三章以前に書いていた文章に手を加えたものです。
世界情勢的に本編での投稿を自粛しました。
別に国名が不適切な用語ってわけではない。
問題ないはず!
百万PV記念ということで、しばらく公開しておきます。
いずれ限定公開にします。
以下本文
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■ロシアン兵糧丸を作ってみた! 和風なの? 欧風なの?
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草原ダンジョンの食卓に、皿に乗せた兵糧丸を置く。
「忍者メシの兵糧丸を作ってみた! 今日はこれを試食する!」
兵糧丸は忍者の携帯食だ。
実際のものは作るのが難しいので、現代風レシピで作ったもの。
そば粉、白玉粉、きな粉、ゴマ、砂糖、はちみつなどが材料だ。
二種類を用意した。
白ゴマを使ったものと黒ゴマを使ったもの。
見た目も楽しい仕上がりだ。
「わあ、おいしそうなお団子ですね!」
リンは目を輝かせて、団子――兵糧丸を見つめている。
「ニンジャのアレっすね? 一粒で何日も戦えるとかって、うさんくさいやつ!」
トウコは冷めた目で見ている。
「うさんくさい言うな。蒸したソバ団子って感じかな?」
つまみやすいように少し小粒にしてある。
串団子くらいのサイズ感。
ひとくちで食べられる配慮だ。
味がうまいだけじゃない。
見た目が楽しいだけじゃない。
楽しい食事を演出するイベントを用意している!
「ちなみに、ロシアン兵糧丸になっているぞ!」
「ろしあん……? 忍者のごはんなのに和風じゃないんですか?」
リンは首をかしげている。
味付けを考えている……?
忍者の作るものは和風。
ロシアンだからロシア料理だと思ったのかな?
ボルシチとかピロシキしか浮かばないけど……。
それ、どんな味の団子だ?
「惜しい! 味の話じゃない!」
別に惜しくも掠ってもいないけど!
ロシア風の味付けじゃないわ!
トウコがぐっと身を乗り出しながら言う。
「あれっスね! 激辛とか入ってる罰ゲーム的なやつっスね?」
トウコは冷めた目から一転、目を輝かせて興味津々だ。
こういうの、大好きなのだ。
職場でもよく、こういうまかない料理をつくったもんだ。
「トウコ、正解!」
「やたっー!」
「白黒それぞれ、ひとつだけハズレになっているぞ!」
「はずれ、ですか?」
あれ、リンはまだよくわかってない顔だな。
「|辛《から》かったりするんスよ!」
「へえー。そうなんですねー。これは楽しみです!」
ロシアンルーレット。
リボルバー拳銃に一発だけ弾丸を入れて交互に撃つロシアの国民的遊戯。
国民が日常的に楽しんでいる……わけではない。
これにちなんだ料理だ。
見た目からは中身の分からない状態で、ハズレの味がある料理。
団子やシュークリーム、おにぎりなどにワサビやカラシなどを入れておく。
口の中が大惨事になるという、おそロシアな料理だ!
ひとつは激辛ハバネロ味。
いつも目つぶしに使っている材料である。
これを投げつければ|ゴブリン《小鬼》の目にも涙が浮かぶ!
凶器的な品だ。
食べた場合の威力も抜群。
作ったが味見はしていない!
俺は辛いのが苦手なので、当たったらコワい。
もう一つはクエン酸とねり梅だ。
酸っぱい味。これは水渇丸とも言える。
これは味見した。おいしいかは微妙。
用途通りに唾液はたくさん出る。
ハズレ扱いするのもなんだけど、冒険のお供には使わないだろう。
「それじゃあ、白黒ひとつずつ取ってくれ。残ったのが俺のね」
作った俺にもどれがハズレかはわからないが、一応。
「うーん。どれがいいのかなぁ」
リンは真剣な表情で悩んでいる。
団子の上で指をさまよわせている。
「早い者勝ちっス!」
トウコはひょいひょいと、何も考えずにピックアップした。
「お、トウコはやいな」
「まあ、こういうのは運っスからね」
サッパリしてんのね。現代っ子だからな。
対して、リンはまだ決めかねている。
「うーん、こっちのほうが可愛いかなあ……」
「リンの選ぶ基準、ハズレかどうかじゃないんですね」
団子にカワイイとか、あるんか?
ゴマ団子みたいなもので、俺には可愛さがわからない。
「どれも同じに見えるっス」
「だよな」
意外そうな顔を浮かべて、リンは二つの団子を指さす。
「えー? こっちのは小さくてかわいいし、こっちの黒いのは強そうですよ? じゃあ、この二つにしますね」
団子の表情みたいなものがわかるんだろうか。
うーん。
残った団子を眺めても……わからん。
「じゃ、残りが俺のと。かわいくないのと弱いやつね!」
「そう言われると、店長のやつそれっぽいっスね」
ちょっとしょんぼりして見える団子。
「ああっ。その子たちがかわいそうな感じになっちゃいましたね! こ、交換しますか?」
「いや、いいよ。残り物に福があるかもしれん」
それぞれの前に白と黒のゴマ|兵糧丸《だんご》が置かれる。
「というワケで、実食だ! 黒からせーので食べるぞ!」
「はーい!」
「リョーカイっス!」
「せーのっ!」
俺の掛け声で、二人が団子を口に運ぶ。
「いただきます」
「ていっ!」
俺の団子は……セーフ!
つまりハズレは二人のうちいずれか!
俺は二人のリアクションを待つ。
しかし――
「おいしいですねー」
「普通にうまいっス!」
「……あれ? 俺も普通なんだが」
え? 不発?
「ハズレ入れ忘れたんスかー?」
「そんなはずないんだが……」
二人とも、平気な顔をしている。
「次、早く食べましょう!」
リンもノリノリだ。
ま、不発ならそれはそれでいいか。
「じゃあ次、白! せーのっ!」
――俺はセーフ。
「おいしっ」
――リンもセーフ。
「ていっ――あばーっ!」
トウコは口に入れた兵糧丸をふき出しそうになる。
クエン酸マシマシの酸っぱ玉だ!
ナイスリアクション!
「おお、当たりか! さすがはヨゴレ芸人!」
「芸人じゃねーっス! げほっ! うえぇー」
トウコが反論する。
ヨダレが飛ぶわ!
リンがトウコの口元をぬぐいながら言う。
「当たりとかハズレって、どういうことなんですか?」
「ん? 辛かったり酸っぱかったりするのがハズレだ。当たりってのはまあ、的中させたって意味」
トウコがヨダレをたらしながら親指をぐっと立てる。
「芸人的にはオイシイっス!」
「やっぱヨゴレじゃねーか!」
リンがポンと手を打つ。
「そういうことでしたら、一つ目は当たりでした! 辛くておいしかったですよ!」
「……え? アレがオイシイ……激辛のはずなんだが?」
激辛ハバネロですよ!?
タバスコの十倍辛いらしい。
最強クラスの催涙スプレー級ですよ!?
案外、平気なもんなの?
「味見したんスかー? ひよったんじゃないっスかぁー?」
「味見してない……しかし、匙加減間違えたか……? 試しに作ってみるか――薬術!」
……ハバネロの量は半分で! 辛いの苦手なんで!
もう二つ、激辛ハバネロ丸を作って皿に置く。
「あれ? なんで二つ作ったんスか?」
「ひとつはトウコ用な」
トウコが目を丸くして騒ぐ。
「うえぇぇぇ!? ナンデ!?」
「ひよったか? さて、食うぞ!」
「あれ? 私のぶんはないんですかー?」
「おかわり!? ちょっと待って、味見するから。せーのっ!」
俺とトウコは同時にハバネロ丸を口に放り込む――
あれ……思ったほど辛くない。
「ん? 案外、平気なんじゃ――がはっ!?」
「――うえぇっ! げほっげほっ!」
遅れてくる! だんだん辛くなってくる!
口の中が火事になったように熱い!
汗がぶわっとふき出してくるぞ!
水! 水ゥー!
喉が焼けるようでしゃべることもできない!
そりゃそうだ!
だいぶ量は少ないとはいえ、ボスコウモリの口に投げ込んだりするアレだからな。
「は、はい! お水です!」
リンが水を用意してくれる。
「あ、ありがと――」
「みずっ! がぼっ! ――げほあっ!」
トウコが水を噴き出した。
ばっちいわ!
落ち着いた。
「あー。まだ口が痛いわー」
辛いを通り越して痛い!
なんか胃も痛い!
「リン姉、よくこんなの食えるッスね?」
こんなの言うなや!
おかわりで作ったハバネロ丸をリンは口に放り込む。
……全然平気そうだ。
「やっぱり辛くておいしいです。――それに、ゼンジさんの作ってくれたものなら、何でもおいしいですよ!」
リンははにかむように笑った。
あまーい!