第3話

 問題事を表で起こしたくないというお姉さんの要望のもと、ギルド内にある応接室に通された。

 普段はお偉いさんが来たときくらいしか使わないらしい。ミトさんですら殆ど入ったことがないと言っていた。


「先に聞いておくけど、その魔弾はミトの腕を貫通するのですか?」


「いえ、たとえ攻撃用の魔弾でも、そこまでの威力は出せません。あくまで対モンスター用の魔法なので」


 それを聞いて一安心といった感じでお姉さんが息を吐く。さっき速さのあまり的を貫通したことに驚いていたものな。

 心配になるのはわかる。


「じゃあ、腕を出してください」


 ソファに腰掛けているミトさんの前に立ち、素直に突き出された腕を確認する。

 たしかに綺麗な肌のなかに赤く擦れ、血がすこし滲んでいる箇所があった。


「この傷、今日出来たものなんですよね?」


「そうだよ。新鮮も新鮮」


「そんなニコニコして言われても困るんですけど……まあ、それなら問題ありません」


 余程未知の魔法を見ることに好奇心を抱く性格なのか、この部屋に通される前に数分待たされたときもいろいろと質問攻めされた。


 いつ治癒弾ラブ・バレットを習得したのかとかそもそも何が要因で生まれたのかとか、あまりにもプライベートな話だからそこは丁重にお断りしたけど。


「それでは失礼します」


 銃の形をつくり、ミトさんの腕に向ける。


 その間未知に恍惚とした表情でいられるミトさんがギルドの稼ぎ頭っていうのが妙に納得出来た。


「はやく! はやく!」


「3……2……1」


 0と同時に引き金を引く。

 刹那放たれるピンクのオーラを纏った魔弾がミトさんの傷跡に触れる。距離が近いから着弾まで僕でさえ一切軌道が見えなかった。


 魔弾と共に溶けるように消えた傷跡。治癒効果の証明には十分だろう。


「おお! おおーー!!」


 っ!?

 ミトさんが驚きと未知に触れられた喜びではしゃいでる……ちょっと可愛い。


「ほら、見てよ! 綺麗さっぱり無くなったんだけど!」


 見せられたお姉さんもお姉さんで懐疑的だったからか、驚きが徐々に興味へと移っているように思える。


 これなら合格を貰えるんじゃないかな?


「たしかに傷跡は消えているし、魔弾の影響もなさそうね……怪我の程度が軽いものだったから、治癒魔法の評価が低いレボル君でも治ったのかもしれないわ」


「それは……仰る通りです。でも、治癒効果は本物、そして治癒弾ラブ・バレットも本物。世界で僕にしか使えないんです!

 さあ、改めて合否判定をお願いします!」


 ここで押す。今は印象がプラス方面に傾いているはずだ。


 その証拠にお姉さんは希少価値どうこうとぶつぶつ言っているし。


「てかさ」


 そこにミトさんが割って入ってきた。ちょいちょいと近付くよう手招いてくる。


「どうしました?」


「レボル君、私のパートナーになりなよ」


「…………はい?」


「だから、私と一緒に組もうよ。私、ソロだし、ヒーラーとパーティー組んでも何故かすぐ辞められちゃうんだよね」


 それは多分ミトさんが強すぎて退屈だったり、モンスターのレベルが高すぎて危険だったり、そこらが理由なんじゃないのかな。


 でももしその誘いが本気なら、ありがたく乗らせて頂きたい。たとえ分け前が2割でも、稼ぎ頭のミトさんなら十分な報酬を貰えるはずだから。それを貯めて僕は……。


「僕でいいならむしろお願いしたいです。ただその為にはまずは合格しないと」


「なるほどね。じゃあ、任せなさい」


 ん? どういうことだろう。


「ねぇ、サーシャ」


 ミトさんが悩むお姉さんの思考を止める。

 邪魔しないでと言いたそうに、なに? と答えた。


「レボル君、私が貰っていくからよろしく」


「…………はあ!?」

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