次書いてる小説の先行公開です。
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サブタイトルは
「~無能天職に呪われた少年は、見つけ出した古代魔法を操り無双する~」
とかそんな感じです。
あんま惹きつけるタイトル思いつかないや。
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俺には、夢があった。
『かつて自分を助けてくれたようなかっこいい魔法使いに、護国魔法師の席に座れるような最強の魔法使いになる』という、田舎村の少年が持つには少しばかり分不相応な夢が。
なのに。
「アハルト村の少年、マリウス! その天職として【画家】を与えられた!」
前年に12歳になった子供が集まり、教会で神様からのお言葉をいただくはずの場所で、俺は、嘘だ、と叫びたくなるような事実を告げられて。
「同じくアハルト村の少女、レシーナ! その天職として【魔法師】を与えられた!」
そしていつも自分についてくる、子分のような親友のような、そんな関係性だと思っていた幼馴染の少女に置いていかれた。
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メルンハルト王国。
それが俺の生まれた国だ。
大陸の中央付近に位置する国家で、西のネストリア帝国と東のマイハト諸国連合に挟まれたような場所に位置している我が国は、しかし、東西からの圧力を跳ね返す程の国力を備えていた。
その武力の最たるものとしてあげられるのが、宮廷魔法使いから選出された|突出した《・・・・》魔法使いによって構成される『護国魔法師』だ。
その魔法の力は圧倒的で、その1人1人をして1つの軍と相当するほどの戦闘力を持ち合わせていると言われ、各国から恐れられている。
その下に位置する宮廷魔法使い達も1人1人が優れた魔法の使い手として有名であり、中には国内の大貴族に頭を下げられてまで領地に招かれているような者も存在している。
らしい。
これは全部、俺が住んでいる村の外れに家を構えている爺さんのグスタフに教えてもらった話だ。
俺がもっとガキの頃にどこかから引っ越してきていつの間にか住み着いていた爺さんは、いたずらばかりする村の他の子供とは違って興味津々の様子を見せる俺と俺の幼馴染を気に入ったのか、色々な事を教えてくれた。
その中で、爺さんがそれなりの数持っている本を使って文字の読み方なんかを教えてくれたおかげで、こんな小さな村に住んでいる子供にしては、俺と幼馴染は分不相応に賢い。
分不相応なんて言葉を使えるのも、爺さんの教育の賜物だ。
ただ父さんと母さんはそれにあまりいい顔をしておらず、そんなところに入り浸っている暇があるぐらいならうちの仕事である鍛冶屋の手伝いをしろと言っている。
だが生憎と、俺には夢がある。
「爺さん、今日も遊びに来たぞ!」
「こんにちは~」
だから今日も、適当なところで家の仕事の手伝いを抜け出して、隣の家に住んでいる同じ年のレシーナと一緒にグスタフ爺さんの家に遊びに来た。
「おお、よく来たな2人共。しかし、ノックの後は相手の返事があるまで待つものだぞ。まあ取り敢えず、中に入りなさい。お茶を入れてあげよう」
爺さんの家の扉をノックしてから開けると、中に座っている爺さんが俺達を歓迎してくれた。
小言を言われたけど、俺達と爺さんの間柄だ。
なんならこの村で一番爺さんとよく話しているのは俺達だという自信がある。
「そんなことより爺さん、この間の話の続き、してくれよ。な、レシーナ」
「えー、私はもっと遠くの国のお話を聞きたいんだけどなー」
遊びに来たとは言っても、本当にただただ楽しいからやってきているわけではない。
むしろ俺のつもりとしては、将来のために爺さんの下で学びに来ている、ぐらいのつもりでいるのだ。
だからゆっくりしている時間があったら、昨日爺さんが話していた“檜の英雄バシャール”について聞きたいのだが、どうやらレシーナはそうじゃないらしい。
「なんでだよ。かっこいい英雄の話聞いておいた方が将来役に立つかもしれないだろ?」
「将来って、一体何の役に立つの?」
「それはもちろん、最強の魔法使いになるためにだよ」
俺の夢。
それは、このメルンハルト王国において最強の魔法使いになること。
「凄いよねマリウスは」
「何だよ、皮肉ってやつか?」
そんな夢を語った俺に、やれやれと言いたげにレシーナが肩をすくめるので思わず俺は噛みついてしまう。
けど、どうやら馬鹿にしているわけではないらしい。
「みんなに無理だ、って言われ続けてるのに、ずーっと出来る! って言い続けてるの、凄いと思うよ」
「そ、そうか?」
そんな風に言われるのは初めてだったので少し照れてしまった。
それに、別に俺が言っているのは本当にそう思っているからだけではない。
と、そこで横で話を聞いていた爺さんが尋ねてくる。
「そう言えば、何故マリウスがそこまで魔法使いになりたいと言っているのか、聞いておらんかったのお」
「あれ、そうだっけ?」
思い返してみれば、確かに爺さんからは話を聞くばかりで俺の方から何かを話したことは無かったかもしれない。
「確かに爺さんの話聞いてばっかりだったな。じゃあ今日は俺が爺さんに話してやる。その代わり昨日の続き、聞かせてくれよ?」
そう爺さんに念を推してから、俺は俺の大事な大事な、一番の思い出について話し始める。
といっても、そこまで大した話じゃない。
父さんと母さんと一緒に馬車で少し離れたところにある街に行く途中で、俺は父さんと母さんが休憩したり馬の世話をしたりしている間に、初めて見るいつもとは感じの違う森に興味をもって、フラフラっとその中へと歩いて入っていったのだ。
今まで爺さんから習ったことのある知識によれば、多分葉っぱが尖っている木と葉っぱが広がっている木の違いで、村の周囲の森とは全く別の森に見えたのだと思う。
好奇心だけで森の中を突き進んでいた俺は、普通に迷った。
今考えれば当たり前だ。
だって村の近くの森だって、気をつけなければ迷ってしまうことがあるぐらいなのだ。
知らない森に入れば当然ながら迷いぐらいはするだろう。
そこで俺は、1体の魔物に襲われた。
魔物。
動物とは違って人間に対しても凶暴で、人を襲ったり村を襲ったりする危険な生き物。
爺さんに教えてもらった限りでは、動物の中にも人を襲うやつはいるらしくて、魔物は身体に魔石を持っているとかなんとか言っていたが、大分前に聞いた話なのであんまり覚えていない。
さておき、1体の魔物。
魔物はとても強くて、大人の兵士や冒険者でも1人では勝てなかったりすることもあるらしい。
そんな魔物と出会ってしまった俺は、恥ずかしい話だけど、全力で背中を向けて逃げ出してしまった。
今ならそうするのが正解だったとわかるけど、それでも男たるもの、そして将来最強の魔法使いになるものとしては、どんな強い相手にも逃げないという姿勢を見せる必要があると思っているので、あのとき逃げたことは今でも恥に思っている。
そんなときに出会ったのだ。
俺の救世主、そして未来の夢に。
その人は、俺の事を追いかけていた魔物に対して燃え盛る炎の球を叩き込んで動きを止めてくれた。
そして俺の方を振り返らないままに、緑色に光る刃みたいなものとか、石の塊とか火の球とかを飛ばして、あっという間に魔物を倒してくれた。
そしてその後に俺を振り返って言ったのだ。
『大丈夫かい少年。怪我はないか?』
銀色の長髪に、片目を覆う眼帯の暗い赤色は今でも忘れられない。
その後で父さんに聞いた話によると、この国で一番強い魔法使いである護国魔法師の1人にそんな姿の人がいたらしい。
とにかく、俺はそのお姉さんを見て思ったのだ。
魔法使いって、すごくかっこいいな。
そして、強いのって、とてもかっこいいな、って。
「だから俺は、最強の魔法使いになってあのお姉さんを超えるんだ。一番かっこよくなるために」
「なるほどのお。それで色んな英雄の話を聞きたがっとったのか」
「おう!」
色んな英雄の話を聞いていれば、いつか俺も真似してかっこよくなれる。
そう思って爺さんからは色んな英雄の話を聞きたいのだ。
なのにレシーナと来たら、英雄の話よりも遠い国のことばかり聞きたがる。
そんなちょっとした不満を俺が口に出来ずもやもやしていると、爺さんが何かに気づいたような表情をした。
「そう言えば、お前さんらももう12の年じゃったか。となると、来年にはアスハバルデ様の祝福があるのお」
「アスハバルデ様の祝福、ってなんだ?」
「マリウス、あれじゃない? 毎年祝福祭って言ってお祭りしてるの」
「ああ、毎年美味しい肉が食べられるやつか! でもアスハバルデ様ってなんだ?」
「さあ……」
爺さんの言葉に聞き覚えの無かった俺とレシーナは、顔を見合わせて首を傾げる。
「ほっほ、お前さん等、食事の前に神様に感謝するじゃろ? その神様の名前が、アスハバルデ様と言うんじゃ」
「「えっ」」
爺さんの言葉に、俺とレシーナは驚いて同時に声をあげてしまう。
そして一瞬の視線の交錯でどっちが先に口を開くか決めた後、爺さんに尋ねた。
「神様に名前ってあったんだ」
「……凄い人だから神様っていう名前なのかと思ってた」
たまに行く街の教会とかでも『主は~』『神は~』って言ってて名前が出てこなかったから、1人しかいない神様だから名前がついてないのかと思っていた。
「ほっほ、まあ神話についてはまた教えてやろう。代わりに今日は、アスハバルデ様の祝福と、天職というものについてお前さん等に教えてやろう。特に魔法使いの高みを目指しているマリウスには、大事な話だ」
そう言って爺さんが話し始めたのは、毎年俺達が祝福祭として祝っている日に、実際には何が行われるのかということだった。
毎年その日には、その前年に12歳を迎えた子供たちが、ある程度の大きさがある街の教会へと集まるらしい。
そしてそこで、神器である神託の水晶を通してアスハバルデ様、つまり俺達が普段祈ってる神様から祝福の言葉、『神の囁き』を貰う。
『素晴らしき人生が送れるように、祝福を授けよう』『末永く子に恵まれた人生が送れるように、祝福を授けよう』、とかいった感じで、子供たち1人1人に、水晶を通して神のお言葉をいただくそうだ。
だがたまに、そこで神からの祝福の言葉ではなく、道を示される者がいるらしい。
それがいわゆる【天職】と言われているものだ。
近いところだと、俺の親父が鍛冶師の天職持ちだと聞いたことはある。
そのときはそれが一体なんなのかわかっていなかったから、何も気にしていなかったが、そう言えば親父は田舎の村にに住んでいる鍛冶師としては良い腕をしており、時折他の村や遠くから人が尋ねてくることもある。
アスハバルデ様の祝福では、時折こうした形で【天職】を授けられる子が出るらしい。
これは【天に坐す神より与えられた職】で天職と呼ばれているそうだ。
「それが、俺の夢とどう関係があるんだ?」
「ほっほ、落ち着けマリウス。今から話してやろうて」
爺さんが言うには、その天職というのは文字通り才能を神から与えられるようなものらしい。
例えば天職として鍛冶師を与えられた俺の親父は、その時から鍛冶や鉄などの金属の扱いについてはいきなり上手くなったそうだ。
そんな感じで、才能を人間に与えてくれるのが天職らしい。
ただ良いことだけではないらしく、天職を与えられた人間は、生き方がそれに限定されてしまうそうだ。
つまり、天職の才能が高まる代わりに、他の事における才能が極限まで低くなる。
例えば親父の場合は、鍛冶師の才能を手に入れた代わりに、それまで目指していた兵士の道はどう頑張っても剣をうまく振ることが出来ずに諦めることになったらしい。
それが、【天職】。
神から道を進むのに足が早くなる靴を貰う代わりに、進むことが出来る道が1つに決まってしまう祝福らしい。
「その【天職】の中には【魔法使い】なんかもあっての」
「ほんとか!? じゃあ魔法使いの才能が貰えるってことか!?」
「実際に、今の護国魔法師も半分ぐらいは【魔法使い】の天職を持っていたはずじゃ」
確かにそういう話なら、【天職】というのは俺の夢に大きく関わってくる。
何せ【魔法使い】の天職が与えられれば、魔法使いとして強くかっこよくなれることが保証されているようなものだからだ。
「とはいえ、残りの半分は何の天職も持ってない者たちが護国魔法師として役目を果たしておる。じゃから、天職が貰えなかったぐらいで諦めることはないからの」
「それぐらいわかってるっての。けど、天職か」
この話を聞いた時点で、俺はどこか浮かれていた。
まだそうと決まったわけでもないのに、【魔法使い】の天職を与えられたようなきになって妄想なんてことをしていたのだ。
「でも、私達みたいな田舎の子供には遠い話でしょ?」
一方のレシーナは、夢のある話を聞いても冷静そのものだった。
そもそも、俺や他の子供たちみたいに、英雄やかっこいい戦士、女ならお姫様とかに憧れる年頃なのに、レシーナはどこか離れたところから自分を見ているように冷静だ。
こういうのを、達観している、って言うんだったっけ。
「……田舎だから、というわけではないが、実際、平民よりは貴族の方がアスハバルデ様の祝福で天職を与えられる割合は高い。じゃからこそ貴族は平民の上に立ち、貴族同士で血を交わらせ続けることで少しでも多く天職を与えられるようにしているわけだの」
「ちぇっ。結局貴族貴族かよ。平民には夢が無いってか」
レシーナと爺さんの言葉で、浮ついていた気持ちが我に帰る。
いつも『最強の魔法使いになる』と言い続けてきたのは、実際にそうするつもりだというのもあるが、もう一つ理由がある。
それは、この田舎村の大人達のように一生を村で過ごし、何も成せずに死にゆくのではないかという自分の将来に対する暗い予想をかき消して、俺はやるのだと自分に言い聞かせるためだ。
だが、爺さんの言うことが本当なら、結局の所天職は貴族に出やすく平民には与えられにくいらしい。
結局平民は平民のまま、俺もこの村で一生を終えるのだろうか。
俺がそう思っていると、爺さんが俺の方に声をかけてきた。
「マリウス、もしお前さんが平民の身からでも宮廷魔法使いを目指すというなら、儂が教えられる分だけは魔法を教えてやろうか?」
それは、俺にとっては千載一遇の好機だった。
思わずその好機に俺は飛びつこうとして、しかし魔法が簡単なものではないと爺さんの教育のおかげで知っているので、踏みとどまって言葉を選ぶ。
「教える、って、教えられんのか? 爺さん」
「ほっほ、これでも元宮廷魔法使いじゃぞ儂は」
直後に飛び出した爺さんの言葉に、俺とレシーナは、揃って驚きの声をあげてしまうのだった。