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改稿した第5話のテンポが悪い気がする。

どなたかアドバイスをいただけませんか?(泣)


「……うっ、うぅ……ま、て……待って、ヴァル!」

 ハッと目蓋を開けた美澪は、ヴァルの手を掴もうと腕を伸ばした状態のまま、ベッドの上で目覚めた。

「ハァッ、ハァ、ハァ……」

 何も掴むことができなかった右手の向こうには、全くなじみのない白い天井があり、ここがヴァルの神域でないことを悟る。

 そして、先ほど目にした森の中での光景を思い出して、グッと唇を|咬《か》んだ。

 ――あれが『召喚』の儀式。

「……どうして? なんであたしなの……っ? ……ぅ……うぅ……っ」

 美澪は力なく腕を落とすと、大きくしゃくり上げたのち、目蓋に力を入れて涙が流れそうになるのを|堪《こら》えた。それでも、あふれ出しそうになる涙を、震える両手のひらでぐっと押さえる。

 ――ヴァルの言葉が脳裏をよぎった。

『帰れないよ、もう二度と』

「……っう、うぅ……ふぇ、ぅ、ぁあ……!」

 ついに涙腺が決壊して手の平の隙間から、ぽろぽろ、ぽろぽろと止め処なく涙がこぼれ落ちていった。

(もう日本に戻れない。お父さん、お母さんが待つ家に帰れない。友だちとも遊べない)

 そんなつらい現実を、「はい、分かりました」と受け入れられる訳がなかった。





「これからどうしよう……」

 ひとしきり泣いたのち、鼻水をすすりながら、ぼうっとする頭で今後のことを考えた。けれど、何をどうすればいいのか、異邦人である美澪に分かるはずがなかった。

(あたしが知ってるのは、あたしが女神ヴァートゥルナの魂を持った|神の愛し子《エフィーリア》だから召喚された、って事だけ)

 ――『女神』ヴァートゥルナ。

 神官長はそう言っていた。

 しかし、美澪が神域で出会ったヴァートゥルナ――ヴァルは少年だった。そして、『ヴァートゥルナの魂を持った』とはなんのことだろう? もしかして、図書室や神域で感じた違和感と関係があるのだろうか。

「う~~ん……」

 宙を見ながら|沈思黙考《ちんしもっこう》していた美澪は、前髪をくしゃくしゃにすると、右手をシーツの上に投げ出した。

「……ハァーー、もうっ! 意味分かんないよ!」

 途方に暮れた美澪は、とりあえず起き上がろうと、ゆっくり上体を起こした。ちょうどその時、

「お目覚めになられましたか?」

 と言って、寝室と別室をつなぐ扉のない出入り口から、栗色の髪をきっちり結い上げた|お仕着せ《ローブ・モンタント》姿の女性が現れた。

 美澪は目を丸くして「あの、どなたですか?」と尋ねる。

 にこりとほほ笑んだ女性は、抱えていたトレーを手近なチェストの上に置くと、その場に膝を付いて拝礼した。

「お初にお目にかかります。わたくしは、メアリー・ド・ラウィーニアと申します。どうぞ、メアリーとお呼びください。本日、神官長様より、エフィーリア様の専属侍女に任命されました。御用の際は、なんなりとお申し付けくださいませ」

 言って顔を上げたメアリーは、目鼻立ちの整った優しげな顔つきの女性だった。

 窓から差し込む陽の光に照らされ、美しく輝く|榛《はしばみ》色の瞳を見つめていると、不思議と心が安らいでいく気がした。

 メアリーはピッチャーとグラスが乗ったトレーを、ベッド脇のサイドテーブルの上に置いた。

「喉が渇きましたでしょう? 果実水をお持ちいたしましたので、こちらをお飲みください」

 そう言って、澄んだ水の中に様々な果実が入ったピッチャーを傾けてグラスに注ぎ、美澪の両手にグラスを握らせた。

 美澪は警戒しながらも、爽やかで甘酸っぱい香りにごくりと喉を鳴らして、こわごわとグラスの縁に口をつけた。

「おいしい……」

 口角をわずかに上げた美澪は、グラスの中身をゴクゴクと飲み干した。その姿を優しく見守っていたメアリーは、

「もう|一杯《いっぱい》いかがですか?」

 と尋ねてきた。

 美澪はどうしようかと逡巡《しゅんじゅん》したのち、メアリーの顔色を伺うように小さな声で、

「……それじゃあ、もう一杯いただけますか?」

 と言って、カラになったグラスを差し出した。するとメアリーは、「もちろんですわ」と|朗《ほが》らかな笑顔を浮かべてグラスを受け取り、嬉しそうにピッチャーを持ち上げた。

 果実のみずみすしい香りを広げながら、シンプルなグラスに透明な液体が溜まっていく。その様子を黙って見つめていると、美澪の視線に気がついたメアリーが、ふふっと穏やかにほほ笑んだ。

(メアリーさんの笑顔って太陽みたいで、なんか安心しちゃうな……)

 そう思いながらメアリーからグラスを受け取った美澪の口角が自然と上がった。そうして、ずっと強張っていた頬筋を持ち上げて笑顔を作り、「……ありがとうございます」とお礼を言った。

 ちゃんと笑えていただろうかとドキドキしながらメアリーを見上げると、メアリーは、「身に余るお言葉ありがとうございます」と膝を曲げて拝礼した。

 メアリーの顔が隠れてしまったことを残念に思った美澪は、この際、気になっていることを、いろいろと聞いてみることにした。

「……あの、メアリーさん」

「メアリー、と」

 美澪から、カラになったグラスを受け取ったメアリーに笑顔で返され、美澪は「えっ」と戸惑った。

「で、でも、メアリーさんは多分、あたしよりも年上ですよね? それになんかお嬢様みたいに品があるし……。あたしなんかが呼び捨てにするなんて、おこがましいと思います」

 もじもじと歯切れが悪く言い、表現し難い気まずさを|誤魔化《ごまか》すように、膝の上の手を握ったり開いたりする。すると、音も立てずグラスをトレーに置いたメアリーが、

「エフィーリア様は、女神ヴァートゥルナ様の魂を|御身《おんみ》に宿しておられる|尊《とうと》きお方です。女神様を信仰するわたくしたち信徒にとって、エフィーリア様は神に等しい存在……ですから、崇拝するエフィーリア様が、わたくしのような目下のものに対して、敬称や敬語をお使いになられる必要はございません」

 と言った。それに対し、美澪は困った顔をして、理由を言い連ねた。

「でも、あたしがいた国では非常識なことなんです。だから友達でもないのに突然タメ口や呼び捨てにするのはなかなか難しいというか、慣れなくて逆に気疲れしちゃいます」

 「なんかすみません」と軽く頭を下げて、シーツをクシャリと握りしめた。するとしばらく、何かを考えていた様子のメアリーが、

「かしこまりました。わたくしは、エフィーリア様のお|輿入《こしい》れに随伴することが決まっております。エクリオでの王宮生活で苦労なさるエフィーリア様を、わたくしごときが煩わせることは本意に反します。ですので、エフィーリア様のご随意にどうぞ」

 と言って、その場に膝をついて叩頭した。

 美澪はメアリーのつむじを見下ろしながら絶句する。
 
 頭を上げたメアリーに、「エフィーリア様……?」と呼ばれて、一瞬意識が飛んでいた美澪は現実に引き戻された。

「あー……、えっとですねー……」

 美澪は無意味なつなぎ言葉を口にしながら、裸足のままでベッドから大理石の床に降り立つと、跪座したままのメアリーの手を取った。そして、近くにあった椅子にメアリーを座らせて、黒いお仕着せの上から両肩を掴んだ。

「……メアリーさん。いえ。メアリー」

「は、はいっ」

「いまの話。……詳しく聞かせてもらえます?」

 美澪はヴァルに似た、蠱惑的な笑みを浮かべた。

7件のコメント

  • いいね!?
    いいねとは「問題ない」ということでしょうかっ??(必死)
  • 確かに、少し冗長的な感じはしますが、下手に削るとバランスが悪くなりそうな気もします。難しいですね💦
  • 🌳三杉令さん

    いつもありがとうございます〜〜!!
    推敲頑張ってるんですけどぉ〜〜(泣)
    いらんところを削ってみます!
  • Xの方から飛んで始めて読ませて頂きましたC1elです
    この部分だけ読んでみての感想になります(いつかお時間があれば全部読ませて頂きます)
    特になにか大きく変えた方が良さそうな場所はないかなーと思います、むしろお話の内容、表現方法にここだけで引き込まれるほどには良いなと思いました

    一つだけ素人目線でアドバイスをさせてだくと、難しい表現をもっと柔らかく簡単にしちゃってもいいのかなと思います
    個人的に読み方がふってあるのは読みやすいのですが、自分は結局そこを読んで意味を理解するまでに時間がかかりました
    そこが個人的に感じたテンポの悪さかなと思います

    作品の壮大さや美しさの表現のひとつとして難しい表現はとても良いのですが、心情描写や動きだけは削っても良いのかなと
    こんなど素人目線ですが、こういった感じになります

    続きがとても読みたくなったので、読ませて頂こうと思います!
    長文ですが失礼しました!
  • こちらへのコメントは初めてとなりますが、素人ながら思ったことを書きこませていただきます。
    基本的に私は情景が浮かべばOKだと思っているので、そういう点においては問題の無い文章だと思いました。
    アナマチアさん自身がテンポが悪いと思われるのであれば、全体的に一文が長いことも原因の一つかと考えます。
    加えて、同じ文中に意味の重なる言葉が散見されますのでそれを省略すれば改善できる部分もあるのと思われます。
    重厚さを取るか、テンポをとるかだと思いますが、テンポ重視であればそっけないぐらいの文章を意識しても良いのではないかと考えます。

    幾つか具体的に改善案を書きます。
    主に一文を短くする案となります。



    >何も掴むことができなかった右手の向こうには、全くなじみのない白い天井があり、ここがヴァルの神域でないことを悟る。

    →伸ばした右手の向こうには、なじみのない白い天井が見える。そしてここがヴァルの神域でないことを悟る。

    前の文章でヴァルの手を掴めなかったことは分かるので、「何も掴むことのできなかった」は省略できると思います。



    >ついに涙腺が決壊して手の平の隙間から、ぽろぽろ、ぽろぽろと止め処なく涙がこぼれ落ちていった。

    →手の平の隙間からぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。



    >途方に暮れた美澪は、とりあえず起き上がろうと、ゆっくり上体を起こした。

    →途方に暮れつつも、考えても仕方ないとゆっくり上体を起こした。

    一文を短くしたわけでは無いですが、同じ文に「起」が二回使われていたので音読するとくどい印象がありました。



    >窓から差し込む陽の光に照らされ、美しく輝く|榛《はしばみ》色の瞳を見つめていると、不思議と心が安らいでいく気がした。

    →彼女の瞳は、窓から差し込む陽の光に照らされ榛色に美しく輝いている。
     その瞳を見つめていると、不思議と心が安らいでいく気がした。



    >そう言って、澄んだ水の中に様々な果実が入ったピッチャーを傾けてグラスに注ぎ、美澪の両手にグラスを握らせた。

    →彼女の持つピッチャーの水の中には、様々な果実が漂っている。
     その水をグラスへ注ぎ、美澪の両手に握らせた。


    飽くまでも参考程度にお願いいたします。私の書き癖がかなり出てしまっています。
  • 〉シエルさん

    Xから来てくださるとは……!
    シエルさんが初です!!
    アドバイスありがとうございます(´∀`*)
    さっそく参考にさせていただきますね!
  • 〉ベンゼン環Pさん

    コメントありがとうございます(´∀`*)✨
    わわわっ、具体例を書いてくださってる……!
    大変だったでしょう……!(感涙)
    私のためにここまでしてくださって、ありがとうございます!!
    とてもわかりやすいので助かります!
    アドバイスを上手く活かせるか、私の力量ではなんともいえませんが、頑張ってみますね(❁´ω`❁)
    ありがとうございました!!
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