いつもお世話になっております灰色の鼠です。
連載開始から1年3ヶ月、遂にPVが600万を突破しました!
当時、プロットや設定資料を作成していた頃は、ここまで読んでくださるとは思ってもいませんでした。それがまさか、今まで執筆した作品の中でNo. 1の人気を誇るとは、大変嬉しい限りでございます。
様々な理由で更新頻度が下がっていますが、出来る限りお話を進めていきますので引き続き宜しくお願いします。
記念に短編を執筆しましたので、前半をどうぞ!
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目を覚ましたら裸で裏路地で寝ていました。
頭痛がひどく、吐き気に襲われたので、そこら辺で済ませることにしました。
「昨晩は……ジークさんとクラウディアさんと行きつけの酒場で飲んでいるところまでは覚えていますが、全裸になるような事をした覚えが……おえぇえ」
ともあれ、近くにあったボロボロの布切れを纏って、翼を広げました。
こんな状態で街を彷徨いては変態扱いされそうです。
バレないように空を飛んで帰るとしましょう。
午後からロベリア様の仕事のお手伝いもありますし、急ぎましょう。
「外から、コッソリ入るとしましょうね」
部屋のある二階の窓から入ろうとしましたが、鍵がかかっている。
とりあえず叩き割りましょう。
ガシャン!!!!
あ、凄い音。
ドロボウか変態かと騒がれる前に、早く服を着なければ。
同じ標準服が並べられたクローゼットを開けて、少々悩みながら一番落ち着く服を選んで、鏡の前に立ってクシで髪の毛をセットしてから、いつもの笑顔を浮かべました。
「我ながら美しい……はぁ……」
自身の美貌に数分間おっとりしてから、上機嫌に部屋を出ました。
まずはお寝坊さんのロベリア様を起こすとしましょう。
家事などで忙しいエリーシャ嬢の負担軽減のため毎朝、ロベリア様を起こすのが私の仕事になったのです。
優しく寝室をノックして「入りますよ〜」と一言言ってから扉を開けるようにしています。
いつも通り返事はありませんが、きっとまだ寝ているのでしょう。
そう思いながらベッドに近づきました。
「おはようございます〜! 気持ちのいい朝ですよ……て、あれ」
ベッドは空でした、誰も寝ていない。
つまりロベリア様は、もう起床なさったのか?
へぇ、珍しいこともあるのですね。
主人を起こせなかったのは寂しいですが、私もそろそろ親離れをしなければ……何言っているんでしょうか私は。
午前は暇なので、次の命令があるまでリビングで待機しましょうか。
「ははは、おはようボロスくん。いい朝だねぇ」
そこには、優雅に朝の珈琲を嗜んでいる爽やかなロベリア様がいました。
こちらを見て、ニコリと微笑んでいらっしゃいます。
え、ど、ど、ど、ど、どなた!!!!??
ろべ、ろべ、ろべ、ロベリア、傲慢の魔術師ロベリア・クロウリーがそのような表情をするはずなかろう!!!
「誰ですかアナタぁああああ!?」
「誰って、君の大親友のロベリアじゃないか。いつものようにロベくん☆と呼んでくれてもいいんだよ?」
「おぇ……二日酔いとは無関係な気持ち悪さが……おぇ」
「はっ! 大丈夫かい! いま薬を持ってくるから!」
言うはずがないだろ! ロベリア様がそんな事ぉおおおお!!
本当に叫んでいませんが。
「いえ、ロベリア様が、私のことを気に掛ける必要はありません……そのまま苦しみもがく私を放置して、はぁ、高級ワインでも飲んでいてください」
「いや何そのプレイ、普通に嫌なんだけど」
精神的に追い込まれた私は、干したエイのように身体が干からびていきました。
夢だ、こんなの悪い夢に決まっている。
このロベリア様と瓜二つの優男から一刻も早く離れないと、このままでは手遅れになってしまいます。
「ねぇロベリア、ご飯できたんだけど」
「その声は! エリーシャ嬢! 聞いてください、ロベリア様が先程からおかしいんで―――」
リビングに入ってくるエリーシャ嬢に助けを求めた私の顔面に、強烈な後ろ蹴りが打ち込まれました。
「チッ、朝から騒がしくすんじゃねぇよ、ブッ転がされてぇのか? ああ?」
(誰ぇええええええええええ!?)
エリーシャ嬢は、仁王立ちで害虫を見るような目をしていました。
そんな、あり得ない、女神と揶揄されてきた彼女が、人の顔面に殺傷能力の高い後ろ蹴りをするだなんて。
「蜥蜴は、蜥蜴小屋に棲みついてろっての……」
ピクピク体を震わせ、床に這いつくばる私など眼中にないのか、エリーシャ嬢に瓜二つの狂犬がリビングから出ていきました。
「だ、大丈夫かいボロスくん? ひどい怪我だ。ほら、回復薬をどうぞ」
いつものロベリア様なら「その程度、お前なら平気だろ?」と無視しているところを、ロベリア様と瓜二つの優男はすぐさま駆けつけてくれました。
感動するな、この人は偽物、別人なのです。
「気安く触らないでください! これは、夢? それとも敵の精神干渉系の魔術?」
「なにワケの解らないことを言って……」
「ワケが解らないのは、アナタ達の方ですよ!!!」
本当はやりたくありませんでしたが致し方がない。
竜の鉤爪を発現させ、ロベリア様の尊いお姿をした偽物に攻撃を仕掛けました。
しかし、
「一旦、冷静になって」
呆気なく避けられ、背中に手刀を受けました。
すぐに意識が朦朧として、そのまま気絶してしまいました。
え、強くない?
目を覚ますと、ベッドに寝かされていました。
夢? やはり夢だった?
酒の暴飲が原因だったのでしょうか?
頭がとても痛いです。
「やあ、おはよう」
椅子に座る者の存在を感知して、視線を向けるとそこには瞳に無限の可能性を宿らせた、ハキハキとした声の女性がいらっしゃいました。
猫耳に尻尾、獣人族の方なのでしょうか?
白衣に……ん?
白衣を着た、獣人族といえば一人しかいません。
「も、も、もしかして、シャレムさん……?」
「うん、正解。ロベリアさん、手加減したって言ってたけど、あの人の事だから後遺症を残したらいけないって思って君が目覚めるのをずっと待ってたんだよ? でも、何事もなさそうで、良かった」
あの溜息しか吐かなさそうなニートピア住人の駄猫が、こんな優しさを見せるはずが、見せるはずがないだろ!!!
拝啓、本物のロベリア様。
お元気でいらっしゃいますか?
私は、別人たちに囲まれて、もう駄目みたいです。
暴飲なんてもうしませんので、元の世界に帰してください神様。
敬具。
竜王ファエトン・リア・ドラフィ。