おいは令嬢。婚約破棄んために相撲する

爆速ヤンキー山田

おいは令嬢。婚約破棄んために相撲する

「どげんしてんといえしよごたったらおいに相撲で勝て!」


城ん皇太子ん部屋で、おいは怒鳴った。


横綱昇進祝いん時、フグ毒に当たっておいん相撲人生は幕を閉じた。と、思うとおいはカルトヴィン皇国ん公爵ん娘としてこん世界に生を受けた。


世話をすっとが召使じゃとしてん、生んで大切にしてくれちょった両親には感謝しちょい。じゃっで、令嬢としてん教育には全力で応えた。そんお陰か、両親には可愛がられ、自慢ん娘となった。そして15歳になり、こん国ん皇太子のドミトリーと婚約が決まった。だがこん男は酷か男じゃ。召使をモノ扱いすったぁ当然。今日なんかは、生まれたときからおいに仕えてくれちょった侍女んメアリーをうったくり飛ばした。そこでち、先程ん言葉が出た。


「わいとん婚約はやむっ! どげんしてんといえしよごたったらおいに相撲で勝て!」


「え、えっと……マチルダ様……?」


うったくり……殴り飛ばされたメアリーが焦った顔でゆた。昔からおいを知っちょっ彼女は理解はでく。じゃっどん、そいをここで出すなち言おごたっとじゃろ。皇太子は、あっけにとられちょい。いけんいけん、ち熱うなって昔ん言葉が出てしもた。


「マチルダ。先程の言葉はどういう意味なのだ……?」


皇太子も、ほんのこて言葉が分からんやったちゅう顔で聞いてくる。


「ん、んん……貴方との婚約はやめる。どうしても結婚したかったら私に相撲で勝ちなさい。そう、言ったのです」


咳払いをしっせぇ、稽古に稽古を重ねた外行きん言葉でゆた。おやっどんとおっかんには申し訳なかが、こげん男に付いていったぁ我慢ならん。


「スモー……? それより、婚約をやめるとはどういうことだ!? そんなことは―――」


「貴方なんかと結婚するくらいならその辺の犬と結婚します」


「貴様……!」


皇太子ん顔が怒りに染ま。


「それに、条件はつけました。相撲のルールは簡単に言ってしまえば相手を押し出すか転ばせるかすればいいというものです」


「押し合い……自分の妻となる女性とそんなことをするというのは紳士としてよろしくないなあ」


皇太子は鼻で笑うた。


「やったらなんでメアリーん事うったくった! どこが紳士じゃ! んん……とにかく、勝てなければ婚約は破棄します。嫌なら私に相撲で勝ってください。それとも……貴方みたいな立派な男性が私に勝てないとでも言いますの?」


「馬鹿を言うな。いいだろう。スモーだかなんだか知らないが、受けて立とうじゃないか。それで勝てば結婚するのだろう?」


「ええ。貴方が勝てば結婚しますし、なんでもいう事を聞きますわ。ただし、負けたら婚約は破棄します。よろしいですか?」


「いいだろう。その華奢な体を怪我させてしまわないかが心配だよ」


余裕そうに皇太子はゆ。


そう、今んおいは華奢な少女。見た目だけはやけど。


「では、すぐにでも勝負いたしましょう。庭へ」


「今すぐか?」


「ええ。少しでも早く畜生との結婚を破棄したいので」


挑発しとうて皇太子にゆた。


「マチルダ様、おやめください!」


我に返ったメアリーが慌てておいを止む。じゃっどん、こうなったやもう遅か。おいは大声で皇太子と婚約ん破棄を巡って勝負すっち言いふらしながら城を歩いて庭へ出た。


庭へ出っと、ないん騒ぎかと、人が大勢集まった。


「土俵は……これくらいで。足の裏以外を地面に着くか、土俵の外に出たら負け。いいですね?」


靴でよか具合に円を描っせぇ、皇太子にゆ。


「……何故こんなに人を集めるような真似を」


怒った様子で皇太子はゆ。


「約束を反故にされては困りますから。皆さん! 私の侍女は皇太子殿下に殴られた! 我慢ならないので今から私は皇太子殿下と勝負をいたします! 私が勝てば殿下と私の婚約は無かったことにする約束です。皆さんはその見届け人! よろしいでしょうか?」


野次馬達は口々にないかをゆどん、大体は分かった、ちゅう意味ん言葉じゃ。


「……負けたらなんでもいう事を聞くんだな?」


皇太子は周りに聞けるごつ大きな声でゆた。


「ええ。それじゃ、勝負といきましょう。のこった、という言葉が始まりの合図ですわ。メアリー、合図を任せるわ」


最早勝負を止むったぁ無理と悟ったんか、メアリーはコクリと頷く。


「気合を入れるっど!」


足元まであるスカートを膝上ん位置で破く。


「マチルダ様! はしたないです!」


「こげん長かスカートじゃ相撲はとれん! 久しぶりん大いっばんだ! 恰好なんか気にしていられん! おいがこうなったや聞かんのは知っちょっじゃろ!」


メアリーん言葉を無視してスカートを短うした。


「はぁ……じゃあ、お二人とも、準備してください」


塵を切り、四股を踏み、仕切りをす。皇太子も、見ろう見まねで仕切りをす。


「はっけよい、のこった!」


メアリーが合図をす。


立会いん瞬間、強烈にぶちかます。吹っ飛ぶ皇太子。


「……あん細か男相手に、ちょっとやりすぎかもしれん」


ないごてか筋力は健在やった。流石に小せ頃は控えめやったが、今や全盛期と同じ力があ。


「気絶してますねえ。どうしましょうか……」


こん先ん事を考えたんか、青うなるメアリー。


観客はちゅうと、大いに盛り上がっちょい。あん男をよう思うちょらんしは多かったげな。すっと、人混みん中から大きな男が現る。


「まさか……」


顔は整うちょっとは言えんどん、相撲をとらせたらよか勝負をすっじゃろうちゅう体つき。第二皇子じゃ。そん第二皇子が近ぢておいん肩を掴ん。


「まさか、白海関! 白海関ですか!? 横綱になった白海関! あの四股、あのぶちかまし! それにあの言葉回し! 姿が変わっても分かります! あの日死んで、こちらに来たんでしょう!?」


「……そげんわいは?」


おいん四股名を知っちょって、あげん風にゆとじゃ。きっと向こうん世界で祝うてくれただれかじゃち思うどん。


「谷口 次郎! 四股名は琴竜島!」


「次郎!? 次郎か! わいもこっちに来ちょったなんて……今はアレクセイ第二皇子、やったか?」


まさかおいと同じ境遇ん奴がおったとは。次郎はようできた後輩やった。部屋に入った時から面倒を見ちょったが、十両に昇進した時はそんたもう嬉しかった。


「そうです。まさか兄上の婚約相手が白海関だったなんて」


「もうちご。皇族を吹っ飛ばした不届きもんじゃ。ここまで育ててくれたおやっどんとおっかんに顔向けできん」


「……それなら」


次郎はよか考えがあ、ちゅうような顔をしてゆた。


「俺がなんとかします! 許してもらえるよう、父上に言ってみます!」


「そんた悪か。わいん立場が悪うな」


「いいんです。兄上のことは俺も内心大嫌いでして。最高にスカッとした」


まだ遠慮しようとすっと、


「何の騒ぎだこれは!」


陛下が現れた。


「ち、父上! あの暴力女が私を吹き飛ばし……」


いつん間に起きたんか、皇太子が泣きっ面で陛下にゆ。


「マチルダ公爵令嬢か。……その言葉は本当か?」


陛下がおいに聞いた。


「……ええ。ただ、勝負を受けたのは皇太子殿下ですわ」


「勝負とは?」


「殿下の侍女への態度があまりにも酷かったので、婚約を破棄してもらいたく、殿下に勝負を挑みました。相撲、というものです」


「……ふむ。本当にお主が吹き飛ばしたと?」


「はい。勝負とはいえ皇太子に怪我をさせたのは事実。どんな罪でも受けますわ」


言い訳は女々しか。ついやってしもたこととはいえ、相手が相手じゃ。おやっどん、おっかん、すまん。


「父上! 彼女の行動を招いたのは兄上の行いです! どうか慈悲ある判断を!」


「……」


黙り込ん陛下。次郎ん説得も無駄に終わったかもしれん。


「はっはっは! まさか婚約者を吹き飛ばす令嬢がいるとは! 褒められた行為ではないが、その前に罰するべき者がいる」


陛下は皇太子へ向き直る。


「ドミトリー! こんな華奢な令嬢に吹き飛ばされるとは何事か! 我が国は武力の国だぞ! その象徴たる皇族がそんなザマでいいはずがあるか! 加えて私に泣きつくなど情けないことこの上ない! お前は謹慎だ!」


「……は?」


たまがった顔をす皇太子。


「聞こえなかったか! 謹慎と言ったのだ! 分かったらさっさと部屋へ戻れこの腰抜けが!」


あまりんたまがりに腰を抜かした皇太子ん尻を蹴り飛ばす勢いで陛下はゆた。逃ぐっごつ立ち去っ皇太子。


「すまんな、無様な息子で。強い女はいい。強い子供を産む。……ところで、二人は知り合いだったのか?」


次郎とおいん顔を見てゆ陛下。


「あー……い、いえ! たまたま気が合ったと言いますか! 初対面です父上!」


次郎が取り繕う。


「そうか……アレクセイ。お前も年頃だ。折角だから、マチルダ殿はどうだ?」


「それはつまり……」


「結婚しろと言っているのだ。マチルダ殿の噂はいいものが多い。それ故、ドミトリーと婚約させたが……あんな腰抜けに国は任せられん! 前々から思っていたが、アイツはなよなよしすぎている! アレクセイ! 今から皇太子はお前だ!」


「は……はい父上! 尽力します! しかし、いきなり結婚というのも……」


次郎はおいに目線を向く。おいに気を遣うちょるんじゃろ。


「私は構いません。アレクセイ皇子になら、妻としてできることはなんでもしましょう」


あげん男より百倍よか。そいに、どうせだいかしらとは結婚せんにゃならんど。そいであれば信頼でく次郎とんといえは望ましか。そう思い、次郎に身を寄せる。


「白……マチルダ殿!?」


驚く次郎。


「おいも結婚せんなこっちんおやっどんおっかんに顔向けできん。悪かどん呑んでくれ」


小声でゆと、


「……分かりました。父上! 私は彼女と結婚いたします!」


「うむ。公爵にも連絡をしなければならないな。まあ、今日はひとまず帰れ。細かいことは追って連絡する」


「分かりました陛下。ありがとうございます」


恭しゅう、外行きん礼をす。陛下は、そんまま去って行た。


「俺で、本当にいいんですか? 白海関は今可愛らしいから俺はまだいいですけど、そっちからしたら……」


心配そうにこちらを見る次郎。


「言おごたっことは分か。じゃっどんよか。皇太子んところに嫁げばおやっどんとおっかんは喜ぶ。どうせだいかと結婚すっど。ならわいがよか」


「……じゃあこれから、よろしくお願いします!」


「ああ。よろしゅう、旦那どん」

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