落ちこぼれ神鳥使い、八つ当たりで契約したコウモリが実はのじゃロリな神様でした

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

落ちこぼれ神鳥使い、八つ当たりで契約したコウモリが実はのじゃロリな神様でした

 また僕は葉っぱと折れた枝にまみれて、下草のクッションに尻もちをついていた。

 痛みはどうでもいい。悲しいことに慣れっこだ。

 それよりくやしさといらだたしさがどうしようもなくて、僕は頭を振ってくせ毛と眼鏡に絡んだ葉っぱをまき散らしながら、木漏れ日に向かって叫んだ。


「くそー!! なんでどの鳥も僕じゃダメなんだよチクショー!!」


 そうしたら背後でいきなりばさばさと羽音が聞こえて、予想外のことだったので僕は情けなく飛び上がってまた尻もちをついてしまった。

 後ろにいたもの。鳥。燃えるような赤色の翼は実際に火の粉を飛ばしていて、頭の羽飾りがナイフみたいにピンと立派で、そして首周りには首輪のように光の紋様が浮かんでいる。

 この光の紋様は契約済みの証。そしてこの鳥の契約者が誰か、僕は知っている。

 はたして木立ちの向こうから、僕の想像した通りの人物が現れた。


「よーうガリ勉のフィルー。相変わらず契約神鳥の一羽も捕まらないまま頑張ってるのかー?」


 へらへらと笑う、ツンツン頭でノッポの男子。幼なじみのバーナードだ。


「フィルはいっつも勉強勉強ばっかでつまんねーヤツだから鳥にも避けられてんのかもなーハハハ」


「ちょ、やめろよ髪の毛くしゃくしゃになるだろー」


「元からだろー元からー」


 フィルこと僕の頭を、バーナードは笑ってくしゃくしゃなでてくる。同じ十五歳なのに頭ひとつ背が違ってくやしい。


「こんな調子じゃ一人前の『神鳥使い』になれるのはいつになるのかねえ? 王立図書館に行くどころか村からも出られねーんじゃねーの?」


「うるっさいな、だから頑張ってるんだろ。邪魔するなら帰れよー」


「なんだよー様子見に来てやったのにー」


 バーナードはへらへらと笑って、真っ赤な契約神鳥を肩に止まらせた。


「ま、もし一緒に王都に行けなかったら、オレが読みたい本を借りてきてやるから安心しなー。向こうでカノジョとかできたら帰ってこないかもしれねーけど」


「隣町のちっちゃい図書館ですら必要な本を間違えてくるバーナードじゃ、王立図書館で本探しなんて無理だろ」


 バーナードはそりゃそうだとへらへら笑って、だからおまえが頑張れよーと言い残して去っていった。

 なんだかモヤモヤする。からかわれたような、微妙にはげまされたような。


「……ま、やるしかないんだ。勉強だけは人一倍やってる。どんな鳥でもいい、とりあえず一羽契約できれば、一人前だって認められるんだ」


 意気込みを新たに、僕はまた鳥を探して、森を歩き始めた。


 僕らの暮らすフェクラザウン村は、鳥と魔法の契約を結んで使役したり潜在能力を引き出したりする『神鳥使い』を代々輩出する村だ。

 僕の両親を含め、村の人間はそのほとんどが神鳥使いの家系で、鳥と契約することができれば一人前として認められる。

 一人前になれば王都に行くことができて、王立図書館で貴重な本を読んでめいっぱい勉強ができる……と、思ってたんだけど。


「あの鳥も、その鳥も、この鳥も……なんで契約の魔法が効かないんだよー!」


 何度試しても、どんな鳥に試しても、契約の魔法が成立しない。

 ちゃんと魔法は使えてるはずなのに。日々の勉強を活かして、契約の魔法は思いっきり複雑な呪文を織り込んだ、ものすごく高度なものを使ってるのに。

 なんならいろんな本を読み込んでいろんな分野の魔法を混ぜ込んだ、世界にきっと僕しか使っていないオリジナルアレンジ魔法なんだけど。


「どっかにいないか……僕にも契約できる鳥は……あでっ!?」


 鳥を探して木の上ばっか見ていた僕は、足元にあったものに気づかず踏んで、滑って転んだ。

 打ったお尻をさすりながら何を踏んだかと見てみれば、このあたりに自生しているノヤマリンゴの実の軸だった。

 誰かが食べて捨てていったのか。誰かというより、野生動物の何かだろうか。無性に腹が立った。僕がこれだけ必死こいて頑張ってるのに、のんきに木の実を食べてる何かがこの辺にいるんだと。

 どこの誰か。探したら見つかった。木陰の濃い暗がり、木の枝にぶら下がって、一匹のコウモリ。口の周りにノヤマリンゴの種をつけて、ぐーすか寝ている。

 余計に腹が立った。


 コウモリは僕らフェクラザウン村の人間にとって嫌われ者だ。鳥みたいに空を飛ぶくせに鳥じゃないから契約もできないし、木の実や作物を食い荒らして鳥や僕ら人間の生活をおびやかす害獣。

 あとこの状況では僕が必死こいて頑張ってるそばでおいしいもの食べて眠りこけてるっていう個人的なムカつきがあった。


 僕は契約の魔法を構えた。

 たいした意味はない。ただの八つ当たり。契約の魔法を、鳥以外の人や動物に当てると不快感があるって聞いたから。

 指先に魔力を集めて、空中に魔法陣を描き出して、コウモリに向けて発射した。


「ふぎゃー!?」


 魔法陣が当たった途端、コウモリは人間みたいな声を出して落っこちた。

 なんか不思議に感じて、落下地点に歩み寄った。そして仰天した。

 地面に落ちたコウモリの姿が溶けるみたいに変形して、そこに現れたのは契約の魔法の光る首輪をつけた、ものすごく長い銀髪と宝石みたいな真っ赤な目をした女の子だった。

 女の子はわたわたとまくし立てた。


「え、ちょ、え!? おぬし何してくれたんじゃ!?

 ちょ、これ神鳥使いの契約の魔法!? でもなんかめちゃくちゃ魔改造しまくって術式がめちゃくちゃなのじゃ!? こんなんじゃ契約できる鳥も契約できん……てかなんでわしと契約しとるんじゃー!?

 えっちょ、これどうなっとるんじゃ!? 魔改造のせいで契約対象がおかしくなってコウモリのわしと契約しおったんか!? ちょ、術式が複雑なうえにパーツが無駄に高度で解除できん、ちょーいこれどうすんじゃー!?」


 わめき倒す、コウモリだった女の子。

 僕は状況が理解できずに、ただぼうぜんと見ていた。

 そうしているうちに、女の子はじとりとこちらに目を向けて、それから飛び蹴りをかましてきた。


「このガキャー!! 神聖なるコウモリの神たるチロップ様に何してくれとんじゃー!!」


「へぶぅー!?」




 そんなこんなで、僕の神鳥使いとしての初契約は、コウモリになってしまった。

 このコウモリことチロップという女の子は、実はえらい神様で、人間界をのんべんだらりと過ごしていたのだそうで。

 僕との契約のせいで神々のすみかに帰ることもできなくなり、僕の契約神鳥として過ごすしかなくなったそうで。


 のちに僕たちは、世界を揺るがす大事件に巻き込まれて、チロップの力を借りて死に物狂いで頑張ったりするんだけれど。

 それはまた、先のお話。

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