第8話

 ミトさんに森のなかを連れ回されること2時間、未だにどのモンスターが標的なのかすら教えてもらってない。


「あの、いつもこんな感じなんですか?」


 魔法は魔弾しか使えないけど、身体は鍛えているから疲れはない。にしても、見知らぬ世界だからこそなにも知らずに行動するのは恐怖が募る。


「そだよー。大体のモンスターはこの森のなかにいるからね。歩いてたら見つかるし、見つかんなかっても何かしらのモンスターは絶対出てくるし、それ狩ってあとで依頼受けちゃったらいいから」


「そんな適当でいいんですか……」


「ずっと気張ってるのは疲れちゃうじゃん?」


 いや、大抵のモンスターは生息地とか活動時間の情報が収集されているから、それを覚えれば楽に狩れるんじゃ。


 ミトさんの場合、その強さのあまり情報の薄いモンスターを相手に戦っている可能性はあるけども。


「なんとなく、ミトさんの性格が分かった気がします」


「そう? 凄いね、レボルくんは。ところでそんな賢いレボルくんにひとつ聞きたいんだけど」


「なんですか?」


「私たちがどこから来たかわかる?」


 あっ、これ迷ったやつだ。絶対さっきまで話し逸らして時間稼いだけど、結局正解見つけられなくて聞いてきたやつだ。


 ニコニコしても誤魔化せませんよ!?


「えっと、僕はこの森初めてでミトさんのことを信用してついてきたので、全然覚えてないです。ごめんなさい」


「えー、じゃあ私たちどうやって帰るのさ」


 それはこっちのセリフですよ!


 どうして新米の僕に何も言わず頼もうとしたんですか!? なにか一言あれば方角覚えておくなり印つけるなりしましたけど!


「と、とりあえずさっき言った通り、適当にモンスター狩ってから考えましょうよ。ほらっ、あそこにソウウルフいますよ!」


 その名の通り、突然変異で生まれた狼。頭部にギザギザとしたツノが生えていて殺傷能力が高いことで有名だ。


「ラッキー! 今日の獲物、あの子なんだよね」


 なんて豪運。ただ、ラッキーだなんて軽く言っていいようなモンスターじゃない。

 毎年数十人は死傷事故が報告されている危険種。


 たとえミトさんが強者だからといって無傷で済むような──


「よーし、さっそくヤッちゃうから魔弾の援護よろしくね!」


「ちょ、ちょっと待って!」


 僕の声に制する力などなく、思えば自然と携帯していて気にもならなかった大剣を手にソウウルフに向かって一直線に走り出した。


 しかも、その僕の声に反応してソウウルフがこっちを視認してしまった。

 牙を剥き出して威嚇している。


 とにかくいつでも援護射撃をできるように照準を定め、魔弾の形をつくり構えよう。


「おりゃぁぁぁああああ!!」


「えぇ!?」


 そのまま猪突猛進に行くんですか!?

 なんだかんだ身体能力の高さをいかした戦術で翻弄しながら戦うのかと思っていたけど、おバカさんなんだなぁ。


 その野生地味た勢いに一瞬押されたソウウルフだったけど、すぐに獲物をミトさんに定めて噛み付こうと飛び掛かる。


 勝負は呻き声すら聞こえぬ早さで決した。


 ソウウルフを二分にする剣筋が通り、鮮血をミトさんは一身に浴びた。その姿は残虐的に見られかねないものだけど、どこか美しさを感じさせるのは僕が喜色に染まった笑みをこちらに向けているミトさんに恐怖を抱き、心が混乱して錯覚を見せているからだろうか。


 僕の魔弾なんて必要ない。


 それを理解するのに時間は要らない。それほどまでに圧倒的な強さを見せつけられた。


「どう?私、凄いでしょ?」


 ビュンビュンと風を切るんじゃないかと自分でも疑うほどの全力で頷きを返す。


 逆らえるわけがない。


「よーし! じゃあ、次行ってみよ」


 僕は見失わないよう赤い足跡を追っていく。


 これでここまでは容易に帰ってこられるだろう。

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