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不気味な洋館

 ある日、太宰治は旅の途中、見慣れぬ土地に足を踏み入れる。天気は曇り、空は鉛色に覆われている。道を歩いていると、目の前に一軒の洋館が現れた。その洋館は、古びた石造りで、蔦に覆われた窓がいくつも並んでいる。その佇まいは、まるで時代を超えて存在し続けたかのように、不気味で冷たく感じられる。

 太宰は何の前触れもなくその洋館に導かれるように近づく。入口の扉は、少しひんやりとした空気とともに音を立てて開いた。中に足を踏み入れると、重く湿った空気が鼻を突く。館内は薄暗く、古い家具が埃をかぶり、壁には色褪せた絵画が飾られていた。どこか遠くからは、低い音で何かが響くような気がする。

「誰か…いるのか?」と太宰はぼんやり呟きながら、足音を響かせて館内を歩き始めた。だが、返事はない。廊下を進み、ひとつひとつの部屋を覗いてみるが、どこも空っぽで、時間が止まったような静けさが支配していた。

 その時、ふと、背後で扉が軋む音がした。振り返ると、太宰は一人の女性が立っているのを見つける。彼女は長い黒髪を持ち、白いドレスを着ていた。顔は青白く、目は深い闇のように深く沈んでいる。

「どうしてここに?」と女性が静かに言う。彼女の声には冷たい響きがあり、その言葉はどこか異常に感情を持っていないように感じられた。

「私はただ…歩いていただけだ」太宰は答えるものの、その言葉がどこか無力に思えた。彼女の目は太宰の内面をじっと見つめ、彼の心の奥底にある恐れや孤独を暴き出すようだった。

「この館は、出ることを許さない」女性はさらに言った。太宰はその言葉を理解する前に、背後の壁に何かが動く音を聞く。振り返ると、壁の隙間から無数の影が浮かび上がり、太宰に迫ってきた。まるで館そのものが彼を閉じ込めようとしているかのように。

 太宰は逃げようとするが、足がすくんで動かない。恐怖に駆られて必死に扉を開けようとするも、そこにはもはや扉は存在しない。すべてが無に帰したような感覚が彼を包み込む。

 そして、女性の冷たい声が再び響いた。「あなたも、永遠にここに閉じ込められる運命だったのです」

 その瞬間、太宰は冷や汗をかき、目を覚ます。夢だったのだろうか?それとも現実だったのか?分からない。ただ、彼はその後も一時的に目を閉じるたび、あの不気味な洋館の映像が脳裏に浮かび、心の奥にどこかしらの不安が残った。


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この短編は、太宰治が自身の内面的な不安や絶望に対峙するような状況に置かれる場面を想像したものです。不気味な洋館は彼の心の深層を象徴し、出ることが許されないという「閉塞感」は、太宰が抱える孤独や無力感を反映していると言えるでしょう。

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