タイトルの通りだ。
私には糸巻きボタンづくりがめちゃくちゃ上手な友人がいる。その友人がこの度、拙作『怪し死神、夜陰に雨』のレギュラーメンバー四人、捧、由羅、朱莉、砂京をイメージした概念ブローチを作ってくれた。こんないい思いをして大丈夫だろうか。クオリティが高くて恐れ多いばかりだ。
公営の交流センターを集合場所にして会い、品物を受け取ったのだが、開封するまでの心の準備が大変だった。開封して目にした瞬間からも、人の形を保つのにとても苦労した。あまりにも濃密な供給に危うく叫び出し、走り出しそうな気持ちだった。割と冗談抜きで。自宅で開封していたら間違いなく、奇声を発しながら机を拳で連打していただろう。だが交流センターには市民の皆様がいらっしゃるのでどうにかこらえた。でも正直、ベンチで悶えているところを清掃の人に変な目で見られたような気はする。
本題に入ろう。友人との会話や私の考察をもとに、ブローチの解説をしていきたいと思う。供給過多で溺れる自創作限界オタクの歓喜の悲鳴ラジオ、と言い換えることもできる。
ブローチは全て円形で、直径は約二センチ。この円の中に、宇宙があるのだ。写真も添付するのでぜひご覧いただきたい。
なお、この感想には本編のネタバレが大量に含まれる。一応知らせておく。
まずは捧から。
最も外側の部分は髪の毛の象牙色だ。そこを区切って縞模様のように、目の菫色が入っている。内側に入ると、服のイメージのくすんだ黄色の糸がかかり、そして中心に向かって、茶、金、再び菫色、という構成。画像をご覧いただきたいのだが、このブローチは層状になっていて、糸を多く重ねた構造になっている。最下層の菫色から一色ずつ上層に上がっていく感じだ。整然とした幾何学模様が美しい。
由羅も、外周は髪の黒を目の黄色で割り、次いで服の青、茶、金ときて再び黄色。捧と全く同じ構成である。――《全く同じ構成である》。友は、二人の関係性を対称なデザインでもってブローチに落とし込んでくれたのだ。圧倒的解釈の一致! 見ての通り、糸のかけ方も対称だ。私はゆらささを表現する言葉は「運命共同体」及び「唯一無二」だと思っているのだが、対称ってものと相性がよすぎて最高に尊い。
さて、中心付近の茶色は、二人に共通している。友曰くこれは、由羅から捧の手へと渡った「髪紐」、過去パートにおいては、華煌に反逆するときに由羅が自分で使っていたのをほどいて捧の髪を束ねた、そして月日が経った現在も、捧が大切に使い続けているあの「髪紐」の色だという。……最高。
「由羅と捧を繋ぐものは髪紐だと思った」と友は語った。なんなんだその最高解釈。ありがとう。命が助かる。たしかに本編でも言及されてるしな。
次いで、もう一つの共通色、金。由羅の妖術の色、ひいては彼の妖力にて生きる捧の妖術の色である。この金糸が本当に美しいのだ。金属線のような輝きで、光を受けるごとに煌めく様はまさに、変幻自在に揺らめく金の炎そのものだ。
この妖術の共通部分は製作時、銀でも考えていたらしい。だが、二人のイメージとして出てくるのは金色、という意識と、「ゆらささは月夜に輝くから」という考えで金色になったそう。
「ゆらささは月夜に輝くから」の文言すごすぎる。本当にその通りで、雨の夜にも〝死神〟の金色の妖術は鮮やかに舞って敵を屠るけれども、真に二人が「輝く」のは、並んだ姿が最も美しいのは、晴れ晴れとした気持ちで共に月を見上げられるような穏やかな夜だと思う。銀色が少し違うなって感じるのは、それが捧の持つ武器の鈍い反射光で、敵と向かい合っている場面に繋がるからじゃないだろうか。(深堀り考察奴)
また、フチの部分で他の糸を束ねている糸は、捧の方では黄色、由羅の方では菫色だ。(写真でわかるだろうか)お互いの色がお互いに入っている、尊さ。しかも、「感情の重み・厚みは由羅のほうが強そうだから由羅だけ二回巻きにした」とかいう天才の所業をかましている。たしかによく見ると、由羅のフチの部分は捧よりも太いのだ。認識した瞬間、情緒が粉々になった。ありがとう……!
二人の個性も関係性も、強い繋がりも、ありったけ凝縮された素晴らしい作品だ。二個並べたときの威力が半端ない。「同じ」という事実の波状攻撃。〝死神〟が一蓮托生であることを改めて噛み締めた。命が、助かる。
ところが驚くことに、さしゅのぶんもあるのだ。命がいくつあっても足りない。私はすでに何度もオーバーキルを食らっている。大変だ。
砂京イメージのブローチは、ひと目見た瞬間に飛び上がりそうになった。差し色が赤だった。朱莉さんの赤だ。落ち着いた色合いの中で、外周を彩るように赤い糸が使われている。ずっと朱莉のことばかりの彼にあまりにも似合っていて、思わず頭を抱えた。
髪色に沿ってくすんだ緑の外縁を、赤と灰色で割り、内側に入ると銀と灰色。扇子の絵の銀色と、妖術の霞の灰色である。中心は周りより濃い灰色で瞳の色、となっている。
ここで注目したいのは、砂京のブローチは他三人と比べると「糸の層数が少ない」ことだ。朱莉さんや捧、由羅のものは、繊細な糸の重なりを見ることができるのだが、砂京となると、まるで蓋をするかのように浅い位置に糸が幾重にも巻かれている。友は、「彼の本心の見えづらい感じを概念として落とし込みたかった」と語る。大正解だよ! 彼は何を考えているかわからない。作者でさえよくわかっていない。そういう捉えどころのなさが見事に形として出ている。
朱莉さんのデザインは、砂京とは逆に深部までよく見える。外側はイメージカラーの赤、内部では髪の茶色や弓の薄紅、妹の鳴のカラーの橙(何気に初出し情報)が重なり、中心には瞳の真紅。構成が美しくて天を仰いでしまう。細い糸が醸し出す繊細さは理路整然として、彼女らしさが溢れている。最推しの供給というポイントからまず拝んだ。
が、一番〝ヤバ〟なのは、わずかに入っている銀色。ごく少ししか使われていないが、「砂京が朱莉に贈った簪の色」だそうだ。はい、優勝。砂京の方は赤が目立つのに、朱莉さんの中にある砂京の要素のなんと少ないことか。しかも、赤は朱莉さん本人の色だが、銀は砂京の色というより、砂京と朱莉さんの間にある「贈り物」の色にすぎない。この熱量の釣り合わない感じ、原作の空気そのままだ。最高。
核となる中心部分で、その人自身ともいえる色、目と妖力の色を囲むものが、ゆらささとさしゅでは全く違う。武器という点で揃ってしまうさしゅと、軌跡の髪紐・妖術の炎で繋がりが強調されているゆらささ。この差がおいしい。……運命共同体と仮面夫婦を比べたら違うのは当たり前なのだが。
ここまででかなりの量の供給がされたが、まだある。
ブローチが入っている箱は友の自作である。
金と赤の糸がリボン結びになった飾り、色合いが優勝。カラフルな千代紙が貼ってあるのも優勝。
また、金属の飾りがついているのだが、ゆらささの箱は金、さしゅの箱は銀。ゆらささが金なのは前述の通りで、さしゅは二人の間のキンとした冷たさのようなものから銀を導いたそうだ。うーん、最高。
まだある。
手紙をもらった。
便箋一枚の短い手紙である。その何に一番沸いたかというと、宛名だ。
よく考えたら私、ペンネームで呼ばれたことがないんだな。
「一嘘閃花」は、自分の名前と言うよりもロゴやマークのような感覚だった。それに呼ばれる名前は、インターネット上ではTwitterのアカウント名「とうふ」。リアルでは本名をはじめとしてそこから派生した呼び名。そのため、一嘘閃花を出されたときにくすぐったいような嬉しさがあった。
キャラ概念ブローチという素晴らしいファンアートをもらい、一日でエッセイ(脅威の3000字超、自分でも字数カウントを見てちょっとドン引きしている)を殴り書きするほどのハイテンションになり、そして今抱く思い。
それはたったひとつ、「あやしに二期書こう」である。
いわゆるスランプという奴に捕まってしまったようで、この頃はなかなか小説が書けていない。プロットの破綻が激しくてずっと苦しい。この事態をどうやって収束に導くんだと過去の自分に半ギレで問いかける日々だ。しかし、ブローチをもらい、解説や考察の話に花を咲かせて、書きたい、書かなきゃ、といつもの強迫観念じみた創作意欲が戻ってきた気がする。ゆらささの、行く道を、書かなくては。
それだけではない、続編を楽しみにしてくれる友人の期待に応えたい。最終目標は全巻物理的に刷って文学フリマで頒布だし。何より私にとって、小説を書かない生活は張り合いがないように感じられるのだ。二期書こう、今まで何度も言っていることだが、今度こそ意志に留まらず行動まで持っていきたい。マジで。
概念ブローチからもらったパワーをもとに原稿頑張ります。