富士見公園は単なる公園ではない。憩いの場であり、祭りの舞台であり、かつてプロ野球の息吹が響いた場所であり——そして、夜には決して足を踏み入れてはならぬ領域でもある。
昼の富士見公園は穏やかだ。陽光の下、子どもたちは遊び、ランナーは駆け、ベンチには平和な時間が流れる。毎年「かわさき市民まつり」が開かれる際には、無数の屋台が立ち並び、人波が押し寄せる。焼きそばの香ばしい匂いが漂い、笑顔が溢れる。そこに影はない。
だが、夜になると話は変わる。
日が沈むと、地元の者たちは決まってこう言う。「富士見公園には近づくな」と。
かつて、この地にはプロ野球の歓声が響いていた。旧川崎球場——それは大洋ホエールズ(現・横浜ベイスターズ)の本拠地であり、伝説の「10.19決戦」の舞台であった。その熱狂は時とともに薄れていった。だが、熱が冷めても、血はなお沸き立つらしい。
富士見公園の夜は、別の戦場となる。バイクのエンジン音が響き、タバコの煙が漂い、背中に刺繍を施した特攻服が集う。彼らは拳を交わし、語らい、無言の掟を守る。外部の者が踏み込めば、それはすなわち試合開始のゴング。無論、観客席など存在しない。
だが、不思議なことに、この夜の公園がテレビ撮影の舞台にもなる。昼の顔が映し出されるのか、それとも、たまたま映り込んでしまった“彼ら”がいるのか——それは視聴者の想像に委ねることとしよう。
昼と夜。喧騒と静寂。
プロ野球の記憶と、特攻服の遺志。
富士見公園は、そのすべてを内包する場である。
だが、繰り返そう。
夜に立ち入るな、と。