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輝星

僕には感情がない。
それは嬉しかったり、悲しかったり、寂しかったりすることがないということだ。
もちろん人を愛することも。

いつからだろう。僕は何も感じなくなった。
桜が咲き涼しい風が吹く春も
快晴で自然豊かな夏も
静かで色鮮やかな秋も
寒くて真っ白な冬も
僕には何も感じられない。  
僕が5歳の時、僕の家族は死んだ。その時も僕は泣かなかったし何も感じなかった。祖母や親戚はそんな僕のことを、「あの子は心がないんだ」と言っていた。確かに僕には心がないのかもしれない。けどそれで困っていることはない。むしろその方が楽なのかもしれない。周りの人間は人間関係に気を使ったり、自分の嫌なことがあると落ち込んだり、悔しんだりする。

僕は一人暮らしをしている中学三年生だ。 
たぶん中学三年生で一人暮らしをしている人なんて僕しかいないだろう。
朝起きて、ご飯を作り、支度をして、学校に行き、
授業を受け、家に帰り、ご飯を作り、寝る
これが僕の毎日だ。いつもこれをする。
自動的に体が動くようになっている。まるで時計のように決められた時間に決められた場所で決められたことをする。

ピピピビ ピピピビ ピピピビ
目覚ましが鳴る。あぁまた今日も起きてしまった。
カーテンから差し込む光が僕の心臓を突き刺す。
朝食を作る。作ると言っても、パンにジャムを塗り
ヨーグルトと食べるだけだ。なんの味もしない。
学校に向かう。今がなんの季節かも知らずにただいつもの道を歩く。今日は朝から日差しが強い。僕は目を細めて歩いていた。「あいつ目つき悪」「気持ち悪い」「あいつ誰?」そんな声が飛び交う。
だけど僕からしてみたらそんな言葉なんかどうでもいい。学校につき、席を探す。大体僕の席はいつもトイレの前にある。わざわざ僕の机をトイレの前まで運ぶのは何故だろう。僕のことを嫌いなら何もしなければいいのに。いつもそんなことを考えながら席を戻す。僕の席は一番後ろで一人席だ。 しかし今日は僕の隣に机が置いてある。 
先生が入ってきた。後ろに誰か知らない人がいる。
「今日から転入しました遠藤真奈です。」
教室の窓から強い光が僕を焼いている気がした。
正直僕は人間に興味がない。興味がないんじゃなくて興味を持てない。中学三年生にもなるとカップルとかいう自己満足のためだけにあるくだらないことをする人が多い。現に僕らのクラスは半分くらいが付き合っているらしい。たぶん彼女も誰かと付き合うんだろう。意味もないのに。
「隣よろしく」それが彼女が僕に話した最初の言葉だった。おそらく最後の言葉でもあるだろう。
僕は焦点を合わせずに軽く頭を下げた。休み時間はクラスの女子たちが僕の隣に集まる。なぜ集まるのかわからない。けど僕が隣にいると邪魔なような気がしたから休み時間はずっとトイレにいた。
放課後、
僕は天体観測クラブに入っている。別に星が見たいからじゃないし、星が好きなわけでもない。一人だからだ。天体観測クラブは例年部員がいなかった。僕は一人になれる環境が欲しかった。
しかも天体観測クラブの活動場所は一応屋上になっていて、広い屋上を一人で使うことができる。
かなりおすすめのクラブだ。(進めたら人が入ってくるから進めないけど)天体観測といっても僕は一度も星を見ていない。屋上にいる時は小説を書いている。僕は小説を書いている。もし小説を書く人のことを小説家と言うなら僕は小説家だ。だけど僕には人の心に残る小説を書けない。人どころか自分の心に響かない。そんな小説は小説といっていいのだろうか?結局いつも星が出てくる前に家に帰ってしまう。家に帰って夜ご飯を作る。
ご飯を食べたらもうやることがないから僕は寝る。
次の日またいつものように学校に向かった。今日は席はある。隣には昨日の転入生
確か遠藤真奈だった気がする
が座っていた。僕はバレないように座り本を読んだ。やけに男子の視線を感じる。僕じゃなかった隣の彼女を見ていた。きっとみんなからしてみたら彼女は可愛いに分類されるのだろう。昼の時間僕は屋上の鍵を持っているから屋上に行き鍵をかけひとりで昼飯を食べる。
この時間が最高に平和な気がする。ひとり空の下昼飯を食べる。まるで雲に笑われているような気がした。
放課後
今日も僕は屋上に行き小説を書いていた。
すると屋上の扉があき誰か入ってきた。みたことある顔だ「ここ天体観測クラブであってる?って誰もいないの?」遠藤真奈だ。最悪だ。せっかく一人のクラブだったのに他の人が入ってこられると困る。と悩んでいる後ろに彼女がきた「君、天体観測クラブだったの?私も今日から入るからよろしく。」
いつの間にか僕の後ろにいた。僕は慌ててパソコンを切った。僕は小説を誰にも読まれたくなかった。
「天体観測クラブって何するの?」当たり前のようなことを聞いてきた。「星を見るんだよ」みたことないし、見るつもりもないけど嘘をついた。正直入って欲しくなかった。誰もいないから入ったんだ。誰か来たらめんどくさい。「なんでさっきから嫌な顔で見てるの?」しまった。思わず顔に出てしまった。「なんでもない。今日は星が見えるかなー」苦し紛れに言い訳をした。彼女は本気で星を見るつもりだ。それは困る。僕は見方も道具も知らない。
「僕は今日用事あるから帰るね」適当なことを言って帰ろうとした、ガチャ ガチャ
鍵がかかってる。「私も天体観測クラブなんだから鍵くらい持ってるよ」確かにそうだ。でも僕も持っている。あれ?ない僕の鍵がない。
「あー君の鍵ならここにあるよ、さっき机に置いてあったからとっちゃった」おもちゃを買ってもらった子供のように僕の鍵を掲げていた。しょうもない。めんどくさかった。
「早く返してよ」「やだよ、だって今日予定ないでしょ?星みようよ」バレてた、僕は元から嘘が苦手だ。しょうがない付き合ってやるか。「でも星の見方とか僕は知らないよ」「は?じゃあいつも何やってるの?」僕は嘘をつこうと思ったけど、バレる気がしたから正直に話した。
「なるほど、つまり君はサボってるってことだね」 
少し意味が違う気がしたがまぁ間違いではない。
すると彼女はどっかに向かって走っていった。
「ここが部室でしょ?」驚いた。こんな場所があるとは、僕は普段屋上に机だけ置いて本を読んでいたから屋上の裏にこんな部室があるとは思わなかった。彼女はなんの迷いもなく部室に入っていった。
すぐ手に出てきて何にか大きなものを持ってきた。
「見つけたよ!これで星を見れるね」どうやらこれで星を見るらしい。こんなのテレビでしか見たことない。ほんとに存在するんだ。
「それにしてもずっといるのに部室を知らないってどういうこと?バカなの?」急に煽ってきた。
確かにバカかもしれない。僕は携帯で望遠鏡の使い方を調べてセッティングした。こんな感じでいっか。正直星を見れるとは思ってはない。そんな簡単なことではないことくらいはわかってる。
「まだ時間あるけど何する??」
一緒にする前提で聞いてこられても、僕は彼女と星が出るまで過ごす気はない。机に戻って小説を書き始めた。「ねぇ小説書いてるんでしょ?」びっくりした、本当に驚くと肩が上がるんだというのがわかった。「なんで知ってるの?」「さっきチラッと見えちゃった、読ませてよ」「絶対にヤダ、僕は自分の小説を誰にも見せないようにしてるんだ」「じゃあなんのために書いてるの?」そう言われると確かになんで書いてるんだろう。たぶん
「僕は何も感じないんだ、たぶん心が死んでるんだろう。だから小説を書けば何か変わる 

気がして書いてるんだ」思ったことをただ喋った。「それで何か変わった」「何も」僕は一体なんのために小説を書いてるんだろう?きっとこの気持ちは墓場まで持っていくんだろうな。そんなことを考えていると、辺りは暗くなっていた。
「そろそろ星が見えるんじゃない」
中学三年生とは思えない幼い顔をしていた。
確かにもう辺りが暗い。僕は望遠鏡を覗いた。
真っ暗だ。何も見えない。
まるで自分の心の中を見ているような気持ちだった。「ねぇレンズのカバー取った?」そう言って彼女が何やらレンズを動かした。
すると僕の目に光が差し込んできた。
僕の目には夜空に輝く星が見えていた。
それはなんとも美しいものだった。
例えようとしても例えられない。言葉では表せない景色だった。「ねぇ私にも見せてよ」僕は星に見惚れてしばらく夢中になっていた。僕は初めて美しいと思った。それどころか初めて何かを感じた。
感じるということがこんなにも素晴らしいことなんだとわかった。僕の心臓が動き出した気がした。
今までは止まっていたのがようやく動き出した。
「私にも見せて!」彼女は僕を押し倒し望遠鏡を奪った。僕の視界は戻ったが、美しく見えた。
「うゎー綺麗」
望遠鏡を覗き込む彼女がなんだか眩しく見えた。
「星ってこんなに綺麗なんだね」彼女が言うと、
僕は「そうだね!」と答えた。
「やっと感情がこもった声を出したね」笑顔で言う彼女。きっと今まで僕はなんの気持ちのこもってない声を出してたんだろう。
今日という日を僕は決して忘れないだろう。
忘れたくない。「また星を見よう」それが僕の本音だった。
「当たり前でしょ、天体観測クラブなんだから」
それから僕らは星を眺め気が付いたらもう夜の11時になっていた。
「しょうがない今日はここで寝よう」そう言って僕らは屋上で夜空の下二人で寝ることにした。
月が微笑んでいるような気がした。

学校では僕の机はトイレの前、ではなく中にあった。なんでこんなに僕に構うんだよ。そう思いながらいつものように机を教室に戻した。
クラスでは遠藤真奈は人気者だった。男子も女子もみんなと仲が良かった。僕とは正反対の人間だった。
それでも放課後になると僕らは屋上で星を見る。
普段は話せないけど、この望遠鏡を通してなら僕は彼女とむきあうことができる。いつからか僕は彼女のことを目で追っていた。もしかしたらこれが恋というものなのだろうか。僕は彼女といる時は生きている感じがする。心臓の音が聞こえる。でもきっと彼女は僕なんかに興味はないんだろう。そのうちクラスの誰かと付き合ったりしたら僕らはもう会えないのだろう。そんなことを思うと、心が痛かった。

ある日僕が学校に行くと机がおいてあった。
もう僕に構うのをやめたのかな?そんなことを考えたが違った。机には
「死ね」「消えろ」「キモい」
「お前なんかが真奈と関わるな」
という落書きが並んでいた。
僕には何も感じなかった。僕にとっては人にどう思われようが何されようがどうでも良かった。
けどそれを見た彼女は悲しんでいた。自分が言われたかのようにひたすら悲しんでいた。そして彼女は「なんでこんなことするの?最低だよ」
僕をかばった。僕をかばってもいいことはないのに。
周りが彼女を見る目は冷たかった。まるで昨日までの面影が見えない。僕を見る時と同じような目で彼女を睨んでいた。
次の日から僕らの机はなかった。
僕はなんだか嬉しかった。今までは住む世界が違うところにいた彼女が今は僕と同じ世界に立っている。彼女には到底言えないが、ほっとしている自分がいた。
やがて僕らのクラブにも手を出してきた。
部室を荒らして、望遠鏡を壊して、何もなくなってしまった。僕はこの天体観測の時間だけを楽しみにして生きていた。それを壊されるということは、僕の人生が壊れたみたいなものだ。それから天体観測クラブは活動をやめてしまった。
その日以来、僕は彼女に話しかけづらくなっていた。彼女も僕に気を使っていた。お互い避けるようになっていた。
僕は昔の自分に戻ってしまった。
何も感じなかったあの頃に。
それから僕の心臓はまた止まってしまった。
どんな景色を見ても、音を聞いても何一つ感じなかった。まるで枯れ葉を踏んでいるような気持ちにしかならなかった。

一ヶ月が経ち、僕はまだ小説を書いていた。
相変わらず何の気持ちもこもっていない小説を。
学校ではもう僕の居場所はなかった。
彼女は僕と離れたことでなんとか居場所を確保できたらしい。僕と彼女はもう見ている景色が違うんだと思った。あの夜、星を見た時、同じものが見えてると思ってた。でもきっと違った。僕はみんなに見えている景色が見えないんだ。僕は自分の見ている景色、思っている考えを誰とも共有することができないんだ。世界の片隅にいる気分だった。
僕はなんとかして屋上を取り戻した。鍵を職員室から奪い。立ち入り禁止のテープを剥がして。
屋上は以前まで僕が見ていた景色と変わらなかった。なぜかすごくホッとした。自分の居場所を見つけられた気がして。でも部室も荒らされていて、望遠鏡も壊れたままだ。もとから星を見るつもりはなかったからどうでも良い話なんだが。少し寂しい。

次の日、僕はまた屋上に向かった。鍵を開けようとしたらもう空いていた。誰だ?いや屋上に入る奴なんて1人しかいない。遠藤真奈だ。
そうわかった瞬間急いで屋上に行った。そこには、荒らされていた部室をただ黙々と掃除している彼女の姿があった。 
「何してるの?」僕が言うと、彼女は僕の存在に気づき驚いた顔をして、申し訳ない顔をしていた。
「本当にごめん。あれから怖くて君のこと見捨てちゃって」その言葉は決して嘘をついてるように見えなかった。顔が真剣だった。
「別に気にしてないよ。そうだ、また星を見ようよ」
気にしてないと言ったら嘘になる。でも星を見たいのは本当だ。たとえ何も感じなくても、
あの日のことだけは未だに覚えていた。
「じゃあまずは掃除からね」いつもの明るい彼女に戻った。
土曜日、僕らは望遠鏡を買いにいくことにした。
そもそもどこに売っているかすらわからない。
2人でデパートの中を歩き続けた。こんな姿を見られたらまたいじめられるだろう。そう思って少し彼女と距離を置いて歩いた。20分くらい歩き続けてようやく見つけた。「1万円‼︎」思わず声を出した。そんな高いとは知らなかった。でも僕にはお金はある。親の貯金が全部僕のところに来たからだ。
しかも僕はお金を使わない。だから僕が望遠鏡を買うことにした。「これでまた見れるね」楽しそうに言う彼女。僕も少し楽しみだった。
その夜屋上で僕らは望遠鏡をセットした。
「ねぇ私のこと本当に怒ってないの?」突然彼女が聞いてきた。「なんで?」「だってみんなにいじめられた時に私怖くて見捨てたんだよ、私みんなに変な風に思われたくなかったから」落ち込んでいた。
「人に変な風に思われたい人なんかいないよ」慰めるように僕は言った。
「それに僕は君に感謝してるんだ」
「僕はずっと何も感じないで生きていた、正直何回もしのうとも思った。だけど、君とあの日出会って、星を見た時、僕は初めて空が綺麗だと思った。初めて風が気持ち良かった。初めてこの世界に生まれてよかったと思った。そして初めて学校に行くのが楽しみになった。だからお礼を言いたいのは僕の方だ。ありがとう。」
「ちょっと喉乾いたから飲み物買ってくるね。」
そう言った彼女の目は濡れていた。声は震えていた。僕はやっと自分の気持ちを伝えることができた。もしかしてこれが好きと言う気持ちなのか?
僕は今感じたことをパソコンにメモした。
やがて彼女が帰ってきた。そろそろ見えてくる頃だ。僕らは望遠鏡を覗き込んだ。そこには前見たときとは比べ物にならないくらい美しい景色が広がっていた。こんなものが存在するのか?本当に現実なのか?そう思うほど美しかった。「綺麗だね」僕はつくづく天体観測クラブに入ってよかったと思った。ここ

で時間が止まって一生ここにいたい気持ちだった。
でも、そんな幸せはいつまでも続かなかった。


僕がその連絡を知ったのは、一週間後だった。
体調が悪くなった彼女が病院に入院してしまったらしい。
僕は急いで病院に向かった。
「大丈夫?」息を整える間もなく聞いた。
「来てくれたの?大丈夫、全然ヘイキだから」
何だかぎこちなかった。彼女いわく貧血で倒れただけと言っていた。僕はすぐにそれが嘘だとわかった。でも聞けなかった。怖かった、彼女が嘘をついてまで隠す病気が。そのあと部屋を出て僕は看護師に彼女の病態を聞いた。
看護師は泣きながら、悔しがりながら言った。
「癌が見つかったんです」がん?
まさか、あの癌のことか…、理解が追いつかなかった。
癌、しかもまだ中学三年生なのに、
「私たちがもっと早く見つければー」
絶望しながら言う看護師、
「それって、もう間に合わないんですか?」
静かにうなずいた。
僕の血管が全て破裂した気がした。
脳が溶けていった。僕は体に力が入らなかった。
立てなかった。体が言うことを聞かない。

目を覚ますと僕は病院で寝ていた。
そうださっき倒れたんだ。
「大丈夫?急に運ばれてきてビックリしたよ」
隣には彼女が寝ていた。
彼女を見るだけで涙が止まらなかった。
「急にどうしたの?」
僕は布団の中に潜った。
今起きていることは現実だ。もう彼女は長くない。これから僕はどうしたらいい?答えは一つだ、
彼女のしたいことを一緒にしてあげよう。
僕は涙を拭って、顔を上げた、彼女の顔を見た。
ずっと見た。今のうちに目に焼き付けておいた。

そのあと看護師に詳しい話を聞いた。
癌が見つかったのは一週間前でもう手遅れだったらしい。癌はだんだん強くなっていきやがて命を奪う
。もっと早く見つけていれば彼女は助かったかもしれない。僕がもっと早く気付いていれば、
後悔したって何も変わらないのはわかっている。
けど後悔するしかなかった。悔やんしんで、悔しんで、悔しんで、しんで、
そうだ彼女が死ぬ時僕も一緒に死のう。
突然、頭にその考えが浮かんだ。悪くない。2人で死ねばもしかしたら星になれるのかな?
あの夜空に輝く綺麗な星に。
そしたら僕も輝けるのかな?

次の日から僕は学校を休んで病院に行った。
僕はなるべく彼女と一緒にいた。一緒にいたかった
。彼女は終始笑顔だった。病気の面影はない。
「君は何かしたいことはないの?」僕が聞くと、しばらく考えて言った。
「やっぱり天体観測したい!」
それは僕もしたかった。けど彼女は病院を出ること
ができない。
「もっとこう病室でできることとかない?」
しばらく黙り込んで、
「君の小説を読みたい」
やりたいことがないかと思ったから、口が開いた時はホッとしたけど、僕の小説はなんも面白くない。
そんなものを彼女に見せたくなかった。
「それは無理かな」
「聞いてきたのはそっちでしょ。私が読んでおしえてあげるから、改善点を」
僕は渋々承諾した。
後日、僕は自分の書いた小説が入っているパソコンを持ってきた。
「やったー、それでは見ていきましょう」youtuberのようなテンションで僕のパソコンを開いた。
「まだ続きまでしかかけてないから」僕はいい内容が浮かばないから時間の割に進んでいない。
「その方が作りがいがあるから」
いつから彼女は小説を作る気になっているのか。
僕は隣で自分の小説を読まれているのが気まずかったから、外に出て飲み物を買いに行った。
彼女は僕の小説を見てどう思うだろうか。
いいとは思わないだろう。けどそれでも気を使って褒めるのか?どうせだったら正直な感想を言って欲しい。

僕の小説の内容は、中学生の恋愛についての話だった。なぜ恋愛にしたかというと、僕は恋愛の経験もないし、してみたいと思ったことがないからだ。
何よりわからなかった。愛すること。好きということが。小説を書けば何かわかると思った。
「正直に言うとよくわからない」彼女の反応は予想してた通りだ。
「悪いわけではないけど、いいところもない。」
それが正直な感想らしい。気まずかった。沈黙が続く。やっぱり僕の小説なんか見せるんじゃなかった。そう後悔していると、
「そうだ、私との思い出を小説にしたら?」
突然言い出した。
「ほら、突然現れた転入生、しかも美少女。そんな子と同じクラブに入って過ごす。」よくない?っていう顔で僕を見てくる。
「自分で言うか普通」
書いてみるよ、と言って僕は病室を出て家に帰った。家は相変わらず静かだった。僕はパソコンを立ち上げた。そこには日記がある。少しでも小説のネタになればいいかと思って書いていた。
まさか役に立つ時が来るとは。
その日僕は徹夜で書いていた。朝には完成した。
短かったのもあるが、こんな短時間に書き終えることができるとは。
僕は病院にいき、彼女に見せた。

「いいじゃん」嬉しそうだった。
まぁ話の中ではひたすら彼女を褒めているところが多かった。多くなってしまった。
「でも、結末にかけるね」
僕もそれは思っていた。ただ星が綺麗で終わってもなんの感動がない。別にオチがいるわけではないけど、なんか物足りない感じはした。
「やっぱり、病気です死ぬ美少女の方が感動はするよね」僕は笑えなかった。
「結末はやっぱ私が病気で死んで終わりだね。それなら感動できると思うよ」何も答えられない。
なぜ彼女は自分が死ぬことをそんなに簡単に話せるのか訳がわからなかった。
部屋から出るとカウンターに向かった。
「遠藤さんについて伺いたいんですけど、癌はどこにできているんですか?」
僕が聞くと悲しい顔をしながら、
「大腸に見つかりました」
そう言った。悲しい顔をしていたくせに、次の人が来ると笑顔で対応していた。悪魔だ。まるで人が変わったかのように見えた。
家に帰って大腸癌について詳しく調べた。

大腸にできる小さな癌
大腸にだんだん浸透していくらしい
彼女の癌が見つかったときにはもうリンパ節に浸透していたらしい。それにしてもなぜ彼女は悲しんだり、怖がったりしないんだ?普通、死ぬのがわかったら誰もが混乱する、それなのに彼女はまるでわかっていたかのような顔をしていた。
何はともあれ、一番辛いはずの彼女が辛い顔を一切してないんだ。僕が暗い顔をしてどうする。

次の日また僕は病院に行った。
「今日も来たの?」驚く彼女。
「だって学校に行ってもやることないし」
僕はもう当分学校には行ってなかった。 
もとから学校に行きたかったわけじゃないから別になんとも思わなかったけど。
「小説の続き書いた?」
僕が家で小説を書きそれを彼女に見せるのが僕らの日々だった。
「癌について詳しく調べてくれたんだ」
当たり前だ目の前の人が癌で入院しているんだ。
しかも治らない。そりゃどんな人でも興味は持つだろう。
「聞きたいことがあるんだけど」僕が聞いた。
「なに?スリーサイズでも聞くの?」
相変わらず呑気な彼女。
「君はさ、死ぬんだよね?死ぬのは怖くないの?」
「死ぬよ私、怖いよ、すごく怖い」
驚いた。いつも平気な顔をしていたからつい聞いてしまったが、申し訳ない気持ちになった。
「私ね、実は前から癌があったの」
「え?」僕は思わず声を出してしまった。
「私が引っ越す前、向こうで一回癌が見つかったの。けどある日突然癌がなくなったの。びっくりでしょ、私も病院の先生もびっくりしたよ。けどこの前また診察したらこうなったわけだよ」
知らなかった。彼女にそんな過去があったとは。
「でも一回消えることなんてありえるの?」
「あり得るんだって、癌は見えなくなって繁殖を続け再び現れるんだって」彼女は泣いていた。
気付いたら僕も泣いていた。
僕にできることはなんだ?本当に小説を書くことか?もっと彼女のためになんかすることはないのか?
そんな考えで頭の中がいっぱいだった。

今日も病室に行った。どうやら今日は検査があったらしく彼女がいなかった。僕は仕方なく病室を出て
学校に向かうことにした。
久しぶりの学校だ。僕の席はまだあるのだろうか。
僕が行った時はちょうど四時間目だった。僕は静かに自分の席に向かった。周りからざわざわと声がしたが気にしなかった。
昼休み僕は屋上に行った。すると屋上にはたくさんの人がいた。なんでだ?僕はとりあえず教室に戻った。先生に聞くと、僕が休んでから屋上の鍵を持つ人がいなくなって、ずっと屋上を解放することになったらしい。
悔しかった。自分の居場所を取られたようだった。
どうしたら屋上を取り返せるか先生に聞いた。
「天体観測クラブが再開したら屋上はまた

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