第7話  ナオコ 1



 三人姉妹の真ん中。

 姉と妹よりは放っておかれて育ったと思う。よくいる放任中間子。


 だからってわけじゃないけど、空気はよく読める。

 勘も鋭いほうだと思う。

 じゃんけんだけは……本当に弱いんだけどね。


 だからなんとなくは、わかっていた。




***




 ナチはカシワギが好きだ。


 いつから? たぶん、一年生の終わりにはもう好きだったんじゃないかと思う。

 本気かどうか……まではよくわからない。だって、先生って『先生』の仮面をかぶってる。『生徒』のナチは素のカシワギを知らない。素のカシワギをみても好きだと思うのなら、本気なのかな。


 あのコはわりと好きと嫌いがはっきりとしている。

 とくに嫌いなのは、いきってるコたち。

 そういうコは外見的にもわかりやすく主張したがるよね。

 それをナチは子どもじみてると切って捨てる。


 わたしに言わせれば、わかりやすいのはカワイイと思うよ。逆に大人にとって扱いずらいのは、ぱっと見だけじゃわかりにくい、ナチみたいなコじゃないかな。



 でも、ナチのことは好き。


 大人からしたら扱いにくくても、友だちとしてはいいヤツだし。ちょっとだけ尖ってるかもしれないけど、悪くはない。意地が悪いとかじゃないしね。なんていうか、ある意味まっすぐで正直なのかも。

 話してると楽しいよね。たぶん、この先ずっと付き合ってゆける相手だと思う。


 

 入学式でサチを見たときには、すぐに髪の色に目がいった。薄い茶の中にもちょぴり赤みが混じっているような色。太陽の光に透けるとその赤みが際立って、ブラッドオレンジの果汁の色みたいだと思った。


 よく見ると目の色も薄かった。青みがかった薄い茶色。訊くと、おじいさんがヨーロッパの国の出身だと教えてくれた。


 とにかくサチは成績が良い。

 なんでこの学校に入学したんだろう。もしかすると、第一志望の本命校に落ちて、二次試験を受けた入学組かもしれない。そのへんの事情は訊かないよ。話したくないかもしれないから。


 うちの学校は致命的に人気がない。毎年のように募集人数にとどかなくて、定員割れを起こしている。


 不人気の理由なんか単純。茶畑と住宅街の中にあって、周りには遊ぶようなお店も施設もなんにもないし、制服は可愛くないし、校則も厳しいから。なのになんでか、わたしたちの代は女子の数が多かった。


 まあ、サチが二次試験組なら、そのおかげでわたしたちは友だちになれたわけだけど。


 ふたりは大切な友だちだと思っている。


 だけど……ナチに対するサチの気持ちは。


 もしかしたら少し、違うのかもしれない。





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