第12話 フードファイト!

ガタガタと冒険者ギルドに併設された酒場の机が並び替えられていく。

それは特設ステージ。

新人冒険者とクズ冒険者の諍いを収める為の決闘のステージ。


「一対三でいいブヒ」


「なにぃ?」


やけに太った男は言い放つ。

まとめて相手にしてやるからかかってこい、と、……漢ではないか。

隻眼のギルマスは感嘆した。

見れば太った男からはオーラが解き放たれている。

強者の風格である。


「素人ブヒ。 ハンデをやらないとかわいそうブヒ」


煽る!

顔の肉を歪め意地悪気な笑みを浮かべる。実にムカつく言い方だ。 

クズ冒険者たちは顔を赤くしこめかみの血管が浮き出している。

怖いギルマスがいなければ殴りかかっていただろう。


「では、三人が食べ一番多い者とお主を比べるということで良いか?」


フードファイトの概要は伝えた。

要は大食い勝負。これを聞いたクズ冒険者たちは安堵した。なぜなら新人の冒険者は知らないかもしれないが、ベテランの冒険者は健啖家が多いのだ。

単純に肉体労働をするからというわけではなく、肉体のレベルアップに伴い食事量がふえていく。もちろん個人差はあるが。

魔物を倒しレベルアップを果たすと、体力や耐久力、魔力の増加などの恩恵を得る。自然回復力も上昇するのだが、その影響ともいわれている。


「違うブヒ。三人の合計と勝負でいいぶひ」


「っ!?」


「くそッ舐めやがって! もう遅えぜえ?後悔させてやるよッ!!」


さすがにそれは無理だろうと。ギルマスは止めようと思ったがハンズたちの怒りも限界だった。その条件でいくしかない。


「……わかった。 そして負けたほうは謝罪し、かかった費用を支払うのだな?」


「そうブヒ。 それに今後出くわしたら食事をおごるブヒ。 一生ブヒ!」


「お主ぃ!?」


さらに追加される条件。

負けたらどうするつもりなのか、クズ冒険者たちは喜び嗤う。

馬鹿な新人に世間の厳しさを教えてやると……。


「っ、もうよいわ。 さっさと始めるぞ!」


はたしてフードファイトのフードファイターの恐ろしさを知ったのはどちらだろうか。



◇◆◇



「なんなの?」


迷宮探索を終えてギルドに戻ってきた冒険者が呟いた。

いつもとは違うギルドの熱狂に驚いたからだ。


「ちょっと、アミナちゃんコレなんなの?」


騒ぎの元は酒場にあった。

主に男たちが応援や罵詈雑言を投げかけている。

中にはギルド職員までが日ごろの鬱憤をぶつけるように叫んでいた。


「決闘……らしいです」


「ご飯食べる決闘……?」


男どもはアホなことをやっているなぁと、女性冒険者は興味をなくした。


「食え! 食え! 死んでも食えええ!!」


「おい! 負けたらぶっ殺すぞハンズ!!」


冒険者は男の比率が多い。

スキルや魔法のある世界だ。女性でも活躍する冒険者は多いが、危険で野蛮で汚い仕事。やはり男性比率が多い。それも野蛮な。

ギャンブル好きの男性冒険者たちはこれ幸いと賭けを始めた。


オッズは一対三十。

そのほとんどがクズ冒険者三人に賭けている。


「うぐぅ、ぐっ、もう、くえねぇ」


「……」


「どうして、こんな……」


対戦食材はフォレストウルフのワイルドステーキ。

ポーメリウス冒険者ギルド併設酒場の名物料理である。

それは、とにかく安くボリュームのある商品だ。

主に初心者探索者を支えるためのサービス品である。

迷宮の浅い場所で大量にとれる素材ということもあるが。

最近はエルフ向けに新たなソースが作られ、料理長も交代している。


「おかわりブヒ~♪」


賭けに興じる冒険者からの殺気で青褪めるハンズたちをよそに、太った男は無慈悲なおかわりを告げる。


「おいおい? あのデブ何皿目だ?」


「これで16皿目だぞ!?」


「ありえねぇええええ!?」


運ばれてきたアツアツのワイルドステーキ。

太った男はフォークを突き立てワイルドに嚙み千切る。

顔の肉をゆらしながら咀嚼する。

観客に向けてのパフォーマンスも忘れない。

実に憎たらしい笑みを全方向に向けて食らう、喰らう、喰らううううう!!


「くそおおお! 負けるなハンズ!!」


ワイルドステーキの重量は約500グラム。

すでに太った男は7.5キロの肉を完食している。

対して3人いるハンズたちは……。


(嘘だろ……ありえねぇ……)


負けるはずなどない。

なんなら1対1だって勝てるつもりでいた。

それがどうだろう、始まってみれば勝負にすらなっていない。


(こっちを見てやがる……)


太った男は横で並ぶハンズたちを見ていた。

実に嫌な顔を向けて。


(……調整している?)


最初こそ威勢よく食べ始めたハンズたちが勝っていたが、今では一皿分逆転されている。

ハンズは今まで四皿くらいは食べたことがあったが、すでに限界を超え六皿目だ。

自分自身をよく食べるほうだと思っていたが違っていたと思い知る。


「美味しいブヒ! このソースが最高ブヒね~~!」


新料理長の開発した、迷宮でとれるハチミツと果物を使ったソースは甘じょっぱく濃厚でおいしい。

ただし大量に摂取していると吐き気を催すが。


「もう、ダメ、――だっあうえええええええええええええおえっ」


煌めく嘔吐。

連鎖する嘔吐は、決闘終了の音色となった。



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