第6話

「ただいま」


 落ち着き払ったメイを見ると、自然とこちらも心が静かになる。


「汗、拭きなさい」


「う、うん」


 まるで僕がそうなると分かっていたかのように、タオルを差し出してくれた。


 それを受け取り、ありがたく使わせてもらったところで急いでここに来た理由を思い出す。


「そうだ!メイに見せたいものがあるんだ」


 ポケットのなか、丁寧に折りたたんだ紙を取り出して渡す。


「今日はギルド面接の日だったものね。ということは、これはあれかしら?」


「まあまあ、それはなかを見てからのお楽しみで」


 僕たちの夢がそこには書かれている。


 メイの表情が一瞬にしておもちゃを買ってもらった子供のように輝きに満ち溢れた。

 僕の誰にも渡したくない宝物だ。そして、僕が二度と失ってはいけないもの。


「ギルド:エングリフはレボル・シェルマンへの討伐依頼を承認することをここに証する」


 メイは読み上げた承認書を目に焼き付けようと上から下までもう一度確認したあと、僕と目が合う。


「レボル!」


 バッと広げられた細く白い腕。


 躊躇なくその腕に包まれる。


「おめでとう!」


「メイが喜んでくれて嬉しいよ。これからはたくさんモンスターを狩った話ができるし」


「楽しみだなー。レボルは私が見られない景色をいつも教えてくれるから」


 そんなの当たり前だよ。だって、メイがそうなってしまったのは僕のせいでもあるんだから。


 もちろん言葉にはしないし、メイの前で暗い顔をする気もないし、にこにこと抱きしめあって温もりを感じる。

 ていうか、汗臭くないかな……。


「でも、これからはお仕事で来れない日がうまれるのね」


「そのことなんだけどね、実は僕がお世話になる人がちょっと特別な人で」


「特別ってどういう意味?」


 声色が低くなった!?


「それはもちろんギルド内で特殊な人っていうことだよ!」


「そうよね。で、その人がどうしたの?」


「1日に1回しか狩りをしないから多分時間には余裕があると思う。それでもって収入面もある程度確保されてそうなんだ」


「本当?レボルのことだから無理しているとは思わないけど、今度から一人暮らしを始めるのに心配よ」


 そうくると思っていましたよ。


 メイはひとつ年上だからか、いつも僕のことを気にかけてくれる。時に過保護なところはあるけれど、愛情を感じられてその日の疲れが全て吹き飛ぶ。


「一応ね、参考用に今日の換金書をもらってきたんだ。それがこれなんだけど」


 離れてさっき就職祝いと貰った紙を渡す。


「どれどれ…………」


 なかを確認したあとの表情が固まった。

 わかる、わかるよメイ。僕ら一般市民はそうなるよね。


 これを平然と渡すミトさんの金銭感覚が早くも心配だ。


「20万Gなんて、これ、本当に1日のお給料なの?だって私のお母さんがひと月に稼いでいる分の半分よ?」


「怖いことに現実らしいんだ」


「でもそれだけ危ないってことじゃないの?お仕事で1日2日会えなくなるのは仕方のないことだけど、もうずっと顔を見れなくなるなんて嫌よ」


 僕らにとって未知故の恐怖にメイは声を震わせた。


 そんなメイを大丈夫だと安心させるために、頭をゆっくりと撫でながら話しかける。


「僕はそういう危険にも立ち向かうためにこれまで魔弾を磨いてきたんだ。そして、治癒弾ラブ・バレットを編み出した。

 ギルドの人に聞いたら本当に唯一無二の能力だったんだよ。

 僕はそれを駆使して必ず毎日を生き延びるから、ずっと傍にいて見守ってくれたメイは信じて待っていて欲しい」


 すこしの沈黙の後、メイが小さく頷いてくれた。


 メイのなかで僕の存在が大きなものになっているのは嬉しいな。だけど、それだけ傷つけてしまう可能性も高くなっているということ。

 モンスター狩りの帰りはこれまで通りメイに顔を見せに来よう。

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