第2話
お姉さんがロックラビットの毛に薄く切り傷を入れようと小型ナイフを取り出したときだった。
「ちょっと待って、せっかくだから私で検証してみてよ」
ミトさんが声を上げる。
どんな理由かはわからないけれど、実際に使うのは人相手が殆どだろうから効果を確認するならより信憑性が増すはず。
「ありがたい提案ね。でも、もしレボル君の治癒効果が魔弾に適用されていなかったらミトの身体に傷が付いてしまうでしょう。このギルドの稼ぎ頭にそんな危険な役目を任せられないわ」
稼ぎ頭⁉ ミトさん、そんな凄い人だったの⁉
いや、たしかにバッタバッタとモンスターをなぎ倒してそうなくらい大剣を軽く持っていたけどさ。
それにしても実力と信頼のある人が前向きな態度でいてくれるなら、協力を願いたい。
お姉さんは僕の
……治癒効果が適用される条件はあるけどね。たとえばいつその傷を背負ってしまった、とか。
「安心してよ。余程のクズじゃない限り、その私も聞いたことのない技が嘘だというのに実験台になろうとしている人間が現れて平静でいられるわけないんだから」
「それは……そうかもしれないけれど、その余程のものの可能性があるじゃない」
あの、本人が目の前に居るんですけど……。
ここまでの僕の行動に不審なところはなかっただろうし、実力不足の第一判断に意識が先行しているんだろうな。
「大丈夫です!」
お姉さんとミトさんが声に驚く。
「お姉さんの心配の仕方であれば、試験のためとはいえその子を傷つけるのさえ好まれる行為じゃないでしょうし、そのナイフ貸してください。すこしの痛みくらい、どうってことないですから」
これでいい。
そうだ、痛みを感じられるということは生きているということ。痛みを知らない痛みを僕は知っている。
それに比べれば、そしてそこから救うためなら僕はいくらでも自分を傷つけよう。
そうしてお姉さんからナイフを受け取る。
「ちょっと待ってよ。だから、そんなことする必要ないって。責任はちゃんと私が持つからさ、レボル君のその技を受けさせて欲しいの。傷ならさっきの狩りで擦っちゃったところあるし!」
手首に当てようとしたナイフをミトさんに取り上げられ、食い気味にそんなことを頼まれてしまった。
「でも……」
ちらとお姉さんの顔を窺う。
僕の視線を追うようにミトさんもお姉さんの方を見た。
2人に見つめられるお姉さんは困ったとため息を吐く。
「あー、もう分かりました。ミトがそこまで言うなら認めますよ、話も全然進まないし」
「わかってんじゃん」
ミトさんが嬉しそうに肩に腕を回す。
お姉さんはすこし照れくさそう。こういうのを許せるくらいの信頼関係がすこし羨ましい。
「その代わり!」
表情を作り直してビシッと人差し指を僕たちに向かって立ててくる。
「ミトが今回の件で受けたことに関して一切の責任をギルドが持たないことと、もし
これは相当怒ってるなぁ。
もちろん問題はないんだけどさ。ギルドに就職出来たあとの気まずさは残るだろうな。
「わかりました。それでお願いします」
でも、とりあえずはこれでようやく
胸の高鳴りが止まらないね。
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