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『最強の家庭菜園ダンジョン』プロトタイプ

ええと、ボツにした奴です。供養ですので、これはサポーター限定にはしません。

テイク1

 俺は○○○○。
 体を壊してサラリーマンからリタイヤした。
 体を壊したといっても大した事はない。
 ストレスが掛かると下痢したり、少し体の調子が悪くなったりするだけだ。
 でも10分おきにトイレに駆け込んでいたら、仕事にはならない。
 医者に相談したら、仕事を辞めなさいと言われた。

 それで、田舎に引っ込んで、民家を借りて庭で家庭菜園を始めた。
 スローライフを満喫しながらこれからの事を考えようと思っている。
 最初は苦戦した家庭菜園も今では近所におすそ分けできるぐらいになった。

 今の季節は梅雨。
 うっとうしいが、雨も降らないと野菜は育たない。
 必要な事だと、雨の日はぼんやり庭の家庭菜園を眺めている。

 ある日、家庭菜園の境界に植えてある生垣の隙間から不思議な光景が見えた。
 それは砂漠だったり、石で出来た通路だったり、どこかの街だったり、苔むした森だったりする。

 恐怖に駆られ玄関から外に飛び出した。
 異変はなく、外は田舎の住宅地だった。

 ほっと胸をなでおろす。
 医者に相談しないといけないのかな。
 ストレスが心の病でも起こしたんじゃないだろうか。

 俺は家の裏手に回った。
 生垣は普通だな。
 隙間から家庭菜園も見える。

 さっきのは気のせいだったのかもな。
 俺は家の中に入り、家の裏にある庭に出た。

 やはり不思議な光景が見える。
 ここにきて幻とかそういうのじゃないと悟った。

 生垣に手を突っ込んで砂漠の砂を掴む。
 砂のサラサラした感じといい、太陽に熱せられた温度といい、現実の物だ。

 手を戻すと砂が指の間からこぼれる。

「はははっ、マジかよ」

 次に考えたのは毒蛇とか蠍とかが侵入してこないかという事だ。
 外は梅雨で曇り空で今にも雨が降り出しそう。

 俺は傘を持って庭で観察する事にした。
 生垣の隙間から見える風景は4つ。
 砂漠と、石の通路と、街と、森。
 つまり4つの場所と繋がったという事らしい。

 危険なのは砂漠かな。
 森も虫とか入って来る可能性はあるけど、静かな感じの森だ。
 危険性はないように思える。

 生垣に近づき砂漠を見ていたら遠くで砂が吹き上がった。
 何だ、怪獣でも出てくるのか。
 俺の視線は釘付けだ。

 出て来たのはミミズの化け物。
 どのぐらい距離があるのか分からないが、ミミズの化け物は300メートルぐらいの大きさはありそうだ。

 そして、それはこちらに向かってきた。

「ひっ」

 俺はしゃがんだ。
 足は固まって動かない。
 とっさにしゃがんでどうするんだと思っているが動けない。

 ミミズの化け物は生垣に当たり跳ね飛ばされた。
 凄いな生垣。

 防犯の役に立たないから切ろうなんて思ってごめん。

 気が付いたら蠍やら蛇も大軍で押し寄せて来ているが、生垣の隙間に入り込めないみたいだ。
 結界というやつかな。

 一安心というか、やっと立つことができた。
 こちらから手を出さない限りは、映像みたいな物と割り切れば、これはこれで楽しいのかもな。

 だいぶ余裕が出て来た。
 街の映像を覗く事にする。
 おー、獣人とかエルフらしき人がいるぞ。

 街へは行ってみたい気がする。
 言葉は通じるかな。
 生垣に近寄り音を拾う。

 遠くの声が聞こえたが、言葉が分からない。
 街に行くと不審者で逮捕されたりするかもな。

 君子危うきに近寄らずだ。
 石の通路も薄暗く、怪物が出て来そうな雰囲気がある。
 そう考えると森も駄目だな。

 チャレンジ精神など俺にはない。
 むっ、街の所に人影が写った。
 生垣の前に座り込んでいる。

 俺は観察する事にした。
 子供だな。
 恰好はボロボロで薄汚れている。
 ぐったりしているように見える。
 こういうのを見るとかまいたくなる。

 駄目なんだよ。
 濡れている猫とか放っておけない。
 借家なので飼えないのでそういう時は飼い主を探してやる。

 虐待が疑われる子供を助けた時はかなり大変だった。
 見捨てるのも助けるのもストレスになる。
 同じストレスなら助けようと役所に通報したり色々したが。
 とにかくこういうのは駄目だ。

 俺は買ってあったバターロールを生垣の隙間から押し出した。
 子供はバターロールに気が付くと砂がついているのを構わずにぱくついた。
 腹が減っていたんだな。
 まだ、バターロールはある。
 残りも生垣から差し入れた。

 助けたけど、助けるからには責任を負わないといけない。
 この子供が、暮らして行けるようにしてやらないと。

 子供が何事か唱えた。
 光が出て薄汚れた体や髪の毛が綺麗になる。
 魔法かよ。

 異世界は浮浪児でも魔法が使えるのか。
 この世界で俺が暮らすのはかなり難易度が高いな。
 異世界に行って魔法を教われば、俺も使えのかも知れないが、しょっぱなに攻撃魔法なんか食らったら、きっとお陀仏だ。

 子供は生垣に向かって祈り始めた。
 神様じゃないんだけどな。
 パンだけだと栄養が偏るから、キュウリを家庭菜園から採って差し入れる。
 子供は瞬く間に平らげた。

 俺は話し掛けてみる事にした。

「俺は○○だ。神様じゃない」
「#$%&@¥」

 俺の声は届いたようだが、言葉は通じない。
 さて、どうするべきか。
 生垣に穴を開けて、子供をこっちの世界に連れてくるのは、上手い手とは言えないな。
 地球で魔法が使えたら、大騒ぎになる。
 その場合、子供が幸せに過ごせるとはとても思えない。

 魔法の事がなくっても、人を戸籍登録するのは大変だ。
 故郷から連れ出すのが正解とも限らないしな。
 意思疎通がまずは課題か。

 食料を差し入れるぐらいどうって事はない。
 ふと、思った。
 お金を差し入れてみようと。
 小銭なら惜しくない。
 銅貨や銀貨を使っている世界なら使えるかもな。

 俺は10円玉と100円玉を差し入れた。
 子供はそれを拾うと喜んだ。
 喜んだって事は使えるって事だよな。
 子供は敬礼みたいな仕草をしてから、生垣の前から姿を消した。
 何日か分の食料になればいいけどな。

 一時間ぐらいして子供が帰って来た。
 生垣の前の地面に大きめの指輪を置く。
 えっ、ここの貨幣価値ってどうなっているの。

 10円玉と100円玉で指輪が買えるのか。
 俺は貢物だと思って、腕を突っ込んで指輪を取った。
 指輪は銀で出来ているようだった。
 あげた100円玉を鋳つぶしても指輪は作れないぞ。
 どうなっているのか。

 まあいいや。
 贈り物だから使わせてもらおう。

 俺は指輪に指を通した。
 指輪は縮まってちょうどいい大きさになった。
 魔道具なのか。

「神様、聞こえますか。聖供物をありがとうございます」

 言葉が分かるぞ。
 意思疎通の指輪か。

「俺が渡した金でよくこれが手に入れられたな? 無理してないか? してほしい事は?」
「無理してません。これ以上してもらうのは畏れ多いです」

「俺は神様じゃない」
「ではなんて呼べば?」
「○○だ」
「私は○○です」

「敬語も必要ないぞ。子供は生意気なぐらいがちょうどいい」
「分かった」

 そう言って○○はにっこり笑った。
 色々と作戦を立てる為の材料が手に入った。
 言葉が通じるようになったのは大きな前進だ。

 気掛かりもある。
 魔道具が地球で作動するという事は魔法も使えると思った方がいい。
 二つの異なる世界が交流できるようになると侵略の危険性がある。
 俺は異世界から侵略されるのも嫌だし、地球から侵略するのも嫌だ。

 テレビで戦争のニュースとか見ると消したくなるぐらいだ。
 密やかに交流しよう。
 俺はそう決めた。

「そっちから俺はどう見えている?」
「何もないように見えるよ」
「触ってみろ」

 子供が生垣に触る。

「壁があるみたい」

 やっぱりな。
 結界があるみたいだ。
 俺は通れるけどね。

「古着でいいんだが、服がほしいな。大人の男物だ」
「お金なら足りるよ」

 子供が顔を赤らめる。

「俺が渡した金はそんなに価値があったんだ」
「うん、魔導金属は貴重だから」

 俺の世界の金属は魔導金属と呼ばれているらしい。
 まあどうでも良い様な気もする。
 世界が変われば元素も変わるのだろう。

「じゃ、服を買って来る」

 ○○が駆け出して行く。
 さっきまでぐったりしてたのに回復が早いな。
 子供だからかな。

 まずは○○が生活できるようにしてやらないと。
 小銭はもう出さない。
 使うと怪しまれる可能性もある。
 もめごとは勘弁だ。

 それに、魔導金属を何に使うか分からないが、たぶん魔道具の材料だろう。
 魔道具には武器も含まれるに違いない。
 武器の材料は供給したくない。

 ストレスのないスローライフを送りたい。
 それで考えた。
 野菜を売ろう。

 地球では無人販売とかできるけど、誰も買っていかない。
 田舎は大抵の人が野菜を作っているからだ。
 異世界なら流行るかも。
 たぶん野菜も違うのだろう。

 見慣れなくても味さえ良ければ買う人はいるはずだ。

 古着を抱えて○○が帰ってきた。

「おかえり」
「ただいま。ぐすん」

「どうした」
「おかえりなんて、しばらくぶりだったから」
「そうか」

 俺は服を着替えた。
 異世界の服は紐で縛るタイプのようだ。
 難しいが女物ほどじゃないはずだ。

 さてと生垣の木を1本切るとしよう。
 人が1人なんとか通れるようになった。

 ナップザックに野菜を入れて背負う。
 生垣に体を押し込んで通った。

「○○って普通の人だね」
「尻尾でも生えていると思ったか」
「獣人なら不思議じゃないよ」

「野菜を売りたい」

 俺はキュウリを1本出した。

「えっ聖供物を売りたいの? もったいないよ」

 特別な育て方はしてないけど、○○は聖供物だと疑ってないみたいだ。

「聖供物ってのが分からない」
「聖供物は、食べ物に魔力を注ぐと出来るんだ。偉い人はこぞって欲しがるみたい」
「ポーションみたいな物か?」
「そうだね。薬に魔力を注ぐとポーションになるよ」
「じゃあ、栄養ドリンクみたいな物か」
「うん、栄養があって元気になる。定期的に食べないと力が出ないんだ」

 ○○がすぐに回復したのは俺が食い物をやったせいだな。

「売っても目立たないなら、売りたい」
「大丈夫だよ。農夫が聖供物の野菜を売ったりしてるから」

 ○○の案内で市場に行く。

「こういうのは場所が決まっているんじゃないか」
「良い場所はお金を払っているけど、客が通らない所はただなんだ。私もくず鉄とか集めると売っているよ」

 市場の外れに腰かけた。

「聖供物の野菜が安いよ」

 ○○が声を張り上げる。
 客は来ない。
 外れだもんな。
 人気店は周りにないから、人が来ない。
 それに不便な場所だ。

 初老の身なりの良い紳士が通りかかった。

「ふむ、見せてくれるか」
「はいよ」

 俺はナップザックからキュウリを取り出した。

「【生命探知】。寄生虫の卵はついてないようだ。買おう」
「値段を決めてなかったな。好きな金額で良い」

「では金貨1枚でどうかな」

 えっ、キュウリ1本が金貨。
 俺は驚きを押し殺した。
 動揺を見せないようにして、金貨を受け取った。
 紳士が去って行く。

 駄目だ。
 情報が不足してる。

「なんで聖供物は高いんだ?」
「野菜だと一つの実に、全魔力を何十人もが毎日注がないと、いけないんだ」

「全魔力を注いだ人はどうなる?」
「一日中、へろへろになるよ」

 延べ人数がどのぐらいかは分からないが、30人って事はないだろうな。
 100人分ぐらいの労働が詰まっていると考えたら確かに金貨かもしれない。

「魔力を注ぐとかどうやるんだ」
「分かんない。気づいた時には出来たから」

 何だって!
 俺は魔力を扱えないのか。

「魔法は?」
「魔法は呪文語を覚えないと」

 きっと呪文語覚えても俺は魔法を使えないんだな。
 そうに違いない。
 だって地球で魔法が使えそうなのに、地球人で使える人はいなさそうだからな。
 歴史が証明してる。
 魔術の秘密結社とかあるみたいだけど、もし出来たとして、はたしてどれぐらいの事が出来るのか。
 望みは薄いな。

 魔法が使えると地球でボロが出る可能性もあるから、べつに良い。
 悔しくなんかないんだからね。

 キュウリは3本持って来たが結局1本しか売れなかった。
 余ったのは○○とマヨネーズをつけて食べる。

「美味しい。魔力が溢れるぅ」
「美味いが、魔力は感じないな」

 儲けた金貨は地球では換金しない。
 変な分析結果が出ても困るし、出所を聞かれても困る。
 金貨は○○に渡した。
 それで俺は考えた。

 野菜を売ったお金はこの世界の恵まれない人達の為に使おう。
 地球で羽振りが急に良くなったら、どこかからストレスの種が舞い込む事も考えられる。
 それは嫌だ。

 聖供物について考えた。
 地球ってもしかして魔力が溢れてる。
 自然に野菜に魔力が染み込むのかも知れない。
 小銭にもだ。

 じゃあ、俺の体にも染み込んでいるだろう。
 でも、ぜんぜん感じないな。
 聖域みたいな所に行くと何か感じるみたいな人がいるけど、魔力を感じているのかな。
 でも操れたとか聞かないな。
 それに、分析機でも魔力なんてのが感知された事はない。

 法則が違うのかも知れない。
 世界が違うんだからな。

 ルールを決めた。
 異世界に持ち込む売り物は野菜。
 売り物以外の物は極力持ち込まない。
 異世界から持ち帰ったお金は換金しない。
 異世界で稼いだお金は人助けに使う。

 こんなところだ。

テイク2

 また、やられている。
 頭の黒いネズミの仕業だ。

 無人販売用に作った空っぽの棚を見て独りごちた。
 いかんね。
 リラックスリラックス。
 あれは頭の黒いネズミの仕業。

 野生の畜生に何を言っても始まらない。
 料金箱を壊されないだけまし。

 俺は○○○○。
 体を壊してサラリーマンからリタイヤした。
 体を壊したといっても大した事はない。
 ストレスが掛かると下痢したり、少し体の調子が悪くなったりするだけだ。
 でも10分おきにトイレに駆け込んでいたら、仕事にはならない。
 医者に相談したら、仕事を辞めなさいと言われた。

 それで、田舎に引っ込んで、民家を借りて庭で家庭菜園を始めた。
 スローライフを満喫しながらこれからの事を考えようと思っている。
 最初は苦戦した家庭菜園も、今では近所におすそ分けしたり、無人店舗に出せるぐらいになった。

 今の季節は梅雨で空からは雨が今にも降ってきそう。
 おっと、ゴロゴロ言ってるな。
 ドシャアバリバリと音がした。
 ひぇー、近いな。

 雹でも降ると家庭菜園の野菜に傷がついてしまう。
 俺は慌ててシートの準備をした。

 俺の家の間取りは3部屋あって。
 まず半畳ぐらいの玄関、居間があり、キッチンと寝室に繋がっている。
 寝室といっても和室で縁側がある。
 縁側の向こうは裏庭なんだけど、日当たりがとても良い。
 物干し台があり家庭菜園がある。
 家庭菜園は生垣で囲まれている。

 ぽつりぽつりと雨が降り出した。
 雷が鳴るようだと梅雨明けも近いな。
 やがて雨は土砂降りになった。

 雹が降ったら大急ぎだ。
 俺は目を凝らして、縁側で家庭菜園を睨んでいた。

 むっ、生垣の向こうに人がいる。
 子供のようだ。
 傘もささずに何しているのだろう。
 うずくまって動かない。

 虐待事案か。
 頭の黒いネズミといい、世の中は何でこんなに世知辛くなったのかね。
 俺は濡れるのも構わず家庭菜園を横切り生垣のそばに行った。

「おい大丈夫か」
「#$%&@+*」

 弱弱しい声で返答があったが、どこの言葉か分からない
 俺は大急ぎで家に戻り玄関から家の裏に回った。
 あれっ、生垣の前には誰もいない。
 俺が声を掛けたのがいけなかったのか。
 可哀そうな事をした。
 声を掛けずに裏手に回れば良かった。

 家に入りバスタオルで頭を拭きながら、縁側に出る。
 見ると生垣の向こうに子供が見える。

 くそっ。
 何なんだよ、いったい。

 生垣に駆け寄ると子供を見る。
 隙間から見える格好は服がボロボロで、汚れている。
 むっ、さっきは気づかなかったが、向こうに街が見える。
 何だこれは?

 行きかう大人は子供など無視して通り過ぎる。
 最善は何か。
 俺も無視する。
 その考えが頭に浮かんだ。

 くそったれ。
 俺は畜生じゃないんだ。
 人間だ。
 目の前に死にそうな子供がいるのに無視できるか。

 よし、外から回っても駄目なら、生垣を切ろう。
 その間は悪いが応急処置で我慢してくれ。
 俺は家に飛び込み冷蔵庫からスポーツドリンクを取り、押し入れからノコギリを出した。
 生垣の所に行き、ペットボトルのスポーツドリングの蓋を捻る。
 そして生垣の隙間から差し入れた。
 子供が震える手でペットボトルを掴み、スポーツドリンクを飲み始めた。

「今、助けるから」

 生垣をノコギリで必死に切る。
 生垣の木の1本が切れた時に子供の様子を見ると、立ち上がって笑ってた。

 子供が何やら唱えると光が子供を包み、汚れが綺麗になる。
 急な展開に頭がついていかない。
 いかないが、とにかく助かってよかった。
 涙がこぼれた。
 夕立も上がっている。

 西日が射し込んで、幻想的な雰囲気だった。
 見慣れぬ街はまだ生垣の向こうにある。

 子供は正座して両手を上げ、地に伏して拝み始めた。
 やめてくれ、俺は神様じゃない。
 一瞬、無視する事も考えたヘタレだよ。
 そんな資格などない。

 それにあの状況なら、誰だって助けるだろ。
 俺だけが特別じゃない。

テイク3

 また、やられている。
 頭の黒いネズミの仕業だ。

 無人販売用に作った空っぽの棚を見て独りごちた。
 いかんね。
 リラックスリラックス。
 あれは頭の黒いネズミの仕業。

 野生の畜生に何を言っても始まらない。
 料金箱を壊されないだけまし。

 俺は○○○○。
 体を壊してサラリーマンからリタイヤした。
 体を壊したといっても大した事はない。
 ストレスが掛かると下痢したり、少し体の調子が悪くなったりするだけだ。
 でも10分おきにトイレに駆け込んでいたら、仕事にはならない。
 医者に相談したら、仕事を辞めなさいと言われた。

 それで、田舎に引っ込んで、民家を借りて庭で家庭菜園を始めた。
 スローライフを満喫しながらこれからの事を考えようと思っている。
 最初は苦戦した家庭菜園も、今では近所におすそ分けしたり、無人店舗に出せるぐらいになった。

 今の季節は梅雨で空からは雨が今にも降ってきそう。
 おっと、ゴロゴロ言ってるな。
 ドシャアバリバリと音がした。
 ひぇー、近いな。

 雹でも降ると家庭菜園の野菜に傷がついてしまう。
 俺は慌ててシートの準備をした。

 俺の家の間取りは3部屋あって。
 まず半畳ぐらいの玄関、居間があり、キッチンと寝室に繋がっている。
 寝室といっても和室で縁側がある。
 縁側の向こうは裏庭なんだけど、日当たりがとても良い。
 物干し台があり家庭菜園がある。
 家庭菜園は塀で囲まれている。

 ぽつりぽつりと雨が降り出した。
 雷が鳴るようだと梅雨明けも近いな。
 やがて雨は土砂降りになった。

 雹が降ったら大急ぎだ。
 俺は目を凝らして、縁側で家庭菜園を睨んでいた。

 塀に設置してあるキャットドアが開いた。
 この雨で猫が避難してきたか。
 なんと毛むくじゃらな手が出て来た。
 この体毛の様子だと外人だな。

 酔っぱらって手を突っ込んだか。
 日本人も酔うととんでもない事をする奴がいる。
 外人に限らない。
 注意してやらないと。

「こら!」
「#$%&@+*」
「全然、分からん! 日本語で喋れ!」

 差し出される指輪。
 くれるのか。
 貰っちゃうぞ。
 たぶん玩具の指輪だろう。

 ちょっと待て、掘ったばかりのジャガイモがある。
 猫の扉に入る分だけど持って行け。

 指輪とジャガイモを交換した。
 指輪を見ると銀で出来ているようだ。
 宝石は嵌ってない。
 こりゃジャガイモとでは釣り合わなかったか。

 でも金では無いから高くても1万円だな。
 腕が引っ込んだから、ジャガイモに満足したのだろう。

 指輪はさすが外人用といったところで、大き目だ。
 俺は指輪を何の気なしに嵌めた。
 縮まる指輪。
 おい。
 魔法の道具かよ。
 いつから猫は魔法使いになったんだ。

「この作物はどうやって育てるのだ」

 声がキャットドアの向こうから聞こえる。

「溝を掘って、3つぐらいに切って、植えりゃあいい。あんまり混んで近くに植えるなよ。肥料を少し離れたところにやるのを忘れるな。そして芽が出たら土を掛けて、肥料を追加でやる。簡単だろ」
「そうだな。ありがとう」
「ところで魔法の指輪を貰っていいのか。何なら返すけど」
「構わない」

Side:ドワーフの王

 我らは存亡の危機に瀕している。
 麦が不作になったのだ。
 原因は分からない。
 分からないので手の打ちようがない。

 辛うじて餓死はしないものの、種もみを来年は確保できるかどうか。
 来年はまだ良い。
 備蓄もあるからだ。
 再来年になるとお先真っ暗だ。

 むっ、謁見の間に小さいドアが現れた。
 小人か妖精の通り道か。
 どちらにせよ使えるかも知れん。
 手を突っ込んだら分からない言葉で返答があった。

 意思疎通に使う魔法の指輪なら持っている。
 これでも外交の仕事もあるからな。
 指輪はそんなに高い物でもない。
 ドワーフなら子供でも作れるだろう。

 指輪を渡すと芋をくれた。
 鑑定してみると、異世界の芋らしい。

 麦の代わりに育てられるやもしれぬ。

 3ヶ月経ち、異世界の芋が実った。
 この芋は大丈夫のようだ。

 あの小さな扉は消えずにまだある。
 扉を開けて声を掛ける。

「いるか!」
「何だい?」
「麦を作っていたんだが不作になった。芋もそうなる事を恐れている」
「それは連作障害じゃないかな。同じ作物を同じ場所に作ると起こる」
「作付けの責任者が年寄りから若い奴に変わったんだ。年寄りが伝授しなかったのだな」
「大豆と麦を交互に植えると良い。ちょっと待て大豆の種を取って来るから」

 異世界の豆を貰った。
 これで一安心だ。
 前の責任者め。
 死んでいるから罰せられないが、頼むから技術を伝えてから死んでくれ。
 工房でもこういう事は頻繁に起こるから気にしなかったのだろう。
 いい迷惑だ。

テイク4

 また、やられている。
 頭の黒いネズミの仕業だ。

 無人販売用に作った空っぽの棚を見て独りごちた。
 いかんね。
 リラックスリラックス。
 あれは頭の黒いネズミの仕業。

 野生の畜生に何を言っても始まらない。
 料金箱を壊されないだけまし。

 俺は○○○○。
 体を壊してサラリーマンからリタイヤした。
 体を壊したといっても大した事はない。
 ストレスが掛かると下痢したり、少し体の調子が悪くなったりするだけだ。
 でも10分おきにトイレに駆け込んでいたら、仕事にはならない。
 医者に相談したら、仕事を辞めなさいと言われた。

 それで、田舎に引っ込んで、民家を借りて庭で家庭菜園を始めた。
 スローライフを満喫しながらこれからの事を考えようと思っている。
 最初は苦戦した家庭菜園も、今では近所におすそ分けしたり、無人店舗に出せるぐらいになった。

 今の季節は梅雨で空からは雨が今にも降ってきそう。
 おっと、

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