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二章に対する心残りと作者補足

 いつも拙作『瑞雲高く』をご愛読頂きましてありがとうございます。お蔭様を持ちまして本作も二部を終え、少年編を完結させる事ができました。

 さて。実は、先行していた小説家になろうで二章の最後を公開する時、とても不安でした。と言うのも山之井から若鷹丸達が旅立つ事を読者の皆さんに受け入れて貰えないのではないかと言う不安が大きかったからです。
 とは言え”瑞雲高く”は実の所、三章以降の構想が根本にあり、その主人公達の人となりを補足する為に序章~二章を書き始めたのです。その為、当初は序章、一章、二章はそれぞれ10話程度で終わらせる予定だったのです。ところが書き出してみると主人公以外のキャラクターも生き生きと動き出し、思ってもいなかったエピソードが沢山出来上がりました。更にそれを望外な数の読者の方に読んで頂けた結果、全30話の予定だった物が最終的に120話に膨れ上がって、なんとも壮大な前振りになってしまったのです。

 そして、前述の通り二章の最後を書くのがとても不安になったのです。結果的にはコメント欄は多数の「そんな気がしてた」と、それなりの「びっくりした」的な感想が並び、私が恐れていたような「手前ふざけんな!!」的なコメントは一つも付かなかった訳ですが。
 だから結局の所、山之井やそこに暮らす人々に一番愛着があったのはきっと私なのでしょう。彼等のお話を書き終える事に抵抗があったのです。



 さて、そんなこんなで私が意味もなく怯えた以外には問題なく書き終えた二章ですが、大きな心残りが有るのです(問題なく書き終えたと言ったな…あれは嘘だ!)。

 それは小嶋孝政と母、涼についてきちんと人となりを描写出来ていないという事です。特に涼についてはほとんど描写がなされておらず、文句を言いながら結局それなりに働いた孝政に比べて、何もせずに領内を掻き乱した人と言う評価になってしまったと感じています。
 この解説を投稿しようと思ったのはこの二人について少しばかりのフォローをしたい、そして作者と読者の見解の溝を少し埋めたいと思ったからなのです。



 まず、小嶋孝政と言う人物について、彼は実は西の京の生まれです。尤も彼は幼くして芳中国に移った為に記憶には残っていませんが。

 彼の父親は芳前国、芳中国二国を領する守護飛田家に仕える家柄でした。その中でも彼の父は血統に基づく縦型武家社会を再建し傾いた武家社会、幕府の繁栄を取り戻そうと奔走した人物でした。結果、硬軟織り交ぜる事の出来なかった父親は立場を失い守護家を後にする事になります。
 当然、そんな経歴ですから芳前、中国へと落ちて来た父親に仕官の道は中々見つからず、そんな中で三田寺の先代が彼等を取り立てたのです。父親がそれにどれだけ感謝の念を感じたかは想像に難くないでしょう。彼は奔走し三田寺家と真野家の対立で機能不全に陥りかけていた三田寺衆の結束を固める事に成功します。そしてその感謝は息子にも受け継がれる事になるのです、その血統主義に基づく武家社会の再建と言う夢と共に。

 我々は過去の歴史として封建社会の行く末をしっています。しかし、彼等の時代に於いて孝政と彼の父親の掲げる主義主張はぐらついて来たとは言え、理想としては正しい物だった言えるでしょう。ただ、親子揃って少し不器用だったのです。
 実は、当初は閑話・約束にて三田寺の御爺が孝政を引き取るシーンを入れるつもりでした。彼を残しては山之井の者達が納得しないだろうと。ひいては彼の命すら奪われかねないと。最終的にはその替わりに入谷での代官補佐や領内再建への計画立案の仕事に従事する姿の描写へと変更しました。

 彼はあの後どうしたでしょうか。結果的に目的を果たし、三田寺へ戻ったでしょうか。周りの視線に耐えながら山之井に残ったでしょうか。答えは皆さんに想像して頂きましょう。
 結局私は彼を最後まで悪役として書き切る事が出来ませんでした。嫌な奴ではあったでしょう。それでも悪役には出来なかったのです。悪役を描くと言うのはなんと難しいものでしょうか…



 そして、最大の問題。母、涼です。三田寺の御爺を以ってして幼い頃は梅そっくりだと言われた彼女は本来、闊達で明るい性格の人物です。それは紅葉丸や梅の性格にも強く現れていると言えます。母親が鬱屈として居てはあの様な明るい子供は育たないでしょうから。
 二章では描写する余裕がありませんでしたが、若鷹丸は弟妹を連れて相変わらず母へ贈る花を取りに行っていますし、涼もそれを心待ちにしていますし、古くなった組紐を新しく買ってくれたりと若鷹丸に対しても他の子達と変わらず愛情を注いでくれました。

 ただ、自分のお腹を痛めた息子にも家を継がせたいと言う気持ちが自分の中にある事に気が付いてしまった。それだけなのです。その思い自体はこの時代では至極普通の事だったのではないでしょうか。ただ、彼女はそれに対して罪悪感を持ったのでしょう。彼女は彼女で若鷹丸の事もきちんと愛していたのですから。
 そして、その罪悪感は顔に出たのです。彼女に良く似た娘の梅で考えてみて下さい。梅は隠し事や心配事があるとすぐ表情に出そうな感じがしませんか?涼も同じように上手く感情を隠せなかったのでしょう。彼女は彼女でやはり少し不器用なだけだったのでしょう。

 若鷹丸が出奔し、家督は紅葉丸にと聞いた時に彼女は涙を流します。多分、多くの読者の方はこれを悔恨の涙と捕らえられたのではないでしょうか。私もそれがゼロだとは思いません。ただ、感謝の涙も混ざっていたのではないか、私はそう思いながら書いていました。そして、若鷹丸は感謝の涙である事を望んでいるでしょう。


 さてさて、取り留めなく自分の表現力、構成力の無さを補う文章を垂れ流してしましましたが皆様の中の何かを埋める一助になれば幸いです。
 では、三章で皆様に再びお会い出来るのを心待ちにしつつ牛歩の進みである三章の製作に戻りたいと思います。

3件のコメント

  • 楽しみにしています
  • 作者の名前から海洋物な話かなと思って読み始めたのに山の中が舞台だったのでおかしいとは思っていました。とりあえず海に着いてからが本編、楽しみにしております。
  • 頑張れ、なんて言いません。
    だって、頑張っているんですから。
    驚き+後悔+感謝+心配=お涼様の涙
    でしょうか。
    心から山之井の人間になった孝政氏が、大化けする期待もポンコツ読者の私の脳裏に、こっそり住んでいます。
    「頑張り」は前進する為の着火剤として、
    燃料は、眼からキラキラ光線を発射する、梅お嬢様のようなワクワク感にして進みませんか?
    ポンコツコメントにて失礼。
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