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【スマイリークラウン】①

澄み切った雲ひとつない空。
遮るものがない太陽は鬱蒼とした大森林を照らす。
森の名称は【真宵の森】。遠い昔に一人の魔女が作ったとされる禁忌の場所だ。
踏み入った者は誰一人とて還らない戻らない、未だに踏破される事が叶わず。
切り立った丘に半ば崩れた古城の中、恐らくは演習場であったであろう広い敷地で森を俯瞰している少年が居た。
歳の頃は十五ぐらい。金髪の散切り頭、目は薄い蒼。少々幼さを残した顔立ちではあるが整っていると言えるだろう。

「やっぱり此処に居た」

背後にかかった声に振り向く事なく、少年は軽く手を挙げた。
カツコツ、と荒れた石畳を歩く音は少年の横に止まる。

「それで何してるの?まさかと思うけど今日が何の日か忘れた訳じゃないよね」

やや剣のある声に少年は苦笑を返す。

「忘れてないから此処に来たんだよ。次に来れるのは何時になるか分からないからね」
「なるほど」

納得したのか先程の剣呑な声色はなりを潜めて代わりに微笑を寄越す。
その優美な微笑を湛えたまま少年と同じように眼下に広がる果てしない大森林を淡い赤眼で臨んだ。

少年の名前はデューク。
その隣に立つのは幼馴染である少女リサーナ。
二人は共に十五歳となり、この世界では成人と見なされ婚姻が出来る歳になった。
それと同時に田舎暮らしの若者が、身寄りのない孤児が夢見る━━━━冒険者登録も可能になる。
冒険者登録は王都である冒険者ギルド本部でしか出来ない決まりがある。登録してしまえば活動拠点は何処でも良いとされているが実態は凄腕の冒険者はギルド本部が多く抱えこんでいた。有事の際に王都を守る戦力が多いには越した事はないからだ。

ハイリターン、ハイリターンである冒険者は甘いものではない。毎日のように誰かが迷宮の養分となり、魔獣の血肉となっている。けれど、立身出世するには手近な手段であるには疑いはない。

デュークとリサーナの二人も多分に漏れず、未来を夢見て冒険者を目指す。
登録する為に今日、王都へと旅立つのだ。

まだ太陽は真上にない時刻。
総数で三十人にも満たないので集落と呼んでも差し支えないかもしれない。
そんな小さな村の申し訳程度の入口の外、デュークとリサーナの二人は立っていた。

「じゃあ行ってきます」

デュークは朗らかに軽く手を挙げ、きびすを返す。湿っぽい別れは苦手なのだ。
一見、素っ気なく見えるデュークを理解しているのか見送りに来た村人は苦笑をしている。
その中で少し年さかの老人がリサーナに頼むぞ、と声を掛けた。それに頷きを返し、リサーナもデュークの後に続いた。


「リサーナ」
「ん?」
「王都までは大体、十日程かかる。その間、しっかり俺が守るからな」
「王都に着いたら守ってくれないの?」
「そ、そういう事じゃなくて、道中は気をつけようぜって言ってんだよ」
「頼りにしてるよ」
リサーナが花のように笑うに、一瞬惚けたデュークは「ずっと守るさ」と小声で呟いた。



『行ったね』
『行ったね』
『どうなるかな』
『どうなるだろうね』
『役割りを果たせるかな』
『導きがあるならきっと』


ふわふわと浮かぶ二つの発光体を遠ざかる二人を見つめていた。
知見と技能を持っ者ならば、それが精霊だと解っただろう。また酷く悲しんでいる様子である事も。
デュークとリサーナが見えなくなり、追うように発光体も消える。
それから見送っていた村人も糸が切れた人形のように崩れて消えた。
残された村には人の気配は一切しない。


■■■

連載する予定は未定。
推敲も何もないプロット版。
中世ヨーロッパを舞台に異世界ファンタジー。裏切りと暴力と魔術の世界観。



2件のコメント

  • 裏切りというのが気になりますね。
    でも、この手の話ではお約束なのかな?
  • 幼馴染NTR、追放が鉄板ですが食痛気味ですよね。なので違った裏切りを見せれてたらな、と。
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