エピローグ
以下、後日発見された彼女の机に入っていた手紙である。
「藍原くんへ
私が死んでしまったあとでも、あなたはあなたのままでいるのでしょうか。少しは変わってくれなければ、私は自信をなくしてしまいます。とにかく、この三ヶ月間本当にありがとう。
君はあの雨の都心の中で、私に好きだと言ってくれましたね。藍原くん、遅いです。私はずっとずっと前、君がこの病院に来たときから、君の存在を求めていましたよ。あの日、図書コーナーであなたを見かけたときは奇跡かと思いました。だから私、急いで抗がん剤で髪の毛のなくなった頭にウィッグをして、急いで化粧して、咳が出そうになるのをなるべくこらえるようにして、君と会っていたんです。懐かしいですね。ライ麦畑のような話し方をする君には、思わず笑ってしまいそうになりましたよ。
二人でカフェや庭園で毎日の午後を過ごしたのも、忘れられません。私はなるべく君の前では笑顔になるよう振る舞ったんですけど、難しかったですね。どうしても、自分の死期っていうのが君といると感じてしまって、感傷的になってしまいました。でも君がいたから、私は素直に、毎日を楽しめたんだと思います。
この手紙を読んでいるということは、私の膵臓の手術は失敗して、私はもう君に会うことができないのでしょう。そこで、藍原くんには絶対に伝えておきたいことがあります。これだけは、照れくさいけどできる限り覚えておいてください。私からの言葉です。
藍原くん。君は、私の「初恋」の人です。
君が私を好きになってくれているか、あの新宿での君の言葉まで、ずっと気になっていて、不安で仕方ありませんでした。死ぬまであと僅かしかないと心の中で思っていても、どこかでやっぱり君と恋したいと思っていたし、私には君しかいないと思っていました。
君には迷惑をかけたかもしれない。君は私のせいで大変な思いばかりしたかもしれない。だけれど、私の思いはもう実際に言ったとも思うけれどこうなんです。
忘れないでとは言いません。人はいつかやっぱり忘れてしまうものですから。けれども君と過ごした砂糖のように甘い時間は、私の中で、あるいは私を包んでいます。私は絶対に、君のことを忘れません。
最後に言わさせてください。
私を好きになってくれて、一緒に過ごしてくれて、本当にありがとう。私はやっぱり、藍原くんのことが大好きです」
〈完〉
言葉シュガー 三葉 @mituha-syousetsu_
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