第16話 灯火

 

 貯水した状態の調圧水槽の中でクリプトビアビナント特異個体と決着をつける。


 発信機で詳細な位置を掴んでいた発信機を外された。特異個体は薄く暗い水の中に潜水し潜んでいた。




 柱から離れていて、少しでも視界が広く確保出来る場所に水上バイクを一旦、停止させ、英原と石通は様子を見た。


 水上バイクを移動させると特異個体は後を追ってきた。

 

 しばらく進行する。


「奴に爆弾を食らわせろ!!」


 石通は、爆弾を投げ込んだ。はねて特異個体の頭の上で爆発した。

 

 特異個体の追跡は続く。


 英原は直線での進行をやめ、柱3つを楕円で囲むように特異個体を回避しながら一周した。


 特異個体は巨体を水上バイクの動きに合わせて追ってきた。

 

 石通はパイプ爆弾の起爆スイッチ押しすぐに投げれるように準備し、チャンスを待った。

 

 特異個体はこちらの裏をかこうと柱にさしかかった所で水上バイクが出てくる方向を予測しながら口を開けながら姿を現した。

 

 石通が口の中に爆弾を投げ込んだ。

 

 

 水上バイクは特異個体と柱を避けきる。


 特異個体は水中へと沈んでいった。

 

 無線の後星から連絡が入る。


「侵入がばれました。脱出して下さい」


「まだ倒せたか確認がとれていない」


「何言ってるんですか早く引き上げましょう」

 

 石通は半分泣きそうになりながら激怒した。インペラに巻き込まれれば粉々になるだろう。


「早く、退避して下さい」

 

 後星もせっついた。

 

 先程破壊した管理支所側の天窓の方が近い位置にいた。


「管理支所側の天窓に移動を頼む」

 

 英原は指示した。


「了解」

 

 ヘリパイロットが応答する。


 水上バイクで管理支所側へと移動する。地上、上空でヘリが移動する。

 

 特異個体は姿を現さなかった。撃破できたかはわからなかった。

 

 天窓は、インペラの近くで室内照明はない。

 

 水上バイクのライト以外は真っ暗闇の中、ガラスの割れた天窓からヘリのライトが差し込み、しばらくするとスリングが落とされる。

 

 水上バイクが近づこうとした瞬間、透明の物体が水面から姿を現し、スリングに纏わり付いた。

 

 オニクマムシタイプの通常個体クリプトビアビナントがもう一体、調圧水槽に潜んでいた。

 

 スリングに吸い付きながら、ヘリを引っ張った。

 

 石通は呆気にとられる。英原は急いで爆弾を投げた。

 

 通常個体は、クリプトビオシスで防御する。

 

 ヘリは下へと引っ張られ、バランスを失い、ヘリは管理支社建物側面側へと激突したのだった。

 

 通常個体は荒れ狂いながら、調圧水槽からスリングを引っ張った。

 

 ヘリは完全に制御を失い、建物にたたきつけられた後、敷地内に墜落して炎上した。

 

 調圧水槽内まで地上の爆発音が響き渡る。

 

 英原は、憤った様子で水上バイクを第一立坑側へと向けた。

 

 石通は呆然として起きた事態を見ているしかなかった。


「階段から脱出するしかない」

 

 進んで行くと調圧水槽内の室内照明は突然、全て消灯する。真っ暗闇に包まれ、水上バイクのライトのみが明かりとなった。

 

 第一立坑からすぐ近くの階段からの脱出を急いだ。

 

 暗闇の中を進行する。排水機場側にいる通常個体から距離を置くため、水上バイクのスピードをあげる。

 

 英原にとっても室内照明が消灯することは想定の範囲外だった。動揺した様子を見せていた。

 暗闇の中、ライトだけで巨大な柱と接触しないように進む。英原は焦りの感情も後押しし、スピードは加速する。

 中央まで来た所で水中から特異個体が飛び出し、水上バイクへ激突したのだった。特異個体はやはり死んでいなかった。


 水上バイクは、逸れてギリギリで減速するが側面が柱に突っ込んでいく。英原と石通は飛び降りた。

 

 柱に水上バイクが激突し、煙を上げる。転覆はしなかったものの大きな損傷を受けた。

 

 少し離れた場所にいた、せめて水上バイクに戻ろうと急いで泳いで戻った。

 


 英原も泳いで戻ろうとしたところで水中で通常個体が近づいてきた。英原を水中へと引きずり込み英原の足に吸い付いていきながら体を徐々に飲み込んでいった。

 

 石通は気付かず水上バイクに登る。


「英原さん!」

 

 石通は叫んだが、水上バイクが引っ張られる。 

 

 水中で英原の体が吞み込まれた。

 

 通常個体は移動したことにより水上バイクが動きだし、英原のハーネスとつながった命綱が水上バイクを引っ張り引きずり回す。

 

 石通は水上バイクにつかまった。

 

 水上バイクの2m下すぐには通常個体がいる。


 位置を移動した後を水上バイクは停止する。

 

 石通は爆弾を手に持ち握りしめた。

 辺りを見回した。


 見ていない方向から通常個体が姿を現し、石通に爪で攻撃をした。


 腕をひっかかれて、出血した。ダイビング用のタンクも破壊され空気が噴き出した。多くの血液を出血し前のめりにうずくまる。

 


 通常個体は水中を移動し、水上バイクを引きずり回す。


 潜水し、水上バイクを沈ませようとするが浮き上がる。


 荒ぶりながら激しい動きをする。八本の足をバタバタ動かしながら暴れ狂う。

 

 通常個体は水上バイクに固定された英原の命綱に引っ張られ思うように水面に出てこれないため水中から水上バイクを狙うのだった。通常個体は水中から一気に突進しようとした。



 通常個体の口の中に埋まった英原は通常個体の体内で呼吸の限界を迎えていた。

 ハーネスに持っていたパイプ爆弾を最後の力を振り絞り起動させた。


 通常個体の体内で英原が爆弾を爆発させた。体内が膨張し光り輝き爆発。

 爆発しながら浮上した。

 水上バイクの位置から逸れて。通常個体の体は水面で白い炎あげながら燃えさかる。

 

 石通は激痛で水上バイクの上で出血し動けなかった。

 

 数メートル先で特異個体が水面に姿を現した。

 

 白い炎をあげながら燃えさかる通常個体の体があたりを照らす。

 

 特異個体は実体を現したクリプトビオシスの状態で白い皮膚に火傷のような損傷を負っていた。

 

 石通は正面を見た。もうどうすることも出来ない。水上バイクは動かせない。第一立坑側近くの階段、第一立坑の階段へも泳いでいっても間に合わない。

 

 まるで勝利宣言かのように特異個体は満面の笑みを浮かべるように大きな口を開け、水上バイクの先端から飲み込みながら石通ごと水上バイクを丸呑みにしようした。

 

 大量出血し諦めて下を向いた。運命を受け入れる。選択肢がないように思えた。

 

 水上バイクは前部からゆっくり呑み込まれていく。

 

 英原を取り込んだ通常個体の死体は水面で燃えさかる。

 

 英原の言葉が頭に浮かぶ。

 

 問題の本質を迅速に解決する。

 


 ボックスの中の箱形爆弾の起爆装置タイマーを作動させる。他には手榴弾型が10個残っていた。タイマーが起動した。10秒後に爆発する。

 

 安全帯を取り外し存在を忘れていたカメラを見た。ねじで取り付けられたカメラを取り外して、水上バイクの外へと投げた。

 

 特異個体に飲み込まれる前に水上バイクから水面へと飛び降りた。

 

 水の中に入り、石通の体は真っ暗闇の中、水中へと沈んでいった。

 

 爆弾タイマーゼロになった。

 

 特異個体は水上バイク9割を飲み込んだ所で光を放ちながら水面上で大爆発を起こした。

 

 水中から爆発の様子を見えた。

 

 水面で白い炎が光り輝く。

 

 流れ出る血液が濁った水の中へと流れ出ていった。

 

 水中内で苦しくなる。

 

 あきらめたくても本能はまだ生きたいと強く主張した。

 

 息が苦しくなり、破損したダイビングタンクを脱着し水中から急いで水面まで浮上した。

 

 

 水面から顔を出す。

 

 調圧水槽の排水は始まらなかった。

 

 

 水面では特殊個体の死体が白い炎を上げ燃えていた。

 

 急いで呼吸しながら近くの肉片らしき塊につかまった。

 

 

 浮き輪代わりに物体につかまり貯水された水の波に揺られた。

 

 カメラは近くで浮いているのが確認出来た。赤いランプは依然、点灯していた。

 

 英原を取り込んだ通常個体の死体もまだ白い炎をあげ燃え続けていた。

 

 水中から何かが浮上する音が聞こえた。

 

 クリプトビアビナントの通常個体が姿を現した。

 

 水面から半分、姿を現した。その場に留まりじっと石通の方へ体を向けている。

 

 また別の場所から他の個体が姿を現した。

 

 次々と何体もの通常個体が姿を現す。

 

 5個ある立坑のどれかから侵入し、トンネルを泳いで調圧水槽へと辿り着いたのだった。

 

 体長5mの10体の通常個体に取り囲まれた。

 

 太い柱の間から石通の様子をじっと見ていた。

 

 石通は自分がつかまってる物体を見た。

 

 物体は透明な部分と白い部分があった。

 

 透明な部分に注目すると物体の中に気泡があり、気泡のなかに透明な10cmの八本足の生物のシルエットが見えた。物体内に無数に存在した。

 

 石通がつかまっている物体は特異個体の肉片ではなく、排出されたクリプトビアビナントの卵だった。中で幼体が動いている様子はなかった。特異個体の皮に包まれ、大きさがバラバラで20個程あった。完全に死滅しているか確認が取れない。

 

 通常個体たちが攻撃してこないのは卵の近くにいるからだと思われる。

 

 石通は上腕動脈をひっかかれ、大量出血し致命傷を負っていた。

 

 自力での脱出は困難だった。

 

 この場所にいる英原のチームのメンバーは全滅して全員死亡した。何の形にしても救助がここに来てくれる望みは薄い。また特異個体を撃破した瞬間もちゃんと撮影出来ているか映像を送信出来ているかも不確かだった。

 

 浮き輪代わりにしている卵も孵化するかもしれない。


 

 でも、せめて自分自身には少しだけでも勝てたかもしれない。

 


 石通は水面で水に浸かりながら卵の上で息絶えた。

 

 暗闇の中、調圧水槽内を白い炎が静かに照らしていた。

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深淵からの魔物 塩入秋人 @Sioiri

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