【Epilogue & Prologue】へなへなぺたり。

 一方。


 皆と別れて家へと向かう絵里は皆の笑顔を思い浮かべつつ、達成感に体を熱くさせていた。


(和樹君も心ちゃんもみんなも笑ってくれてた。和樹君も、パパさんのお話ができるまで待てそうって言ってた! 頑張ってみてよかった!)


 立ち止まって両手でガッツポーズをした絵里は、眼前でそんな自分を見て微笑んだ通行人達に慌ててお辞儀をして歩き出す。


(でも、もしあの人だったら……もっとこう、さらっと、ググっと! 励ます事ができたんじゃないかな。酔っぱらった人が怒ってても、普通に会話してたし……)


 絵里は自分を救ってくれたスーツ姿の男性のその広い背中を思い出し、左胸を押さえた。


(お礼、言いたいなあ。また会えないかなあ。テンパって顔も見てないとか、私サイアク……いや、でも! 可能性はゼロじゃない、私が諦めなければいいだけ。絶対絶対、お礼を言うんだ! ……あああ、女子力足りてないかも! それまでに女子力を気合いで上げてかないとお!」


 何故女子力を上げる必要があるのか、という部分に気づかない絵里は、家の門と玄関の間で拳を握りしめ、手紙とお菓子を入れた通学鞄をさすっては頬に手を当てたりと忙しい。


 そこで、玄関の扉が開いた。


「……何してるの? 玄関のセンサーがちっかちっか反応してるのに誰も来ないから見てみたら、娘の制服を着て娘のフリをした挙動不審者が怪しい創作ダンスしてるから驚いたわよ」

「何それ! ひどいよもう! ただいまぁ」

「お帰り。いいのできた?」


 エプロン姿で出迎えた母親の言葉に首を傾げる。


「いいの? いいのってなあに?」

「頑張ってPOPとキャッチコピー作るから、帰ったら感想聞かせてねって言ってたじゃない」

「………………ああああああああ~」 


 絵里は、へなへなぺたりとその場に座り込んだ。


「忘れちゃってたなんて……そんな馬鹿にゃ……」

「あらら、図書館に何しに行ったんだか。ほらほら、手を洗ってうがいしてきなさい。ご飯、手伝ってー」

「はーい……」


 フラフラと立ち上がった絵里は、本来の目的をすっかり忘れ去っていた自分にガックリしながらも、図書館での出会いやいっぱいの笑顔を思い出し、『ご飯を食べて、頑張るぞ!』と気合いを入れ直したのだった。



 数日後、絵里は頑張って、POPを完成させた。『猫の王子様』はこっそりとこちらでも、猫の手を貸してくれたようである。


 丁寧に書き込まれたキャッチコピーと紹介文にアップルパイの画像と手書きのイラストが添えられたポスターの出来栄えは、オーナーの大橋やスタッフ達が『賄いのデザートにアップルパイを!』熱望するほどであり、その反応に絵里は大喜びした。


 そうして、オーナーの熱意とスタッフ達の協力と絵里の頑張りでお披露目された新メニューのアップルパイは甘味のイチ押しメニューとして、瞬く間に創作カフェ【プチ=フラン】の名物となっていったのだ。



 絵里はまだ、知る由もない。


 後日、図書館に行くたびに「お話のお姉さん」「カツオのおねえちゃん」「猫のお姉さん」と呼ばれ、毎回子供たちにもみくちゃにされながら話をせがまれる事を。


 そして。


 自分を救った九重恭介ここのえ きょうすけとの再会が待っていることを。


 

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【新】とある日の絵里 ~カツ夫と海の仲間達~「私は、助けてくれたあの人の名前も、何も知らない。」IFストーリー マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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