今回紹介するのは、Ahhissya 作の 「Recorders」です。作品本編を読了した方のみに向けてかいておりますので、先に読んでおかないと読書体験の面白味が消えます。テキスト量的には1分で読みきれちゃうので、ぜひ下のリンクをコピーして開いてもらって、1度目を通してからこの近況ノートを読んでもらえると幸いです。
https://kakuyomu.jp/works/16818093074608954024作品概要欄には「Recorder"s"」という風に複数形のsを強調したキャッチコピーと、「ノートとボイスレコーダーで記録するお話」という1文しか載っておらず、作品を読むまでどんなお話が分かりません。実にワクワクしますね。実に私好みの門構えです。というのは私の作品なので当然なんですが。
ところでみなさん、小説における[視点]とは一体なんなのか考えたことがあるでしょうか。神の視点やカメラの視点といった3人称視点。主人公の目や理性から世界を映す1人称視点。
どちらも聞いたことがあるはずですが、それらは時として混濁することもあります。1人称にしては3人称称的でもあり、3人称にしては1人称的でもある。そんな不思議な小説が書きたくて、この作品を着想しました。
すべての鉤括弧「」はボイスレコーダーによる録音データであり、すべてのナレーションは主人公のノートに記された文字情報である。という設定を、直接的に記述せずに読者に伝えるための文章を作るというのが、この作品執筆時の創作スタイルでした。
では今から作品の実地解説をしていきますので、これまでのネタバレ情報を一度スッキリ忘れてから、改めて読み始めてください。
まず開幕からおかしいですね。三重鉤括弧。これは明らかに校正ミスではありません。筆者が意図的にこの表現を採用したと考えるのが妥当でしょう。
まず1ページ目。開幕から文体概要であることは誰でもわかりますよね、あの三重鉤括弧「「「」」」。校正ミスとかではないことくらい、分かりますよね。これは3台のボイスレコーダーが録音中であることを示しています。
そうと分かるのは1話の終盤にてボイスレコーダー1台が電源を落とされており、第2話では開幕から鉤括弧が二重「「」」になっているからです。
もしこの作品の会話文が開幕から一重鉤括弧で記述されていたとしたら、この時点で物語は終了します。なぜなら会話情報をキャッチできる唯一の録音機と、ナレーションを記述できるノートが失われ、1文字たりともそれ以上紡ぎ出すことができないからです。(この作品のルールとして。)
最初からボイスレコーダーが1台しかなかったなら、その電源を落としてしまえば録音できるデバイスがゼロになって小説は終わるが、初めから2台以上あったとしたら、残りの1台以上が録音を続行し、小説を進めることができる。そういう[屁理屈]の実践が行われています。
そして2ページ目の、先輩がクッキーを食べるシーンにおいて鉤括弧が二重から一重に変化していることに気付いたでしょうか。
クッキーの中に盗聴機が練り込まれていて、先輩がそれを噛み砕いたことで録音が停止したのですが、それは3ページ目の主人公の独白にて始めて読み取ることができます。
3ページ目にてナレーションが主人公によるノート(日記)上の記述であることが明かされ、この近況ノートの冒頭から少し下辺りに示したルールの説明が、3ページ目まで読んでもらって初めて終わるようになっているのです。
そう、この作品はテキストの量こそ少なめですが、2周以上周回してもらわないと作品の面白味に気付くことができない小説であると言えます。素晴らしいですね。
[ここまでは称賛です。]
この作品は読者に読み返しさせるためのアプローチが弱いので、この小説を正しく読むには結構な読解力が必要とされるでしょう。自分が推奨する正しい読み方を、読者方が特に説明なくとも実行できるとは限らない。細部に引っ掛かって読みを滞らせて考える、もしくは読み返すことができる読者は少数であることをもっと意識すべき。
なので最近は小説の中にルール説明パートを含むようにしています。実践例はpixivの方にある星屑テレパスの二次創作小説「宝木遥乃」ですね。露骨に作品の肝に触れるキャラクターを登場させています。ネット小説の読者にはそのくらいしてやらないと読んでくれないぞ。
というわけで評価をつけるなら星2つ。アイデアは面白いんですが、客層の見誤りがあり、詰めが甘いぞという感じです。
以上、私はこのように作品批評を行います。ぜひ私の近況ノート「はじめまして、Athhissyaです。」の方にコメントしてエントリーしてください。一言では語り尽くせない魅力を持った作品をお待ちしております。