第1話 死なないために
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———死なないためにはどうすれば良いか。
そんな人間の悲願とも言える事柄について、1度実際に死を体験した転生者たる俺ことゼロは、必死に考えた。
なまじ即死じゃなくて数十秒も意識があったせいで、死が何よりも恐ろしい。
だから必死に考えて考えて考えて。
何年も考え続けた結果が———。
「———おぉ、ここが入団試験場か……!」
———俺が暮らす国、アズベルト王国の兵士になることだった。
そのため成人と認められる15歳となった俺は、兵士になるべく、入団試験が行われるアズベルト王国の王都にある騎士団修練施設にやって来ていた。
華やかな王都の風景に合わない物々しい鉄製の防壁の様な物に囲まれた施設の中からは、剣と剣がぶつかり合う音や掛け声が聞こえてくる。
……うわぁ……厳しそうだなぁ……。
こんな地獄みたいな所に俺は何年も在籍しないといけないのかよ……我ながら博打みたいな選択だな。
当たり前だが、死にたくないのにわざわざ兵士になる馬鹿はいない。
そんなことは頭が大して良くない俺でも分かっている。
ただ俺の場合は、死なないためには兵士にならざるを得ないのだ。
というのも……。
「……チッ、どうして平民は兵士にならないと強化魔法を教われないのかね」
今言った通り、死なないために強化魔法がどうしても必要なのだ。
俺には転生者として、神から貰った特別な力がある。
俗に言う『転生特典』と呼ばれるやつだ。
その力の名は———『無限再生』。
肉体がこの世から完全に消滅しない限り、再生することが出来るチート能力。
勿論頭が吹き飛べば頭がない間の記憶は無くなるし、再生する部分が多ければ多いほど再生に時間が掛かるが……それでも死にたくない俺にとっては最高の能力だ。
正直『不死』が理想だったが……それだけは駄目だと神から言われたので、ないものねだりしても仕方ないと割り切っていた。
ところがどっこい。
この世界には、身体を超越した『魔法』という、相対的に『無限再生』と一線を画すチート過ぎる能力が存在したのだ。
更に魔法には下、中、上、戦略、小国、大国、世界……と等級が存在しており、上級魔法ともなれば俺の身体など跡形も無く消滅してしまう。
———で、気付いてしまった。
…………『無限再生』意味ないじゃん、と。
先程も言ったが……『無限再生』はほんの僅かでも肉体がこの世に存在していなければいけない。
それなのに、下から3番目の魔法に当たれば肉体が完全に消滅すると来た。
上級魔法が使える輩はうじゃうじゃと存在しているのに、だ。
通りで神様が快くこのチート能力を授けてくださったわけだよ。
こんな世界でこの能力貰ったって別にパワーバランス全く変わらねーもん。
でも俺は諦めなかった。
この能力で限りなく不滅の存在になるにはどうしたら良いのか、そう考えた末に辿り着いたのが……。
———傷は治るのだから、魔法で完全消滅しない程の肉体強度を得ればいい……だった。
そしてこの世界で肉体の強度を上げるのは『強化魔法』ただ1つ。
強いて言えば、神聖魔法のバフも上げられるが……元日本人の俺が熱心な信者にはなれなさそうなので却下した。
あ、痛みにはもう慣れるしかない。
そんな俺の唯一の希望たる強化魔法は、貴族ならまだしも平民の俺には兵士になる以外に習得方法がなく……こうして冒頭の如く、泣く泣く兵士になるためにやって来たわけである。
他にも平民の俺は飢えと戦わないといけないし、良く戦争が起こるから巻き添え喰らえばひとたまりもない……というのもあるのだが。
「はぁぁぁぁぁ……。くそう、やるっきゃねーか……!」
俺は重たい足を無理矢理動かして、100%地獄だと確定している防壁の中へと足を踏み入れた。
「———入団希望者番号1034番、ゼロです! 生まれはアイラ村、生まれ付き肉体治癒力がずば抜けて高いです!」
「ほう……それはどの程度だ?」
「ざっくり包丁で腕を切っても数秒で治ります!!」
「……よし、合格だ」
俺の目の前で先程書いた履歴書的なモノと実物を見比べていた、50代くらいの強面の隻眼教官が、合格の判子を押す。
その判断の早さに思わず目を丸くする。
「え、もう合格なんて決めて良いんですか?」
「ああ。肉体治癒力の高い者は、魔力や身体能力が高いことで有名だ。流石に切断されても生えてこないがな。それにお前は私に怯えず堂々としている」
ごめんなさい、ただヤケクソになってるだけなんです。
何なら受けて後悔した……何て思ってます。
それに、切断どころか身体の殆どが消し飛んでも再生します。
何てとても言えない俺は、『今年は豊作だ、鍛えがいがある。ガッハッハ!!』と嬉しそうに笑う教官に合わせて笑みを浮かべた。
この時の俺は知らない。
———強化魔法と『無限再生』の相性が抜群なこと。
———平民出とは思えないくらい武功を立てて昇進すること。
———『不滅者』の名で数多の国に警戒されること。
———数多の美女に狙われるようになること。
「———これから宜しくな、ゼロ」
「こちらこそ宜しくお願いします、教官」
全て、今の俺には知る由もないのだった———。
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