海月くらげです。
そろそろ新作上げたいよな……の気持ちになったんですよね、ええ。
まだ書き溜め心配ですけど、何とかなるかなって。
てことで新作内容の告知です。
ジャンル:ラブコメ
タイトル:偽装彼女が全然別れてくれない件
日時:10月10日の朝から投稿開始予定
タイトル通り偽装の彼女なのに別れてくれない二人のラブコメです。とてもとても健全です。少なくとも書き溜め分ではね……
で、元からサポーター限定で一話試し読みを公開しようと思っていたのですが、無料分ってことでちょっとだけここにも載せておきます。
ちなみにヒロインはいつものです。
仕方ねえんだよな、こうなっちまうんだよ(?)
てことで公開をお楽しみに~
試し読みもよかったら読んでいってくださいな。
試し読み無料版
―――
俺――|桑染《くわぞめ》|珀琥《はくと》が通う清明台高校二年生の同じクラスには、男子からの人気をほしいままにする美少女が在籍している。
名前を|白藤《しらふじ》|月凪《るな》という彼女は、一年の頃からずっと学年一位を守り続けている才女だ。
その上、ハーフの彼女は容姿もモデルや芸能人にも引けを取らないほど優れている。
艶のある白銀の長髪と、澄み切った空色の瞳。
顔の造形は端正な輪郭に縁どられていて、浮かべる表情は常に淡泊な無表情。
人によっては冷たい印象を抱くだろう。
しかし、それは表情筋の可動域が狭く滅多なことでは使われないだけで、感情がちゃんと宿っていることを俺は知っていた。
女性的な頬の丸みも、顔の中央を二分する鼻梁も、花の蕾を思わせる結ばれた桜色の唇も、単なる飾りではない。
そして、制服の上からでもわかる均整の取れたスタイルも相まって、妖精じみた魅力を常に漂わせている。
ひとたびすれ違えば男は見蕩れ、目で追ってしまう存在。
学校では毎週のように男子たちが無謀な告白を決行しては斬り捨てられている。
そんな冷たくも美しい少女が白藤月凪……なのだが。
「珀琥、帰りましょうか」
最後の授業が終わってしばらくのこと。
帰宅の用意を終えた月凪が前の席から立ち、返事も聞かずに俺の腕に腕を絡めた。
腕に当たる柔らかな感触。
ぐい、と引っ張られながらも「ちょっと待ってくれ」気が早い月凪に告げ、残りの物を片手で適当に鞄へ詰める。
「今日もやってるよあのバカップル」
どこからか聞こえてきた声に俺はひっそりため息をつく。
バカップル。
それが指すのは俺と月凪。
俺たちは半年前……一年の十一月から付き合っていて、それを公言している。
だから学校中の人間が知っていることだろう。
「俺たちの白藤さんがなんであんな男に……」
「白藤さんに嫌われたくなかったら静かにしとけ」
続いて聞こえた会話には、俺への嫉妬や羨望が乗っている。
しかし、それを別の人が諫めていた。
その理由は至って単純。
「…………はぁ」
たった一つの、小さなため息。
出どころは俺の腕を離さないまま、さっきの会話をしていた人の方へ冷たい視線を送る月凪である。
澄み切った空色の瞳には、失望や嫌悪がありありと滲んでいて。
「――月凪、帰るぞ」
無駄な諍いを避けるべく月凪の腕を引けば、不承不承ながらも彼らから視線を外してついてきてくれる。
教室を出て、廊下を歩き、玄関を出るまで沈黙を貫いていた月凪が口を開いたのは、校門を過ぎて人目が少なくなってからだった。
「……本当に、ほとほと呆れます。珀琥を私の目の前で馬鹿にしたら、どう思うかなんてわかりきったことでしょうに」
「月凪は気にしすぎだって。そもそも俺の顔が悪いからどうしようもない」
完全に機嫌を損ねた声音の月凪を宥めつつ、肩を竦めて答える。
彼らが俺のことをとやかく言ってくるのは学校屈指の美少女である月凪を彼女にしていることも理由の一つだが、一番大きいのは俺の顔だろう。
というのも『毎日喧嘩していそう』とか『ヤのつく自営業の人たちと関わりがありそう』などと、謂れのない嫌疑をかけられる程度には強面なのである。
普通にしていても鷹のように鋭い目つき。
彫りが深いから無表情でも怒っているように見えてしまう。
眉は元から細いし、髪型は適当に短く揃えているだけでもその手の人みたいな雰囲気に近づいてしまうのだ。
加えて体格がそこそこいいのも災いしていそうだ。
身長は180㎝に届かないくらいで、がっちりとした体つき。
朝に軽いランニングと触り程度の筋トレをしているだけでこれである。
父さんの勧めで小学生の時に空手をしていたけど、それも一年と経たずに辞めてしまったから関係ないはず。
そんな俺についての噂には一切の根拠がなく、俺も自信を持ってそんなことはしていないと言い切れるクリーンな人間だ。
そういうわけで、学校ではごく少数の友人としかまともに話せない。
大多数の生徒には避けられるか、あんな風に敵対されているのだ。
……が、何事にも例外はあるわけで。
ぴたりと月凪が立ち止まる。
それにつられて俺も脚を止めると、こちらを向いた月凪の手が俺の顔に伸びた。
ぺたり。
頬に添えられた月凪の手はほのかに冷たくて、心地いい。
「この顔のどこが怖いのか私には理解できません。愛想はないと思いますけど目の奥は穏やかですし、笑うとあんなに可愛いのに」
「おいこらあんまり触るなこそばゆいだろ」
「減らないんですからいいでしょう?」
ぺたぺたと楽しそうに頬を触る月凪を引き剥そうかとも思ったが、背伸びをしている彼女を無理に動かせば転んでしまうかもしれない。
怪我をさせるかと思うと抵抗する気も萎えてしまい、月凪が不意に体勢を崩さないよう背中を支えてしまっていた。
……ほんと、どんだけ甘いんだよ俺は。
ひとしきり俺の顔を触って満足した月凪を隣に伴いながら歩幅も合わせて歩くこと十分ほどで、俺が住むマンションの前に辿り着く。
俺はわけあって通っていた中学校がある地元と実家を離れ、一人暮らしをしている。
元から家事を仕込まれていた俺は一人暮らしで苦労することはなかったが、今の生活を一人暮らしと呼んでいいのかは謎だ。
というのも――
「やっと帰ってきましたね。これでようやく人目を気にせずに話せます」
「……ほんと、流れるように俺の家に入っていくよなぁ」
「勝手知ったる場所ですから。お隣だから間取りも変わりませんし」
学校ではバカップルとすら揶揄される俺と月凪だが、他の誰も知らない繋がりが一つだけある。
それは、俺と月凪の家がマンションのお隣だということ。
だからといって付き合うまで何一つとして疚しい関係はなかった。
月凪の部屋を訪ねたのも引っ越しの時の挨拶をしたときだけだ。
けれど、付き合ってからはひと月経った頃には、俺の部屋で寝る前まで共に過ごすのが常になっていた。
朝食時には月凪が早起きして食べに来るし、夕食も当然のようにこのまま二人で共にする。
別なのは風呂と寝ることくらいだが、俺が何も言わなければ月凪はいつまでも居座るだろう。
そんな月凪が俺よりも早く合鍵で部屋の鍵を開けてしまう。
先んじて玄関へ入った月凪がくるりとこちらへ振り向いて。
「おかえりなさい、珀琥」
「……ただいま、月凪」
―――