またきたよ。
これで五日連続だよ。
皆勤だね。
あはは。
そしてマーケッター君は会うなり流れるようにウェルカム?スムージーを僕に。
彼のマイブームだ。
お気に入りはセブイレのやつ。ベリーがおすすめらしい。
「いやー毎日すみません。ずずずー」
「…」
くそ、無駄に良い笑顔しやがって…。美味しそうだし断れないじゃないか。
「全然いいよ。ずず」
あ、美味しい。甘さ控えめじゃん。いいじゃん。いいじゃん。
違う違う。
「あ、ポテトも買ってきたっす。一緒に食べましょう。オレ、揚げたてをバーベキューソースつけるの好きなんすよ」
「…」
ポテトだぁ?
クソまず時代のマクドナルドポテトの抜け道を、わざわざ、敢えて、だと?
ふざけやがって。
この手付かずで食べれるありがたみをわからないのか。僕の時代はなぁ、僕の時代のマクド……というか普通に食べようよ。
そんなの付けなくても今の美味しいし。
しかもそんなの遠い記憶過ぎて今食べても感動なんてしないんだからねうまーい!
はい、知ってた。
絶対美味しいだろなって知ってた。
でももう結構な大人で!
僕にはそんなの出来なかったんだ!
「…美味しいね」
「でしょっ!」
くそっ! いつもこの子は僕の中の俺を揺さぶってきやがるっ! 運動に明け暮れた日々を! 仲間たちと過ごした毎日を!
あのボソボソのクソまずポテトの!
青春のマジでほろ苦いポティトを!
違う違う。
というか僕は何と戦ってるんだ。
そうしていつものようにテキパキと仕事モードに入るマーケッター君。だが今日はいつもと違って分厚い資料がMacの横に置かれていた。
「それ、何? もぐもぐ」
「ああ、後で弁護士事務所行くんす」
弁護士…?
その響き穏やかじゃ無い。
いったい何があったんだ…?
というか今まさに僕が欲しいのだが?
「前に受けたパワハラっすよ」
「パワハラ…?」
ああ、そういえば一度彼は会社でそんな目にあっていて、適応障害判定されたはず。落ち込んだ彼の話を聞いて、いろいろとアドバイスしたことがあった。思えばそこから仲良くなったなぁ。
今ではすっかり立ち直り、元気になったのに、弁護士…?
というか僕も今まさに何かしらのハラスメントを受けてやしないかな?
まあいい。
それはこの後の追いコーヒーで我慢するとしよう。
とりあえずあの時の資料を見せてもらおうじゃないか…って分厚ぅ!?
「こんなに書いたの?」
「オレはペラ三枚くらいであとは労基の聞き取りっすね」
これは大変な量だ。資料は三つあり、①彼の主張まとめ。②労基まとめ。③診断書だった。
①は以前言った内容だからと②を見せてくれた。
何気にこういうの見るの初めてなんだが。
ドキドキするんだが。
うわ、めちゃくちゃ黒塗り多い。
「黒塗りすごいね」
「個人情報部分っすね」
そうなのか…。あれってTVの中だけじゃなかったんだ…。
進化も含めて知らないことばかりだ。
読み進めると、上司による罵倒や業務に関して素人の僕でもわかるくらいの達成困難なノルマなどが書かれていた。
「そういえばこの頃よく電話くれたよね」
「マジ死にそうだったんで…助かりました」
「そっか…」
ちょっとややこしいのは会社が二つ関わっていて、そこをたらい回しにされ、あげく使えないと言われていたみたいだ。ああ、あの時なんでいろんな会社名と上司がポンポン飛び出してくるのかよくわからなかったけど、どうやら社長同士が友人で、そこの間を都合よく動かされたみたいだ。
業務が営業、テレアポ、事務とたらい回しされている。しかも会社の損失を彼に押し付けるようにして給料の減額まで…酷いな。
いや、そんなの無理だろ。一つのことを突き詰めるから結果が出るのであって、こんな短期間で動かしたら何も蓄積しないじゃないか。
ほんと短期成果主義って嫌いだ。石の上にも三年なんだよ。
そして罵倒は、「死ね」「ポンコツ」「君の仕事は五万の価値もない」「甘ちゃんおっぱい」などで、事実確認していて、弱、中、強と分類されている。
中が多かった。
こうやって判定するのか。
「最後の甘ちゃんおっぱいって何?」
「いやわかんないっす」
何だこの罵倒は……どう怒ったらこんな発言が飛び出るんだ。現場の空気感がわからないと発言の前後が全然想像出来ない。
「お前のかーちゃんでべそ」の令和バージョンだろうか…。この上司の精神状態が逆に気になってくるな…。
「労災降りてなかった?」
「降りましたよ?」
「?」
何だそのきょとんとした顔は…。あれ?僕がおかしいのか?
「ここの近くのとこ見つけて、腕いいらしいんすよ」
「弁護士の話?」
「そうっすよ?」
「…」
いや腕前とか敏腕とか辣腕とかどうかではなく、あまり詳しくないけど、労災下りたなら成敗完了では?まだその会社で働いてるよね?
「今度の車の保険に弁護士特約ついてるんすよ」
「ああ、それで裁判費用を……ん?」
いや、こいつまさか……。
やべぇ。
こいつまだまだいく気だ!
え?というかこれが今の普通?僕がおかしいの?まだ勤めてるよね?まだまだやめないんだよね?何?何これ?いつからこの国USA?
「この内容なら多分50以上は確定で、300までは全然いけると思うんすよ。ははは」
「…」
こいつもしかして、これを車の費用に補填する気じゃ…?
ずっとヘラヘラしててぶっちゃけサイコパスにしか見えない。
目の前に少し残っていたポテトは、いつの間にかボソボソとした食感になっていて、僕はあの頃のようにバーベキューにびちゃりと浸した。
まっず。