第1章
第5話 誰よりも救いたい人
僕の名前が記されたギルド承認書をお姉さん、改めサーシャさんから受け取った。
ようやくこれでスタート地点に立てたんだ。
「ここで満足していてはダメですからね。ミトにみっちりと基礎の基礎から教わるように」
「はい! 本当にありがとうございます!」
2人に頭を下げ、感謝を伝える。
それはそれとして、今日はこのあとモンスター狩りに行くのかな? それとも勉強会と称して戦闘の基本を教えてもらえるのかな?
期待を込めてミトさんの方を見てみる。
「じゃあ、行こっか」
どうやら伝わったみたいだ。何をするかはわからないけど、小さく頷き先にギルドから出ていく後を追う。
「気をつけていってらっしゃい」
去り際、サーシャさんに手を振り僕も出る。ギルドメンバーとして初めてここから出発する町の景色。
何も変わらないはずなのに輝いて見えるのは僕の内なる炎が燃え始めたからかな。
そうしてすこし歩いたところで前を歩くミトさんが振り返った。
「さて、サーシャに声が聞こえない距離に来たところだし、これからのこと話そうか 」
「は、はい!」
いつ話し始めるんだろうってドキドキしてた。
なんでも僕はミトさんについて行くつもりだ。さぁ、どんとこい!
「とりあえず今日はもう解散で」
「…………」
「明日からさっそく一緒にモンスターを狩りに行くからちゃんと寝て身体休めるんだぞ!」
…………は!?
さっきわかったよ! みたいな顔して頷いてましたよね!?
せっかくギルドメンバーになれたのに、ウズウズしてたのに!
「あ、あの、ミトさんはそれで稼げているんですか?」
急に不安になってきた。
もしこれからも1日1回の狩りだけなら、そもそも分配割合も低くなりそうな僕はまともに稼げるのかな?
それこそサーシャさんの言ったように初心者組と組んだ方が良かった……なんて結末待ってないよね?
稼ぎ頭が嘘なんてことはないと信じているけど、そもそも額を知らないからあのギルドの最高額が少額という可能性も残っているし。
「貰っても仕方ないくらいには……あー、もしかしてこの人本当に大丈夫かって怖くなっちゃった?」
「す、すみません。疑いたいわけじゃないんですけど、初心者だからいろいろとわからなくて」
わざわざ合格を貰う前からパートナーに選んでくれた人になんて失礼なことを聞いてしまったんだろう。
それでも明るい表情のままでいてくれるミトさんの心の余裕を見習わないと。
「気にしないで。それと、これあげる」
「えっ?」
渡された紙はこんな僕でも内容を見ずともわかる。これが討伐報酬金が記された換金書だということは。
だってサーシャさんのサインとギルド印がおされているから。
「あげるって、なかを見てもいいんですか?」
「んーん、そのままあげるってこと」
「いやいやいや! さすがに受け取れませんよ! 一切関わっていない狩りの報酬なんて」
変に気を遣わせてしまったのかもしれない。申し訳ないよ、こんなの。
「そんな困った顔しなくていいからさ。先輩からの就職祝いだと思って受け取ってよ」
「でも……」
「本当に気にしなくていいって。明日からの報酬は9:1で分配だから」
「はい?」
9、9:1?
実力不足なのは認めますけど、それにしても酷すぎませんか!?
「あはははは、そんなあわあわしちゃって、冗談だよ冗談! ちゃんと折半」
「それはそれで申し訳ないですよ」
「どうして? レボルくんがいなかったら深傷負って最悪死ぬ可能性はあるんだし、レボルくんはレボルくんで私がいなきゃ狩りできないし、対等でしょ。だから折半。
実力、実績がどうとか関係ないから」
「……本当に、ありがとうございます!」
深々と頭を下げる。
ここまで勢いで押していた人だからそんなふうに考えてくれているなんて思っていなかった。ミトさんに引っ張ってもらうって決めて良かった。
「じゃあ、私はもう帰るから。明日は7時くらいにギルド前集合ね」
「はい! また明日!」
そうしてミトさんの姿が完全に見えなくなるまで待って視線を手に持つ紙に落とす。
さて、一応はこれが初めての報酬になるわけで、このあと換金所まで持っていけば僕のお金になる。
ま、まあ就職祝いとはいえ全額渡してもいいくらいってことは1万、2万Gかな。ミトさんの受ける討伐依頼の難易度を加味しても5万くらいだと思う。
それでも嬉しい。8割は貯金して2割でメイになにか買ってあげようって言っても、結局10割メイのために使ってることに変わりないんだけど。
一度息を吐いて緊張をほぐす。
……よし、これで大丈夫。
そうしてバッと勢いよく開いた。
◇◇◇◇◇◇
全速力で住宅街を駆け抜けていく。額を流れる汗など気にせずにただひたすらに自宅方向に向かって。
あとすこし先に出てくるT字路を左に曲がれば家が見えてくる。でも、僕はそのまま直進して100mほどのところにある立派な2階建ての家の裏手側で足を止めた。
額を流れる汗は太陽からくる暑さか、それとも興奮か。自分でもわからない。
そんなことよりも早くメイに会いたい!
肩で息をしながら周囲を何度も見渡して人の姿がないことを確認する。そして、急いで目の前の家の塀に手をかけて上り、なかに入った。
もし誰かに見られでもしていたら不審者極まりない様子だっただろう。
さあ、ここで焦っちゃいけない。
僕は握りしめた手のなかにある小石をカーテンで遮られた掃き出し窓に山なりで当てる。
息を整えながら待っているとなかからトントントンと叩き返された。もうおばさんもおじさんも仕事に行ったみたいだ。
そうして鍵の開いた窓を開き、カーテンをくぐった先、ベッドを起こし背中を預けているメイが今日も僕を柔らかい笑みで迎えてくれる。
「おかえり」
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