第11話 働けクソギルマス

 いや、昼間から寝るなよ。 働けクソギルマス。

 とギルド職員たちが意識を共有する中で、ハンズたちクズ冒険者は顔を青ざめさせた。


「ギ、ギルマス」


「やべぇ……」


隻眼の偉丈夫。

左目をまたぐ大きな傷が特徴のスキンヘッドの厳めしい男だ。

年齢はまだ40代半ばといったところだろうか。

現代日本で出くわしたら絶対に道を譲る。 暗闇で出くわしたらおしっこちびるくらい怖いおじさんである。


「ハンズうぅうう! 俺様の一番嫌いなことをいってみろぉおおお、このクズがあああああ!!」


「うえぇええ!?」


超速で近づいたギルマスはハンズの頭を鷲掴みにした。

ハンズの体が宙に浮く。

ハンズもけっして背が低いほうではないが、ギルマスが大きすぎる。

太った男が横に大きいならば、ギルマスは上に高い。

筋骨隆々の2メートル以上ある化け物だ。


「あだだだだだだーー!?」


鬼人の血を半分引くギルマスの膂力にハンズの頭蓋骨が悲鳴を上げる。


「ワシが一番嫌いなのはなぁ! お昼寝を邪魔されることじゃあああああ!!」


「ぎやあああああああああああああ!?」


てめぇ寝てたのかよ、働けゴリラ。と最近はエルフ関係で忙しく残業続きのギルド職員は思った。


「やばい人きたブヒ……」


そのやりとりを見ていたタクマは握りしめていた手を慌てて離した。

さきほどまで絶叫を上げていたクズ冒険者は泡を吹いて白目を向けている。

やりすぎである。

まだ力の加減になれていないタクマであった。



◇◆◇


「なるほどのぉ……」


くだらん、と言いたげなギルマスは落としどころを考えていた。

冒険者にとってメンツとはことのほか重要である。

結局は力がすべて。

冒険者登録をしたばかりの新人に舐められたままではハンズたちも引けないだろう。

それこそ闇討ちで亡き者にでもしなければ彼らの格好はつかない。


ただそれを許せば今度は冒険者ギルドが無能と思われることになる。


ましてギルマスが出張っているのだ。

ここで納得のいくかたちで終わらせてこそギルマスである。

ギルマスのメンツに関わる。


「おぬしはどうしたい?」


太った男はギルマスの鋭い瞳に見つめながら答えを返す。

それは意外な物だった。


「フードファイトで決着をつけるブヒ」


「ふーどふぁいと?」


「そうぶひ! 僕の国でもっとも神聖な決闘法ブヒ!」


如何様な決闘法かはわからないが、ギルマスはその決意を組んだ。

男同士が決闘で決着を付ける。

よい、実によいではないか!と鬼人の血が騒いだからである。


「して、ふーどふぁいと……その決闘法は?」


「大食い対決ブヒ!!」


はたしてポーメリウス迷宮都市にフードファイトが正式な決闘法として誕生した瞬間であった。



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