最後はやっぱり大円団!!

長いソファにふんぞり返って、これまた長い脚を組み換えながら、勝ち誇った顔のアルさん。

僕は、アルさんの横にちょこんと座る。

目の前には、カンヘルが険しい顔で立っていた。


「てことだから、今後、リュカに指一本触れてはならんよ」

悪の帝王みたいな低い声…

分かってるよな…という圧力を感じる。

それに対して、勇気を振り絞ったように、大きな声を出すカンヘル

「お言葉ですがっ!!アルビー王子!べランジュール様が入廷されたその日に、手篭めにされてますよね?我が王女の立場と、リュカの存在はどうお考えでおられるのですか?もし、リュカを妾などにするおつもりなら!王子と言えど、俺は許せませんっ!」

責めるような言い方にアルさんは、全く動じない。

僕の肩をぐっと引き寄せ、その手を滑らせ腰を抱くと

「リュカ、説明してあげて」

「えっ?ぼ、僕がですか?」

カンヘルの問いに答えない…非常に大人げないアルさんに変わって、仕方なく告げる

「あの、カンヘル…その声ね…あのさ、実は…僕なんだよ…ね」

めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!!

「えっ?!」

盛大に驚くカンヘルは、直立不動のままで固まっていた。


やっと、アルさんは説明する気になったらしく、重々しく口を開く

「よく聞けカンヘル。べランジュール王女とは、表面上は夫婦だが、そういう関係は一度も無いよ…仲間であり、同志ではあるけれど、王女には、他のお相手が居られるのだ。リュカの事は、王女もご存知だし、なんなら、我らを繋いだのは、王女自身だ」

開いた口は、しばらく閉じる事無く、ぼんやりするカンヘルに、畳み掛けるように、更に続けるアルさん

「いずれは、リュカとの事も公にしたいが、今はまだ準備段階だ、カンヘル、黙っていて欲しい。リュカの事は、本気だし、命果てるまで共に生きるという誓いも終えている」

トドメの一撃を与えた。


カンヘルは、目をパチパチさせたと思ったら、ついには、なんと泣き出してしまった

「リュカァァァ〜良かったじゃないかぁ〜幸せならそれでいいんだよ。もし、王子に捨てられたら、俺がいつでも貰ってやるからぁぁ〜」

「それは無い」

ピシャリとアルさんが言うが、聞いていないだろうカンヘルは、泣き笑いになって、僕を心から祝福してくれていた。

本当に良い奴なんだよな…是非とも、カンヘルには、他の誰かと幸せになって欲しい。


カンヘルが口外する事は、無さそうなので、ホッとしたが、それにしても、絶妙なタイミングでカンヘルが部屋に入ってきた事、そして、用心深いアルさんが鍵を閉めてなかった事が気になって…

アルさんに一応問うてみた

「ん?もちろん計算通りだけど?」

アッサリと、とんでもない答えが返ってくる。

信じられない…

「カンヘルは、単純だから…諦めて貰うには、手っ取り早いのが良いかなって、かなり腹も立ってたしね。見回りは護衛の仕事だし、あの時間帯を指定したのも俺だよ?上役だから。あの日になるとは思ってなかったけど、今回の視察中には、蹴りを付けるつもりだったんだよ」

極上級の麗しい満面の笑みで言われてしまった。

策士というか、アルさんって結構…暗黒大魔王だ。


「リュカを狙う奴なんて、消えればいいんだよ…」

ボソッと出た台詞は…

うん、聞かなかった事にしよう。


しばらくは、視察で得た情報などをまとめ、今後の国の発展に役立てるらしく、次の視察の予定は無いらしい。

僕は、メモした事を整理したり、御礼の手紙を各国に向けて書いたりと忙しい日々を送っていた。


北の国ニアラソルでは、男性向けのドレスが作られ始めたなんて、嘘か誠か…

ただ、北の国との国交がある東のエルメリア王国に里帰りしたべランジュール王女から聞いた話によると、アルビー王子には、男か女か分からない天使のような右筆官が居て、笑顔が見れたら幸運が訪れるらしい…と。

なんか、前にもどっかで聞いた事ある…その話。

みんな、幸運がどうたら…が好きなんだろう。


僕は、毎日山のような仕事を抱え、絶え間ぬ努力と根性で頑張っていたら…労う意味で、アルさんが招待したらしく、家族総出で僕を王宮まで尋ねて来てくれた。

父上は、僕を抱きしめ

「頑張ってるらしいな、リュカ、本当に顔立ちがしっかりしたね。一人前になって…」

母上も隣で頷き涙を流していて、姉上と兄上二人も一緒に、僕を労ってくれる。

「王宮で失敗して、一家で路頭に迷う覚悟もしていたのに、なんと、人生は分からぬものだな…で、王子との結婚はいつなのかね?」

父上からの言葉を今一度、反芻してみる。

王子との結婚は…いつ?


「え?ちょ、なんでっ?は?いや、どうしてーーー?」

「だって、アルビー王子と結婚するんだろ?まぁ、孫は諦めたが、いいんじゃないか?好きな人と結ばれるなんて、幸せな事だよ」

「待って!待って!いつ?それ、いつの話?知ったのいつだよ!」

「ん?あー、リュカお前、知らなかったのか?アルビー王子が隣の国の王女との結婚が決まった…と号外が出た次の日だったかな…我が家まで王子が来られてね」


待って、そんな前から?

若干パニックを起こしてる僕。


そこへ、コンコンとノックの音と共に現れたのは、愛しい策士

「失礼します、お久しぶりです。リュカは、立派にやってますよ」

アルさんが堂々たる歩みで入ってきた。しかも、なんだか慣れ慣れしさを漂わせていて、知らぬは僕だけ的な…

「アルさん!ねぇっ!父上に、言ってたの?結婚って!どういうこと!」

「はいはい、リュカ落ち着こうか?」

過呼吸みたいになっている僕の肩をポンと叩くアルさん

「俺は、塔のてっぺんで…あの時言ったよね?このまま進むよ…って。心は決まったんだよ、あの時に」

そこからだったと、僕の父上と母上に僕と結婚するという許可を貰いに行き、そのままべランジュール王女の元へ、断りをお願いしに行き…

帰国したらお針子に戻ってるリュカを見て、驚き動揺したと。


「父上は、大丈夫なの?僕達…男同士なんだよ?」

「まぁな、私も最初は反対したし、断ったんだけどな…王子の執念にほだされたというかな…」

母上が口を開く

「そうなんですよ…王子自ら、護衛も付けず…結局10回は我が家に来られて…頭を下げられて…そこまでの想いがある方を誰が止めれますか?」

「もう、最後には、一緒にご飯を食べ酒を酌み交わし…まぁ、リュカの事は、嫁にやったと思う事にしたさ」

父さんは、アルさんの方を見て言った。粘り勝ちとでも言うのか、アルさんがそこまでしていたとは知らず…


「俺はどうしても、リュカを諦められなかったからね」

アルさんが白状するみたいに言う、そして、今度は拳を突き上げる

「次に落とす壁は、我が父上であり、この国の王…ニコラオス・カーライル・クレメンテ・サレールシュタインだ!」

高らかな宣誓と共に、我が家の家族達も一緒に

「オーーーー!!」

なんてやってる。

仲良しかよ…

そして、その壁を落とすのも近いんでは無いかと思えるのは、やはり、アルさんが真っ直ぐに前を向いているから。そして、僕を必要としてくれているから。


僕も、小さくオー!って、やってみた。



END



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毒舌お針子の僕は男だとバレないよう女として王宮にて奮闘、王子の右腕に任命される あさぎ いろ @asagibyaku

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