第7話

 メイとはその後、ギルド面接時に起きたことを話した。


 その最中、僕のなかでずっと渦巻いていたのはメイの動かなくなってしまった脚のこと。あの事件以降、麻痺して感覚すらないらしい。


 残念ながら僕が治癒弾ラブ・バレットを習得したときには有効期限は切れていた。もし間に合っていたとしても僕の魔力じゃ役に立てたのかもわからないけど。


 ただ、だからといって治すことを諦めたわけじゃない。


「それじゃあ、また明日来るから」


「私も子供じゃないんだから、無理して毎日来なくても大丈夫だからね。疲れが溜まったレボルが倒れてしまっては本末転倒だし」


「ありがとう。でも、僕にとってはメイの顔を見るのが一番の癒しなんだ」


「……うん、私も」


 別れ際、惜しむように頬にキスをする。

 殆ど外に出られないおかげか、陽に荒らされずに保たれてきたその滑らかさは唇でも感じられる。


「今度こそ、またね」


 もちろん玄関から出るところを誰かに見られるわけにもいかないので、庭側から周囲を慎重に確認してから道路に出る。


 そうして、自宅へと向かった。


 まだ太陽が見える時間。メイの家同様共働きの両親は帰っていない。


 自室で白紙をテーブルに広げ、今日得た就職祝いから諸々の経費を抜いた15万Gを貯金額推移と書いた列に収入として書き記す。


「これで目標額まであと685万Gか……」


 僕とメイの夢のひとつは叶った。それは外の世界を覗けないメイの代わりに僕がギルドメンバーとなること。そして、そこで見聞したことをメイに教えてあげること。


 ただ、僕には僕個人の夢もある。

 それはメイの脚を治すこと。


 あの日、あのとき、僕が魔弾を習得していたら全ては変わったかもしれない。治癒弾ラブ・バレットを習得していれば重度を軽く出来たかもしれない。


 そもそも僕がペットの犬のリードをちゃんと握っていれば……。


「やめよう。この前メイに怒られたばっかだ」


 私の前でありのままのレボルを見せて欲しいけど、私のことでレボルが暗くなる必要はないんだよって。


 とりあえず今日はもう寝て、明日からメイのためにモンスター狩りを頑張ろう。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 早朝、日課のランニングと魔弾の確認を終え、母さんが作り置きしておいてくれたサンドイッチを片手にギルドに向かった。


「おはようございます」


 なかには先輩方がちらほらいたので軽く会釈だけして、サーシャさんに話しかける。


 昨日初めてお顔を見たからまだその美しさに目を奪われてしまう。凛としていて大人の女性って感じ。


 そんな感想を抱いちゃう僕は子供なんだなとも痛感するんだけど。


「おはよう。今日が初狩りですか?」


「はい! 昨日はあの後解散になったので。凄い楽しみでワクワクしちゃって」


「そうなってしまうのは仕方ありませんが、戦場に赴けば常に危険に晒されますからね。気を引き締めておいた方がいいですよ」


「そうですよね。ありがとうございます」


 アドバイスを貰ってしまった。狩人でもないサーシャさんに。


 ここからは一歩間違えれば死を迎える可能性だってあるってことを念頭においておかないといけないな。


「おっはよー!」


 そんなところに明るく大きな声が聞こえてくる。

 僕だけでなく、なかにいたギルドメンバーの全員がその持ち主に目を向けた。


 やっぱりミトさんは有名人なんだな。


「えーっと、レボルくん、レボルくんは……おっ、はっけーん!」


 感心していたら赤髪を揺らしたミトさんがやってきた。

 朝から元気いっぱいで凄いなぁ。


「おはようございます、ミトさん」


「おはよー。サーシャもおはよ」


 声を掛けられたサーシャさんは適当に返して奥に戻っていく。


「さあ、今日の討伐目標はもう決めてるから、あとはサーシャから依頼書の紙もらって出ちゃおうか」


「そんなすぐに行くものなんですか?僕、準備がちゃんと出来てるかわかんないんですけど」


「まあ、ちゃんと魔弾撃てれば大丈夫だから。後続支援は任せたよ」


 本当に大丈夫なのかな……。


 にっこにこで言われると逆に不安になる。とりあえずやってみようの精神で話されているんじゃないかって。


「できる限り頑張ります」


 それでもこう言うしかないんだけどさ。


「はい、これ」


 そこにサーシャさんが依頼書を持って帰ってきた。


「ありがと。じゃあ、行こっか」


 そう言うとパッと手を掴まれ、引っ張られる。


「えっ?」


 あまりの展開の早さについていくのが精一杯でなんとか体勢を崩さないよう足を動かした。


 気をつけていくのよという、もう僕にしか届いていないであろうサーシャさんからの言葉と、いろいろと置いてけぼりの先輩方からの視線を背に受けながら。

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