第7話 変化
システィに案内されてたどり着いた場所は、言葉を選ばずに言えば廃墟だった。ボロボロで分かりづらいけど、元は多分教会だったんだろう。
確かにこれなら誰も寄り付かない。
でも、快適に過ごせるかと言われれば話は別だ。いや、今の状況で贅沢なんて言えないのは分かってるけどさ。
「心配しなくてもここで過ごすわけじゃない」
表情に考えが出ていたのか、先導するシスティが振り返ってそう言った。
なんか文句言ってるみたいになって恥ずかしいぞ……。
俺が妙な居心地の悪さを覚えていると、彼女は気にした様子もなく、そそくさと中へ足を踏み入れる。
外観と同じく荒れた内部を慣れた足取りで進むシスティは、とある一室で足を止めた。
パッと見た感じ、ただの荒れた部屋って感じだ。
彼女は地面に散らばった瓦礫の一部を動かすと、床に手をついて静止する。
すると突然床が動き出し、地下へと続く階段が姿を現した。
アニメや漫画でよく見かけたりする仕掛けだけど、実際目にすると結構凄いな。
どうなってんだろ、これ。
「なるほど、これが潜伏場所ってわけか」
「うん、魔力を注げば開くようになってる」
魔力って便利だなぁ。
どこか間抜けな感想を抱きながら階段を下る。
長さ自体は大したことはなく、十秒もすれば目的地へとたどり着いた。
「ここが私の隠れ家」
平坦な声で招かれたのは想像よりも広い空間だ。
奥行きは二十メートルはあるだろうか。広さの割には物が極端に少なく、寂れた印象を与えてくる。
ただ、生活感は残っていて、中央付近に積まれた物資がシスティがここを利用していたことを示していた。
「すごいな、よくこんな場所見つけられたな」
「眼のおかげ。私の魔眼は魔力の流れが見えるから、魔力的な仕掛けなら見破れる」
「流れ?」
なんかいまいちしっくりこない表現だ。
未来視とかなら出来ることが分かりやすいんだけどな。
「例えば、魔力の流れを見て相手がどんな感情を抱いているのか、なんてことも分かったりする」
「へぇ、俺に敵意がないって分かったのもその力のおかげってわけか」
「そういうこと」
うん、まあなんか人間不信になりそうな力だ。
身を守るには便利な力かもしれないけど、日常生活を送る分にはかえって神経をすり減らしかねない。
実際、苦労してきたんだろうなぁ。
「お前に他人の心配をしている暇があるのか?」
「……おっしゃる通りで」
上から落ちてきた呆れを含んだエルメラの発言が、ガツンと頭を殴りつける。
指摘はごもっともで返す言葉もない。
今はほんの少し状況が好転しただけで、俺にも平穏な日常なんて程遠いものだ。
泣き言のひとつでも言いたくなるよ、ほんと。
「今日はもう身体を休めろ。明日からは最低限使い物になるまで鍛えてやる」
「ああ、そうさせてもらう。……というわけでシスティ、今日はここらで休ませてもらうよ」
「うん、私もそうする」
今日は色々とありすぎて疲労が溜まりに溜まっている。身体を横たえると、意識はすぐに闇の中に消えた。
♢♢♢
聖都に置かれた教団本部の宿舎、その一室。
一年ほど前に与えられた部屋にはもう随分と慣れ、その日の目覚めの風景もまた代わり映えしないものだった。
だが、退屈とは思わない。
何事も平穏が一番だと、アルバーは常々そう思っているから。
だから、部屋を出て直属の上司の元へと向かう中、教団内が少しザワついていることに気付いた。
何か良くない噂話が流れているような、そんな雰囲気だ。
「……何だ?」
アルバーが言い知れぬ不安を感じていると、正面から見覚えのある少女が花咲くような笑顔で現れた。
「おはよう、アルバー!」
「ああ、おはよう、イリス」
彼女だけは普段と変わらない天真爛漫さで、アルバーの不安を紛らわせてくれる。
約一年前に己の師に強制的に教団に所属させられてから、ずっと付き合いのある少女だ。任務の際にも共に行動することが多く、アルバーにとってはかけがえのない友人のひとりである。
「どうしたの、浮かない顔して」
「何だか、教団内の雰囲気が少しおかしい気がして」
「んー、言われてみれば確かにそうかも」
きょろきょろと周囲を見渡すイリスの反応は淡白なものだ。明らかにおかしいと断言出来るほどの違和感ではないので仕方がない。
「杞憂ならそれが一番なんだけど」
「まあ、先生に訊けば何か分かるよ。遅刻する前に早く行こ!」
「確かに、怒ったカルティナさんはちょっと怖いからね」
「ちょっとどころじゃないよー!」
本人が聞けば絶対零度の視線を向けられること間違いなしの会話だ。
懸念が現実になる前に、二人は呼び出しを受けた部屋を目指して歩き出した。
序盤で破滅するモブ悪役に転生した俺が、最強の悪魔と共に黒幕ルートを進行した場合 夏月涼 @mutuki831
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