第16話 二度目の家

 映画が終わって、やけに騒がしく感じる館外へと出た。


 感想を簡単に言えば、想像以上に面白かった。

 タイトルからは想像できないようなギャップもあり、案外楽しめた気がする。


 それは映画を選んだ心陽こはるも同じようで、映画の余韻に浸っているような、何を考えているのかわかりやすい表情をしたままだった。


「ね、よかったでしょ」


 彼女がこちらを向いたかと思えば、そんなことをドヤ顔で言いながら親指を立てた。

 ドヤるところなんて一つもないと思ったけど、まあ一応俺は言葉を飲み込んだ。


「うん、まあ確かに」


 ただ一つ、複雑な気持ちになった点があるとするならば。

 授業中に紙に文字を書いて告白したモブが、盛大にフラれているシーンだろうか。

 自分の姿と重なって割と恥ずかしくもなったし、胸に刺さったりしたのだった。


 それからは昼ごはんを食べたりゲームセンターで遊んだりして、気付けばもう午後4時だった。

 朝からいるというのもあってか、もう特にしたいことが無くなってしまった俺たちは、今度こそ心陽こはるの家で遊ぶことに。


「……もうちょっとで一日が終わっちゃうんだよね……」


 帰り道を歩きながら、彼女は寂しそうにそう呟いた。

 心陽こはるの表情からして、もっと遊んでいたかったのだろうと思うと俺も嬉しくなった。


「まあそうだな……。別に会えなくなるわけじゃないのに結構残念だな」

「私も同感。……ねね、今日の夜通話しない?」

「あー、全然いいよ」

「やったー!」


 純粋に喜ぶようにバンザイする彼女を見ていると、俺までその気持が移ってきた。

 そのままの勢いで手を繋ぎ、家までは漫画などについての話題で会話に花を咲かせたのだった。





◇ □ ◇ □ ◇





 昨日も来たはずなのに、妙に新鮮に感じる彼女の部屋を眺め、俺は改めて好きな人と付き合えていることを実感できた。

 言葉では言い表しにくい、なんかいい感じ。

 雰囲気も同じく。


「うわぁ……、結翔ゆいとが私の部屋にいる……」


 嬉しそうにはにかみながら、そう呟いた心陽こはるにどうしても目がいってしまう。

 特にすることが無くて、ベッドに腰を降ろして並んで座っているだけだというのに、それでも十分幸せに感じる。


「ねえ」


 しばらく静かな時間ができてから、彼女は唐突に声を出した。


「ん?」

「あのさ……、えっと……」


 何を言いたいのかわからないが、急に伝えたいことを上手く言葉にできなくなった心陽こはるを、俺はじっと見つめてみた。

 焦らないように、なるべく優しめに。


 その瞬間、彼女との顔の距離があっという間に詰められ、気付いたときには唇が重ねられていた。

 何故か、キスされたのだ。


「ッ――――!?」


 びっくりして、思わず俺は顔を後ろに下げたが、後悔するのにそう時間はかからなかった。


 一瞬触れただけのような感じになってしまったが、心陽こはるの柔らかい温かさだけはしっかりと記憶に残ったのだった。

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両思いじゃなかったはずの彼女に、何故か愛されすぎて困ってます(訳:幸せです) よるくらげ。 @Lonely_RatsuH_

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