生日なのです!!!」
今明かされる衝撃の真実!!
「「「「………………えぇぇぇ────ッッッ!!!!!????!!!」」」」
「そーいえばそうだったの。」
シルフィアの誕生日を把握していたのはゼロ人。知っていたのはなんとルミナだけだった。
「そ、そんなビックリします…………?」
「だって……前から…………誕生日毎年可変なの?」
「そんな訳ないじゃないですか!!」
「なら、誕生日6年に1回しかない?」
「いえいえ、毎年この日は国民全員が私の誕生日を祝いますよ。」
「…………うーん……。」
何度も失礼な質問を繰り返した練だったが、流石に不憫に思ったのか、段々と声が小さくなる。
「ふっふっふ……これまでの事は水に流してしまいましょう。」
「え、いいの!?」
「過ぎたことですから……しかし!!今年こそはルミナちゃん!!貴女よりも早く私を祝って貰います!!」
「「「「何ィィィィッッッ!!??!!」」」」
確かに。いつも誕生日を祝う時はルミナが優先だった。(というかそもそもシルフィアの誕生日を祝ってない。)
「そ、そんなことまかり通る訳が……。」
「大人げないよ〜!!」
別に今までが今までだしいいんじゃね?と思わずにはいられないが、ルミナはなんとまだ6歳。シルフィアは百数歳。大人げないのも納得だ。
「ふっ……どうしても嫌なら勝負です!!ここには魔力があります……羽根突き大会の二の舞にはなりませんよ!!」
しかし、シルフィアはあくまで見た目相応に大人気なく、堂々と勝負を挑んでいく!!
そして、その挑戦状を、叩きつけられたルミナは────
「うーん…………あのね、ルミナはシルフィアちゃんを先にお祝いしたいの。」
────なんと、大人な対応だろうか。
「えっ…………?」
「……菩薩か?徳高っ。」
流石に大天使ルミナリエ。自分の誕生日にすら自分でなく他人を優先できるこの、心の広さたるや超銀河!!
「る、ルミナちゃーん!!!!」
「今まで誕生日祝えなくてごめんね?」
「ううん!全然!全然気にしてないよ!!」
シルフィアとルミナが互いを抱き締め合う。その波動は世界を揺るがし────
「……ふっ、ルミナには敵わねえな。」
──その百合の波動を受けた練の体が、白い光の粒子に還元されていく。
「…………練くん……消えるの…………?」
「Happybirthday…………シルフィア、ルミナ…………。」
「パパー!!!!」
金子練、尊みで消滅………………。